人理の灰   作:終わり無き苦悩の針

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第七話

藤丸立香らが特異点より帰還した翌日。

現在行動可能な人員は以下の時刻に会議室に集まる事、と朝に放送が流れた。

会議室。

立香がカルデアを訪れたその日、居眠りをかまして追い出されたその場所である。

マシュに会議室の事を尋ね、その返答で思い至った立香は思わずうめき声をあげた。

 

指定された時刻より5分ほど前に会議室へと到着したマシュと立香は、廊下に立つカルデア所長、オルガマリーの姿を見つけた。

 

「おはようございます、所長」

 

「お、おはようございます。所長」

 

「おはよう。藤丸、マシュ。待ってたわ」

 

最高責任者が待ってたとは。なんだかぞっとしない話だなぁと立香は思う。

学校で言うなら校長で、会社で言うなら社長だ。

そんな人物がいち社員を待っていた、とは。将来が心配になる事案である。

 

状況にそぐわない呑気な事を考える立香を他所に、オルガマリーは貴方達はこっちと部屋の前面に向けて大量に並べられた椅子ではなく、それらと向かいあう形で反対側の壁際に少数設置された椅子へと案内された。

5つある椅子のうち、既に2つにはロマニとレオナルドが座っていた。

おはようございますと挨拶をしながらも、この如何にも偉そうな配置の場所に座るのかと思い立香は気後れした。

 

はいこれ、と紙の資料をロマニが手渡してくる。

何だろうと思いつつ、マシュもレオナルドから同じ資料を受け取っているのを見て、背後を振り返ってみれば既にある程度揃っているカルデアのスタッフ全員が同じ資料を持ち、眺めているのが見えた。

どうやら各席に備えられている模様で、会議室だし昨日言ってた説明とかに使うんだろうな、と立香は受け取る。

ちょっとした厚みのあるそれを受け取ると、ロマニはさっき出来上がったばっかりなんだよと後頭部を掻きながら零す。

彼の顔を見てみれば、少し疲れた様な顔で、うっすらとクマのようなものもみえた。

先の事故で人手がごっそりと減った中、その被害を纏めたり無事だった人員の管理などなど、色々忙しかったんだなと想像できた。

医療部門のトップらしいし、所長不在の時には暫定的とはいえ最高責任者だったんだっけ、とも。

 

お疲れ様ですと思わずねぎらうと、まだまだ頑張らなきゃいけないけどねと問題の深さが伺える返答が返ってきた。

これは自分も出来る事があれば手伝わなきゃいけないなと、得意とは言えないどころかほぼ未知の作業の数々を立香は想像していると、今のうちに少しでも読んでおきなさいとレオナルドが促す。

そういえばもう時間もないんだった、と急いで椅子に座り、資料を開く。

 

「立香君の場合は、特異点の事についてとかカルデアの現状以外の所をチェックしてくれていればいいよ」

 

適材適所だよ、と立香が把握しておくべきだろう箇所を伝えながら、現在もっともその言葉が似合わないであろうロマニは言う。

医療部門のトップがそのまま組織全体のトップになっていた事態だ。

適材適所、なんて言ってる場合ではなく出来る事を出来るだけやってなきゃいけないんだろうに。

その言葉と、暗に「お前には任せられる事はない」と言われた気がした立香は色々な意味でやるせない気持ちになる。

ともあれ確かに素人の自分が出来る事なんて限られてるか、とせめて指示された所には目を通すかと「特異点A『A.D.2004』についての暫定報告」のページを開いた。

 

 

 

 

 

資料に目を通し始めて然程時間が経たないうちに予定されていた時刻になり、会議は開始された。

集まった人数は30人もいないだろう。よっぽどの事がなければ全員集まる様にとの指示でこの数は、と事態の深刻さが改めて伺える。

会議……というよりは現状の報告会と言った方が正しいか。

現在のカルデアの稼働状況、受けた被害の規模、被害者の現状などがオルガマリーによって伝えられていく。

爆発はレイシフトを行なうに当たり必要となる機材が集中した中央官制室を中心となったらしく、それによって多数の機材が破損、そこにいたマスターの全員が重体。

すぐさま冷凍保存されていて、外部のしかるべき施設で処置をすれば蘇生は充分可能であろうとの事であるが、その外部との連絡は一切取れないまま。

爆発はその一つだけだったらしく、施設の維持に必要な各機関への影響はさほどないらしい。

特筆すべき被害者として、各部門のトップだったらしい人物達の名前が連ねられ、その中には当日立香も少しだけ話をしたレフ・ライノールの名もあった。

その名をあげた時の所長は心無しか泣きそうになっていたように見えたが、最高責任者たらんとしたのか数瞬で動揺を押し殺して報告を続けていく。

 

被害状況の次に現状の確認として外部との連絡の途絶など様々な事が(ここの辺りから特異点部分の記載を集中して読み込んだせいで報告を殆ど聞いていなかった。断じて寝ていた訳では無い)あって、とうとう特異点についての説明が始まる。

現状判明している事は少なく、あそこが2004年の日本の冬木という街であった事、そこで聖杯戦争という魔術儀式が行われていた事、それがある時突然に崩壊した事、特異点の原因となった聖杯はその儀式で用いられていたものであろう事。

その聖杯はセイバーと呼ばれるサーヴァントが手にしていた事、そのサーヴァントはカルデアの存在を知って尚その行動を妨害した事。

おそらく聖杯を回収した事で特異点は崩壊したであろう事など。

その殆どは立香も実際に体験し、またはキャスターのサーヴァントから聞いていたりしたのでめぼしい情報はあまりなかった。

特異点は崩壊し既に観測できなくなっており、訪れる事は出来ないという事と、今回の特異点とその事例を『特異点A』と呼ぶ事になったこと。カルデア側からは殆ど観測できなかったという事実があったらしい事を立香は始めて知った。

そして2004年の日本では考えられない程の大気中の成分だとマシュやオルガマリーは言ってた筈だけど、そんな報告は記載もは発表も無かったなと、話題が現地協力者の話に移った所で気が付いた。

 

現地協力者としてはキャスターのサーヴァント、クー・フーリンとアッシュ、それとデミ・サーヴァントとしてマシュがあげられた。

マシュはどうやらあそこで始めてデミ・サーヴァントと呼ばれる状態になったらしい。

名前を呼ばれたマシュは前に出て、改めてよろしくお願いしますと頭を下げた。

そういえば話に出てきたアッシュの姿がないなと気付いたちょうどその時、ドアが開き部屋に鎧姿の人物が入ってきた。

…………後ろ手縛られた状態で。

 

「えぇ…………」

 

絶句した。なんだあれ変態か。

カルデアスタッフも困惑したり動揺したりと先程までの静粛だった場が一気に雑音に塗れた。

何時もの様子を保っているのは所長くらいである。ロマニは幻覚かなと何度も目を擦っているしレオナルドは爆笑している。マシュは純粋に心配そうな表情を浮かべている。

そんな様子の部屋の中央を堂々と歩き最前方、オルガマリーの隣に鎧の男がくると、マスターである彼女は「彼が協力者のアッシュよ」とスタッフへ紹介を始めた。

そのまま行くのか。というよりアレ所長がやったのか。やったっぽい。

 

「——よもや、これは外さぬつもりか」

 

「施設を徘徊する武装した不審者への処置としてはかなり甘い筈よ。足を縛られないだけでも感謝しなさい」

 

「貴公……」

 

自らのサーヴァントを不審者呼ばわりだった。

紹介の段になっても拘束を解かれないと思っていなかったアッシュの抗議を一顧だにせず紹介を続けるオルガマリーを見て、アッシュは頭を垂れ「アッシュだ」と小さく呻いた。

大の男が顔も覆う全身鎧姿で手を拘束された状態で頭を下げる光景は、控えめに言って意味不明だった。

 

オルガマリーは朗々と紹介を済ませていく。

特異点Aで出会ったサーヴァントであり、カルデアに協力した存在であり、ここで再召喚された存在であり。

件の特異点Aの異常故か、彼の事については然程情報が得られない事など。

彼が拘束されている理由は、その紹介の中で語られた。

曰く「協力をしたものの情報に虚偽を交えた事など言動が信用ならない為」「武器を持ったままカルデア内を徘徊していた為」らしい。

虚偽ってつまり嘘をついてたって事で。それに戦闘能力を持たないスタッフが大多数を占める現在のカルデア内で武器を持ち歩いていればそりゃ拘束も止む無しか。

立香とマシュをはじめスタッフ一同は納得した。ロマニは苦笑いだった。レオナルドはまだ笑っている。

 

いや、なんかその哀愁を誘う滑稽な姿とレオナルドの爆笑が響くせいでうやむやになっているが、要素だけ見ると相当な危険人物なのではと冷静な考えが頭を過るが、オルガマリーが今は令呪で行動を制限しているので心配はいらないと続けた事で、同じ事を思ったらしいスタッフ達も胸を撫で下ろした。

そしてこれが彼のステータス等を纏めたものよ。そう言ってオルガマリーは表のようなものを宙に映し出した。

 

 

 

 

 

特に何事もなく会は進行した。

人員の不足により新たに各部門のトップを置き換える事。暫定的にオルガマリーとロマニとレオナルドで複数の役職を掛け持ちする事。

人数が減った事により一部稼働不可能、または必要がなくなった施設はそのまま一時凍結する事。

食料などの物資は通常通りの使用状況が続けば最低1年以上は保つ事など。

そして、と。ここからが本題だと前置きして、これからのカルデアについてと施設の最高責任者は語った。

 

人理の継続。その為に必要な特異点Aのような人類史の根底を脅かしかねない異常事態の解決。

それを以てカルデアスに再び正常な人の営みの火を灯し、世界を救う事。

『冠位指定』グランド・オーダー。それがこれからの我々がすべき事なのだと。

 

その為にまずは特異点の発見をしなければならないとオルガマリーは言う。

詳しい説明はレオナルドに任せるわと彼女は下がり、そこに変わる様に技術部門のトップであるレオナルド・ダ・ヴィンチが前に出た。

特異点Aは碌な観測が出来なかったが、その特異点が与える影響の揺らぎは観測できたので、それと似た波形を現在、過去、あるいは未来から探り出して特定。

そこからレイシフトで人員を送り込み原因を排除、そこでようやく特異点はなくなるという。

特異点はどのような場所かわからず、どの様になっているかも、問題の規模も、全部でいくつあるのかすらもわからないけれど。

やるしかない、と。至極真面目な声色でレオナルドは告げた。

その人員となるのが、アッシュとマシュの二騎のサーヴァントと、最後のマスター藤丸立香だと。

 

改めて実感した使命とその重さ、立ち上がった事で一斉に注がれる視線と感情に、立香は押し潰されそうになった。

 

 

 

 

 

つつがなく会議は終わり、各員に解散を言い渡したオルガマリーは立香とマシュ、ロマニにレオナルドとアッシュは残る様にと告げる。

他の全員がいなくなり、残された面子を一瞥すると、オルガマリーは大きな大きな溜め息を吐いた。

 

「はぁー…………」

 

「お疲れ様です、所長」

 

その疲労を隠しきれない様子に、ロマニが労いの言葉をかける。

それに貴方もねと返しつつ、残ってもらったのは特異点修復の戦力についてよと彼女は早速本題に入る。

 

「マスターである藤丸、サーヴァントであるマシュ、それとアッシュ。不安でしかないというのが正直な話よ」

 

使命の大きさ、特異点の不透明さ。それらに向き合うにはあまりにも力が足りていない。

人数も能力も何もかもが。

オルガマリーは特異点へは行かないのかと立香が漏らせば、最高責任者が出て行く訳にはいかないでしょと至極もっともな事情で返される。

特異点Aは偶発的な事故で赴いただけであって、これからの特異点排除に自らが直接乗り込む事は現状考えていないと。

アッシュは寄越すから、遠慮なく扱き使いなさいと。

未だに縛られたままの鎧姿のサーヴァントを指してオルガマリーはまるで生け贄を差し出すかの様な酷薄さで吐き捨てた。

それに苦笑いをしつつも、ロマニは「とはいっても希望はある。人員がいないなら召喚してしまえばいいんだよ」と解決策を一つ提示する。

英霊召喚。平常時であれば不可能だったそれも、世界の危機という異常事態とカルデアにある召喚式、それと力に目覚めたマシュの大盾があれば可能性は高いと。

もっとも、世界に協力を要請する形の召喚になるので、誰がそれに応えてくれて召喚されるのかはわからないけどね。とも。

つまりは————

 

「英霊召喚ガチャか……」

 

「何が!?ガチャって何!?」

 

「じゃあ私は星5の強さだね!」

 

「レオナルド!?」

 

思わず故郷で流行していたある種のゲームシステムを呟く立香に、思いの外ノってきたレオナルド。

何だか彼女とは仲良く出来そうな気がするなとレオナルドへの親近感が途端に増した立香だった。

 

「っとと。そういえばマトモな自己紹介はまだだったね。レオナルド・ダ・ヴィンチ。人は私を万能の天才と呼ぶ」

 

よろしく頼むよ、マスターくん。

差し出された手を取り握手をしながら、レオナルド・ダ・ヴィンチってあのモナ・リザを描いた人と同じだなと思い出す。

他にも色々な才能に溢れていたらしいと何かのテレビ番組でやってたっけとも思い出し、目の前の人物もそんな自己紹介してるなと。

思わず聞いて見れば、本人だった。本人の英霊だった。

 

「ダヴィンチって女性だったんですか!?」

 

「いや、男性だよ」

 

「えっ!?」

 

驚き叫んだその声にロマニが反論して、更に驚きわけがわからなくなる立香。

その様子に満足げな笑みを浮かべたレオナルド——ダヴィンチちゃんと呼べと言われたので立香はダヴィンチと呼ぶ事にした——ダヴィンチは反応は嬉しいけど本題に戻ろうか、と話題を仕切り直す。

 

「現状英霊を召喚するための触媒が不足していてね。出来て一回、って所だろうね」

 

これから補充できればいいんだけど、と困ったふうな顔で締める。

一回だけの何が出てくるのかわからない英霊召喚。

それでもサーヴァントが増えるぶんそれだけで助かるし、説明だけ聞いていると基本的に良い人しか召喚に応じなさそうだしとメリットだけしか感じない立香は、召喚に乗り気だった。

しかしオルガマリーはイマイチ賛成しかねる様子。何故だろうと思うも「コレを見てると不安がね……」と。

ああ、と一同は納得する。確かに良い人——助けてくれた事もあって悪い人物ではないが、オルガマリーが拘束という手段をとるレベルの『嘘』をついたらしいアッシュを見て気持ちはわかると。

けれど現状を少しでも改善させる為にはなりふりかまっていられない、か。

仕方無いとばかりにオルガマリーは新しく英霊の召喚を行なう事を許可し、早速その召喚が行なわれる事になった。

 

 

 

 

 

そうしてアッシュが召喚された部屋と同じ実験室で、アッシュの時と同じくマシュの盾を設置して召喚は行なわれた。

迸る光、巡る魔力、その全てが最高潮に達し、一際強く輝いた光の中心から姿を現したのは————

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

 

「————————」

 

赤い外套に長身の体躯、浅黒い肌と白い髪をしたサーヴァントは、細部こそ異なるものの、特異点Aでカルデアと相対したアーチャーのサーヴァントと同一だった。

————現在のカルデアの面々は与り知らぬ所ではあるが、このカルデアの術式と大盾を用いた召喚方法は、英霊側からの応答の他に、『縁』というものも重要なファクターだ。

人と人を繋ぐ縁——それが結ばれていれば、それを伝って強く呼びかける事が出来る。

今回の召喚は、味方ではなかったとは言え顔を合わせ知り合っているという『縁』と、このサーヴァントの元来の性質ともいうべき『助けを求める声には応える』という信条が合わさった結果だった。

とはいえ、そんな事も露知らぬカルデアの面々————顔を引き攣らせる立香と緊張するマシュ、頭を抱えるオルガマリーに、直接見た事はないが現地組の様子からなんとなく察したロマニとダヴィンチは、一つの共通した考えを抱いた。

 

敵じゃん。

 

すぐさま拘束を解かれたアッシュと戦闘態勢に移行したマシュがジリジリと目下敵性存在へと躙り寄る。

召喚されるなりの妙な反応とあんまりな対応に、弓兵のサーヴァントは思わず呟いた。

 

「なんでさ」




以下作中提示されたアッシュについて。
こっから更に検閲入ってるので実際はステータスと少しの情報しか皆は知りません。

真名:アッシュ
クラス:該当なし

筋力:EX(C相当)
耐久:EX(D相当)
敏捷:EX(C相当)
魔力:EX(D相当)
幸運:EX(C相当)
宝具:——

身長/体重:180cm・75kg
出身:『火の時代』
地域:不明
属性:混沌・善 性別:男性
ステータスは成長可能。霊基情報を直接書き換えていると思われる
よってランクはEX(評価規格外)とし、実数は計測時のものを記載している。

この人類史ではなく、全くの別世界からやってきたと思われる人物。
魔力らしき反応、サーヴァントのような組成の身体などを持つ。
カルデアへは特異点A(A.D.2004の冬木市)から直接転移してきた模様。

寡黙であり、基本的には行動は善寄りではあるが、聞かれた事しか答えない、曖昧な表現で都合のいい様に話を逸らそうとするなど信用ならない人物。
現在カルデア所長兼彼のマスターであるオルガマリー・アニムスフィアの令呪により、彼女の質問には偽りなく答える状態ではあるが、前述の通りの性質なので同じ内容の質問を別の表現で幾度か行なう事が推奨される。

何故特異点Aに存在していたのか、何故正規マスターである藤丸立香ではなくオルガマリーとのみ契約できたのか等、様々な疑問点が上げられるサーヴァント(厳密にはサーヴァントではないが、便宜上そう呼称する)
以降情報が判明し次第追記を行なう事にする。
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