人理の灰   作:終わり無き苦悩の針

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第八話

召喚された赤い外套のアーチャーは無事制圧、拘束された。

そして始まる尋問と詰問。

——英霊は本来『座』より召喚された場合、召喚されたその時代の一般常識が知識として与えられる事が多く、またその英霊が他に召喚された時の事も『記録』として把握している事も多い。

つまるところ、特異点Aで遭遇したあのアーチャーのサーヴァントとこのカルデアに召喚されたこのアーチャーは同一人物ではあるが全くの別人に等しいという事であり、彼を問い詰めた所で何になるという訳ではないのだが。

別人であるという事と、襲撃された事実とはまた別の話で。姿形がほぼ同一となれば尚更その感覚は簡単には消えないという訳だった。

 

問われる言葉や内容、すぐさま行動に移せるとばかりに待機する二騎のサーヴァントらしき存在からおおよその見当をつけた赤い外套のサーヴァントは、溜め息まじりに誤解を解いていこうと言葉を重ねていく。

——先程まで鎧姿の男が縛られていたものと同じ道具で簀巻きにされた状態で。

 

「生憎だが、私は君達を襲ったという『私』ではない。英霊とは——いや、サーヴァントとはそういうモノだろう」

 

召喚された時々で、その時限りの生を送るようなものだ。

現界がどのような過程を経たものであれ、『座』にいるサーヴァントの本体にとってそれは『新たな生』ではなく『見ている夢の一つ』でしかない。

故に彼らは自分勝手に、己が誇りに従って動くのだと。

カルデアと敵対した私が居たのかもしれないが、今の自分はそれとは全く関係のない。そう言わんばかりの論調だった。

弁解のつもりなのか何なのか、しかしまったく謝る気がないその口振りにオルガマリーは「英霊というのはどいつもこいつも」と隣と前にいる二人のサーヴァントを半目で睨む。片方はサーヴァントではなかったが。

だが、だからこそかとも納得した。もしかするとその為に『令呪』等があるのだろうか。

 

「————ただ、そういった事柄であれば『記録』が残っている筈だが——該当するような『記録』はない」

 

それだけは少し気にかかると、本来ならば有り得ない事態だとアーチャーは告げる。

時間という概念を超越した『座』において、特異点のような一大事に関する記録がない筈はない。

それが事実としてないのだから、『座』にすらも変化がみえる規模での何かしらの異常事態なのは間違い。

 

特異点での事情把握のつもりが、今の世界を襲う事態の規模の大きさを改めて別の角度からオルガマリー達は認識する事になった。

 

「——なるほどねぇ、その情報が私達に敵対する意志はないっていう事の表れなんだね?」

 

「隠していても何にもならないだろうしな。であれば、少しでも君達の心証を良くする為の材料にしたい」

 

ダヴィンチの納得した様な言葉に、もっともこの程度の情報では効果の程は定かではないがねとアーチャーは皮肉げな笑みを浮かべる。

事情を隠しているより、相手へ注意を促す様な情報を伝え、それを隠している事も出来たと匂わせる。

協力する姿勢がありますよ、というアピールをする。

それが手っ取り早く意志を伝える方法だとアーチャーは考えた。

回りくどい上にわかりにくいその意図に誰も気付かなければ、軽く流されかねない細かな意思表示だった。

なんか色々誤解を受けてそうな人だなと立香は感じた。なんとなく直感でどっかで刺されてそうだなとも。

 

まあ、大体の事情は把握できた。

英霊というものの情報の中に確かにそういった事も記されていたような気もするし、敵意はなさそうだ。

そもそもがこのカルデアの召喚に応えたという事は、人類の異変を察知してその手助けをしようとする『英雄』だと意味する訳で。

オルガマリーは転がされているアーチャーの元へ屈んでその拘束を解き、彼が立ち上がるのを待ってから頭を下げた。

 

「申し訳ありません。無礼を行なった事、『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の所長オルガマリー・アニムスフィアが謝罪します」

 

「いや、いい。確かに召喚されるなりの仕打ちに面食らいはしたが、事情を鑑みれば納得は出来る」

 

素直な謝罪に、オルガマリーを知る面々は驚く。

そしてその謝罪を皮肉をぶつけながらもこれまた素直に受け取ったアーチャーのサーヴァントの姿を見て、良い『英雄』なのだなと一行は感じる。

 

「これからよろしくお願いできますか?アーチャー」

 

オルガマリーのその問いに、赤い外套のサーヴァントは、どこか嬉しそうに見える笑顔で応えた。

 

「無論だ。人理継続……世界の平和の為だ。————いい響きじゃないか」

 

 

 

 

 

赤い外套のアーチャー——真名をエミヤというその英霊は、カルデアへの参加表明まもなく自身の情報を開示した。

曰く人類史の危機だ、通常の聖杯戦争とは違う。使えるものは使える様に把握しておくべきだと。

聖杯戦争?聞き慣れない言葉に首を傾げた立香に、ロマニが補足を入れた。

 

「万能の願望機たる遺物『聖杯』。それを巡って行なわれた魔術儀式の一種だよ」

 

「それとサーヴァントとに関係が?」

 

「一部でね。マスターとサーヴァントとが組んで、それぞれの組と争い合う。人間と英霊との共闘というか、一種の代理闘争の形を取るものもいくつかあってね」

 

カルデアの令呪やマスターとサーヴァントの契約もそこから取り入れたものだよ。

その説明に、なるほど今の状況はその聖杯戦争に似た状況と言えるのかもしれないと納得する。

マスターがいて、令呪があって、サーヴァントを召喚して契約をする。

違いは聖杯を巡って誰かと争っている訳では無い事だけど、と。

 

「もしかして、英霊ってその聖杯戦争でくらいしか召喚されなかったりする、かなり凄い存在?」

 

その立香の疑問に、周りの皆は総じて口をぽかんと開けた。

今更だった。

今更すぎて、当たり前すぎる事だった。

そういえばこの子まったくの素人だったなとオルガマリーは頭を抱え、ロマニは苦笑いをし、ダヴィンチは爆笑した。

マシュは「それなのに……流石です先輩」と特異点での立香の様子を思い返したのか彼への尊敬を深めていた。

そんな間抜けとも言えるマスターを見たエミヤは「何の因果だろうな」と何かを思い出す様に苦笑し、立香へ警告する様に告げた。

 

「そうだとも。彼らはとてつもなく強大な存在であり、自由意志を有する英雄たる人物達が殆どだ。故に、今後彼らへの言動には気をつけ給え」

 

まあ私は別に構わないが、何が原因で何が起こるかわからんぞと、心底実感の籠った様子とその言葉に、立香はただただ頷くだけだった。

 

話はこのように割と脱線をしつつも進み、エミヤの情報の殆どはカルデアに伝えられた。

 

「————なんというか、便利だね」

 

思わずこぼれた立香の言葉に、各々別の表情ながらも心底から同意した。

そのスペックと技能、宝具等々。

オルガマリーは「これが英雄か……」と自信の常識を打ち崩す様な存在に半ば呆然とし、ロマニはこの人が居てくれるとすっごく色々な面で楽になりそうだと純粋に喜び、ダヴィンチは何時ものような何やら怪しげな笑みを浮かべる。

そんな魔術と関わりが深い面々の様子をみて、やっぱりこれって凄いんだとほぼ一般人の立香は実感した。

 

アーチャーのサーヴァントなだけあってか千里眼のスキルを持ち、かつ近接戦闘もこなせ、多対一にも対応しうる事は特異点の彼で体験済み。

極めつけは英霊の象徴たる宝具だ。おおよそ全ての刀剣類を複製可能な『固有結界』——効率は落ちるが刀剣以外も可能だというそれ。

話ではなんと他の英霊の宝具も複製出来るという。もはや一人で複数のサーヴァントとでも言える存在である。

ただし本来のものよりスペックは落ちるし、それを振るう自分は所詮本物の英霊には遠く及びはしないというが————

 

「消えない投影……?何度でも可能……?なにそれ魔術に喧嘩売ってるのかしら」

 

「壊れた機材とかの応急処置とかにも使えそうだよねぇ。色々捗るぞぅ!」

 

「投影した宝具から担い手の情報を読み取り自分への経験とする……ちょーっといいこと思い付いちゃったかなー?」

 

「武芸百般、という奴か。敵に回すと面倒な手合いだが、味方となると心強い」

 

「そんな人生を歩んでいたなんて……!!エミヤ先輩、私は貴方のその生き様、とても尊敬します!!」

 

各員絶賛だった。

若干名能力ではなくついでに軽く語られたエミヤという英霊の生涯に感銘を覚えてるが、プロと呼べる面々は総じて好評のようだ。

通常の聖杯戦争であれば確かに、英霊と英霊の戦いに置いては苦戦を強いられる場合もあるかもしれないが、生憎と今はそうではない。

マシュとアッシュという前例がまっとうな英霊とは呼べず、能力がいまいち不透明な事もあるだろうが、それを抜きにしても。

猫の手も借りたいようなあらゆるものが不足している緊急事態で。

そこにこのようなオールラウンダーだ。それはもう大活躍間違いなしである。様々な意味で。

奇しくも数多あるいつかどこかの彼がそう呼ばれた、あるいは自分をそう評した様に、『便利屋』がカルデアに誕生したのだった。

 

——当初敵性存在扱いを受けた彼は、後に料理や掃除などの家事能力、細やかな気配りなど更なる万能っぷりを見せつけ、遂には崇め出す者も出る程の存在となるのだが、この時は本人を含めてそんな事を思いもしていなかった。

 

 

 

 

 

召喚とその他情報の確認など、諸々の事情が終わって。

さっきの会で言った通り、次の特異点を割り出すまで貴方は待機。体調を整えておくようにとのオルガマリーの言葉に従って、立香とそれに伴ってマシュは部屋を後にした。

残ったのはエミヤの霊基情報を確認、記録しているロマニとダヴィンチ、アッシュとエミヤ、オルガマリーである。

 

「————さて、では今度はこちらが詳しい話を聞かせて貰うとしよう」

 

立香とマシュのペアが出て行ってからしばらくして、エミヤが口火を切った。

先のエミヤの自己の情報の開示——それに伴うカルデア側の現状説明。

そこで恐らく意図的に語られなかったであろう事情をエミヤは察し、だからこそオルガマリーはその事情を語らなかった理由——立香とマシュの二人の退室を促したのだ。

 

「——あの二人はこれからの特異点修復に欠かす事の出来ない人材よ。代替の効かない貴重な戦力」

 

だからこそ、そのメンタル面にも考慮しなければならないのだと、ロマニの意見を汲んだオルガマリーは、その様に配慮している。

知らぬ方が良い事もあるだろう。それはあの二人に限らず、他のスタッフにも言える事だ。他ならぬ当人でもあるオルガマリーもそう考えた。

知らぬ方がいい事。それは組織運営にあたって不和を齎しかねないオルガマリーの現状についてや、正体不明の己のサーヴァントとなったアッシュという存在の素性。特異点Aの異常性。

そして、このカルデアを襲った未曾有の事態の根本について。

 

「外部との途絶、カルデアスの異常、特異点の発生。それにどうやら『座』にすら何らかの影響まであると見える。このような大規模な『何かしら』が自然に起きたとは、まあ考えられないよねぇ」

 

「爆発事故が起きたのだって偶然とは思えない。タイミングと狙いがあからさまだ」

 

「件の特異点も、このカルデアが観測できないという『あってはならない』事態だったと言うわ」

 

——つまりは、異常事態を引き起こした何者かがいると推測できるという事。

カルデアが唯一この事態を収拾できうると知った何者かがいて、その対策としてカルデアに工作をし、特異点への観測を妨害していたのなら。

カルデアの役割である人類史存続を危機に陥らせるその未曾有の事態は、人為的に引き起こされたとも考えられた。

 

「人の文明の光が地上から消える?それが人為的に引き起こされたもの?ただでさえ信じ難い規模の大災害よ。そしてその災害を引き起こした存在が、既にカルデアに狙いを付け、事実襲撃を受けて大損害を被っているわ」

 

地球全土に影響を及ぼす大きな力を持った存在が、命を明確に狙っていると言える現状だと考えられるならば。

果たしてこの閉鎖空間の中で、その恐怖に屈せずいられるような人間は、どれほどいるだろうか。

しかし、カルデアは戦わなくてはならない。

人理を継続させるため、文明の光を再び取り戻すために、その使命を果たさなくてはならない。何に変えても。

そのために、恐怖で戦えなくなる可能性があるならば、嘘だってつこう。味方も欺こう。

爆発は事故であり、特異点の異常は未曾有の事態故に有り得ないとは言い難く、外部との連絡が取れないのは事故で機材が壊れたからだ。

いずれは誰かが、全員が気付くだろう。いつかは知らせないといけない事だ。

だがそれは今ではない。

多くの死傷者が出たばかりの、外部と隔離されたばかりの、切迫した状況ではなく、いつか少しでも余裕ができてから。

それが報告を受けて事態を正しく認識する事の出来たカルデアの、今や3人しかいない責任者達が下した結論だった。

 

危機は皆が思う様な災害ではなく人災であり、かつそれは秘匿されていなくてはいけない。

しかし現実に特異点修復へ赴くマスターがそれを認識できていないというのは、些か問題が発生しうる。

だが、そのマスターは素人だ。それも未だ歳若い青年で変えも効かない。故に慎重さも求められる。

ならばせめて、共に特異点へ赴くサーヴァントにだけは事情を説明すべきだろう。

そうした考えで、立香とマシュを退出させ、エミヤにのみ一連の事柄を明かしたという訳だった。

 

「——なるほど、状況は理解した。いずれ告げるというのであれば、私もその考えを支持しよう」

 

多くの人員が事情も知らぬまま騙される形になるが、それは今だけだというのなら理解も許容もできる。

真実を知った時の反応も、言うまでもなく想定済みだろう。その上での方策であるならエミヤに言うべき事はなかった。

ただ、それを全ての英霊が肯定できるか、それがエミヤが抱いた危惧だった。

英雄とは基本的にお人好しが多い。中にはただただ善意でこの考えに反発してくる者もいないとは限らず。

そうなった場合、非常に面倒な事になりかねない。

 

聞くに現状カルデアでサーヴァントの召喚はこれ以上出来ないらしいが、新たな特異点で冬木のようにサーヴァントがいて、それが味方になり、ひいてはこのカルデアを何らかの手段で訪れ協力してくれるようになる事がないとは言えない。

サーヴァントの協力それそのものは嬉しい事なのだが、その人となりにも気を配らねばいけない。

協力をはねつけるというのは戦力的な観点で論外だとして、人格的に方針と噛み合いそうにないとなると——

至極面倒な事態になったものだと、一同全員が心底溜め息を零した。

 

ともあれ、である。

この事態を迎えて最初に召喚されたサーヴァントは無事賛成してくれた事だし、更に今欲しいものの殆どを賄える人材であったし。

——ちなみに余談だがアッシュは不審者扱いされ拘束された時に、有無を言わさず同意させられた。令呪をチラつかされては致し方なかった。

 

「辛気くさい話はここまでにして、何かパアッと美味しい物でも食べたいなぁ」

 

一つの山は越えたとロマニは緊張を解し、生来の気楽さで以てそう零した。

 

「ロマニ、貴方ね……」

 

「美味しいものねぇ。私はいいと思うけどなー?特異点A解決を祝ってーとか、どうあれ息抜きは必要だよ?」

 

呑気なその様子にオルガマリーは頭が痛いと額を抑える仕草で反対しようとするも、ダヴィンチがロマニに賛成するように告げた内容で考えを改めた。

確かに、これから長い戦いになるだろう。今後の事を考えて、まずは最初の問題を乗り越えたとして食事会というのも士気を高めるいい機会になるかもしれない。

物資の補充が出来そうにないと考えるとあまり贅沢は出来ないが今回はしかたないか、とオルガマリーは食事会を開催する事を許可した。

やったね、とハイタッチを交わすロマニとダヴィンチ。その様をみてこいつらただサボりたくて言っただけなのではと思い始め、しかし彼らにも休息は必要だろうと声を呑み込むオルガマリー。

アッシュは本人が飲食は不要と告げた通り興味無さげだったが、意外にもその決定を受けソワソワしだすサーヴァントが一人。

 

「ならば、私も微力を尽くそう。何、腕には自信がある」

 

既にどこからか調理器具を取り出すワクワクっぷりだった。

え、料理できるのと全員が思った。その見た目で?万能すぎない?とも。

 

「料理出来るの?エミヤ」

 

「無論。執事のサーヴァントの方が向いてると言われた事もある」

 

それは自信満々に言うところなのかと全員思ったが、幸せそうならまあいいかと納得した。なげやりに諦めたとも言う。

先程までの物静かで理知的な態度とは打って変わったそのテンションの落差に一同軽く引きつつも、それを本当に料理が出来るのか?という疑問と不安だと受け取ったエミヤは、不敵な笑みを浮かべて堂々と宣言した。

 

「あらゆる国の、あらゆるリクエストにも応えてみせよう。……ああ、それと——料理で世界を救ってしまっても、別に構わんのだろう?」

 

なんだか変なスイッチ踏んじゃったかなぁと、ロマニは自分の発言を後悔し、オルガマリーは早まったかと迂闊な自分を反省した。

 

——その日の晩、カルデアに新たな料理長が就任した。

事故以来最も喜びの感情で溢れたと言っても過言ではないその場その時、彼の料理長の芸術的な料理に、確かに彼らの心は救われていたのだ。——定時報告書より。レオナルド・ダ・ヴィンチ




(人理の料理人にタイトルを改めるべきでは?と思ったので)初投稿です。
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