この話はどうかな、面白ければいいんですが……
あ、評価とお気に入りが増えてました!ありがとうございます!
香織が泣き止むと、お互いに顔を真っ赤にして相手の顔が見れない両者。
涼夜は目をそらしながらとりあえず逃げることを選択した。
「あ〜、じゃあ俺は部屋に戻るな。香織に言われた通り、休むわ。そろそろ意識保っているのも辛いし」
涼夜は少しふらつきながらも歩き出す。張り詰めていたものが消え、疲れが押し寄せたようだ。
「ま、待って!倒れられたら困るし、私も部屋までついていくよ!」
香織は涼夜の歩き方をみて引き止めた。まだ恥ずかしさが残っていたがそれでも涼夜を一人で部屋に戻らせるのは憚られた。
「いや、大丈夫だって」
涼夜は恥ずかしさ、もとい香織から逃げだした!
「ダメだよ!休むまでしっかり見てるからね!」
香織に回り込まれた!恥ずかしさからは逃ふげられない!
「お前は俺の母ちゃんかよ……わかったよ、もう何もいわねぇよ」
完全に香織から逃れられないと悟った涼夜は投げやりに答える。
「お母さんって女の子に失礼だよ、涼夜くん!」
香織は頰を膨らませてむくれてみせる。だがすぐに「ふふっ」と笑みをこぼした。
「……なんだよ急に」
「『夜、電話越しに話してた時みたいにだなぁ』って」
香織は目を懐かしそうに細め、かつての光景を幻視する。
そこには電話を片手に他愛のない話をする香織の姿。そして電話越しだが明らかに楽しそうに香織をからかったり、相談に乗ってくれる涼夜の声。今ではもう、その光景がまた実現するのかはわからない。
「……ああ、そうだな」
ここでは余計な言葉はいらない。感傷に浸るのは全てが終わってからでいい。
***************
香織の監視のもと、部屋に送りとどけられた涼夜はベットに倒れ込み、そのまま丸一日寝た。
翌朝、涼夜は今まで忙して全くみていなかったステータスカードを取り出す。あの3日間の記憶がどうも曖昧なので一体どれだけ取得したのかわからなかったからだ。
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有賀涼夜 17歳 男 レベル15
筋力:250
体力:250
耐久:250
敏捷:250
魔力:1000
魔耐:250
技能:万能者[+器用貧乏脱却]・気配察知・言語理解[+理論理解]
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(…………………………………………………………………………は?いやいやいや、おかしいだろ。魔力が上がってんのはぶっ通しで魔法使っていたからってのはわかる。ポーションも自作して飲んでたし。
そして[+理論理解]もまだ……まだわかる!多分あの調合のし過ぎが原因だろ。それか知識の詰めすぎ。
……だがな、これだけは許せねぇ。
[+器用貧乏脱却]ってなんだよ!派生技能に書くことかよ!何?つまり、俺、ステータスプレートにも器用貧乏って思われてたの⁉︎クソだな、おい。
……これ作ったやつ、万能者になんか恨みでもあんのかよ)
涼夜は頭を抱えた。いろんな意味で絶対にステータスプレートを見せられなくなった。
「……はあ、とりあえずこの
涼夜は独り言を話してしまうレベルの致命傷を心に負った。未だに器用貧乏という言葉に弱い涼夜である。
「……悔しいけどすげえ」
涼夜は訓練場にきて、早速効果を確かめた。この派生技能はすごぶる優秀だった。
剣技や体術、魔法、錬成、全てが前よりも練度が上がっていた。前は一定のレベルまでいくとこれ以上はどんなにやってもうまくならなかったのだが今はどんどん上手くなっている。
もう一つの派生技能もすごかった。なぜなら呑み込みが異様に早くなっていたのだ。練度の上昇率が前の約1.5倍になっていた。(涼夜の感覚でだが)
(……ふむ、なるほど。あの
………ただ、
というか、万能者の中に収められている(はず)の技能はやっぱり見えないのか……習得した技能、忘れそう)
涼夜が技能について考えていると背後から声がかかる。
「おはよう
涼夜に声をかけたのは香織だ。その近くには雫、天之河、坂上といういつものメンバーがいた。
「ああ、大丈夫だ。気遣いありがとう
涼夜は当たり障りのない言葉で返答する。クラスメイトがいる中でいつものようには話さない。話せば信者が何をするかわからない。
「有賀、無理をしていたらしいな。南雲が死んで辛いのはわかる。……だけど俺たちにも頼ってくれ。力になるよ」
「そうだぜ!溜め込んでも仕方ねえよ!こういう時は誰かに話したりすればいいらしいぜ」
光輝がまた若干勘違いして話しているが、大まかなところは当たっているのでなんとも言えない。坂上も坂上なりに励まそうとしてるのがわかる。涼夜は少し不機嫌になりながらも「……考えてみるわ」と返事をする。香織たちは苦笑い。
「……んで、なんか用があるのか?」
一向に涼夜の側を離れない光輝達をみて、涼夜は眉を寄せる。
「……いや、特に用があるわけじゃないさ。ただ俺達もここで訓練をしようとしていただけだよ」
涼夜はなんかぎこちない光輝に懐疑的な視線を向ける。絶対何かあることは確実だ。
涼夜は香織と雫に視線を向けるがなぜかサムズアップと苦笑いが返ってきた。意味がわからない。
「……邪魔とかはしないでくれよ」
ほぼ犯人を確信した涼夜は害はなさそうなので放置する。この残念勘違い勇者には言うだけ無駄だとわかっているからだ。
「わかっているさ」
なんか任せろ!みたいな雰囲気を出してる光輝。光輝の中では何かが完璧に決まっているようだ。涼夜にはそれがわからないが。
もう話すことはないと、涼夜は魔法を使ったりして練度を上げる訓練を始める。もうあの4人のことは意識から追い出したようだ。
光輝達もそれぞれが自分の訓練を始めた。こっちは涼夜の事が気になるのか、ときおり涼夜の方をチラチラみていた。完全に監視状態である。
涼夜は一通り、すべき事を終えると訓練場を後にする。4人だけではなく他のクラスメイトも涼夜をチラチラみているのだ。気になって仕方がない。
知識を蓄えようと図書室に足を向けるが、そこでも他のクラスメイトが涼夜をチラチラみるのだ。流石にこれは何かがおかしいと理解した。犯人に問い詰めたいところだが、恐らく夜までは無理だろう。
仕方なく涼夜は自室にこもり、錬成、調合を行う。理論理解を手に入れたのだ。それを生かさない手はない。涼夜は調合の本、および素材の性質が書かれた本を読みながら(図書室から無断でとってきた)調合を行う。性質は理論理解ではわからないので仕方がない。実験しようとしてようやく理論理解が発動する感じなのだ。
夕食に呼ばれるまで調合に勤しんでいた涼夜は夕食のときに犯人にアイコンタクトを送る。夜に来い、と。
すると犯人は隣の人物に向かって一言二言囁くとニッコリと笑った。それはもう何かをやり遂げたような清々しい笑顔で。
そして隣の人物は涼夜のことを不安そうな面持ちでじっと見つめてくる。
……なんとなく予想はついた涼夜は大きく頷く。それをみた雫は笑顔を浮かべた。涼夜には本当に雫が安堵ではなく、笑顔を浮かべた理由がわからなかった。
涼夜は「来たければくればいいのに」とは言わない。……あとが怖いからだ。
***************
涼夜の自室にコンコン、とノックをする音が聞こえる。涼夜は用意していたお茶を机に並べると来客を迎えに行った。
「……割と早かった…って
「犯人って……香織なら用事ができたから行けないって言ってたわ」
涼夜のあんまりな言い方に苦笑いを浮かべる雫。涼夜にしてみればいつも通りの軽口なので特に思うところはない。
「……まあいいか。じゃあ雫、入ってくれ」
涼夜は作為的なものを感じたがこの状況を拒む理由はない。むしろ大歓迎であった。
「ええ、お邪魔させてもらうわね」
雫が中に入ると自室のドアを閉める。そして雫を席に促すと涼夜もその対面に座る。
「……あー、まずは今日のことだな。今日の天之河のやつだ」
涼夜が今日の不自然な光輝の行動について尋ねる。多分犯人は間違ってないだろうし、恐らくだがクラスメイトにも何かやったはずだ。
「えっと、あれは香織が『有賀くんが無理をしているからみんなで無理をしないように見ていよう!』って涼夜が寝ている間にみんなに提案したのよ。心配してやっていることだから悪く思わないでね」
雫が事の真相を話してくれる。そのときの雫の顔と内容である程度涼夜は察した。やはり心配をかけていたのを。
「……心配してくれている人を悪く思うなんてありえねぇよ。香織にはあとでお礼を渡さなきゃな
……そうか、やっぱり心配かけてたんだな。じゃなきゃ俺のことを全員が見張ろうって思えないしな。
雫も……ありがとう。恐らくだが、香織だけじゃみんなが動かなかったんじゃないか?雫もみんなに掛け合ってくれたんだろ?……正直、嬉しいよ。
あと、これも貰ってくれ。今回の事も含めての俺からのお礼だ。」
そういって涼夜は懐からペンダントを取り出した。青く透き通った石の周りに金色の装飾がついたペンダントだ。味気ない気もするが装飾目的で作ったわけではないのでしょうがないのかもしれない。
それを雫に手渡す。
「……あー、まあ、俺が作ったものだから見てくれは悪いかもしれないが、それでもよければ貰ってくれ」
「……見てくれが悪いなんてそんな事はないわ。ありがとう、大切にするわね」
雫はペンダントを受け取ると胸元に持っていって抱きしめるように握る。まるで暖かさを噛みしめるように微笑んで。
その雫の微笑みは涼夜を魅了するには十分だった。
(ーーーああ、これを渡してよかった)
そう思えるほどに雫の微笑みは涼夜の心に暖かさをもたらした。
***************
雫はペンダントをもらった嬉しさに、涼夜は雫の微笑みの美しさに浸っていたが、コンコン、とノック音が聴こえてようやく2人とも再起動をはたした。
「……あ、俺が出るわ」
「……え、ええ。お願い」
お互いに少し混乱しているのか少々おかしな会話をする。
涼夜がドアを開けると、そこには香織がいた。
「……えっと、お邪魔だった?」
香織が中の雰囲気を感じてタイミングを間違えたかと尋ねる。それを涼夜は全力で否定する。
「いやいやいやいや、別に邪魔じゃないだろ。俺が呼んでたんだし。……だよな、雫」
ここで雫に振る辺り、涼夜は相当動揺している。
「ええ、何も問題はないわ。香織も早く入ったら?」
雫も雫でどこかおかしい。薄々は察した香織はここで掘り下げるのは無粋だと思い、さっさと中に入る。
香織が席に着き、2人が落ち着いたところで涼夜が話し始める。
「……じゃあ、まずはこれ。今までのお礼だな」
「杖?」
そう言って涼夜が取り出したのは短い魔杖。軽量化していて使いやすく、先端には白色と透明な鉱石がついていて、それぞれ回復魔法と結界魔法の効果増幅の魔法陣が組み込まれている。
「ああ、そうだ。ハジメを助けるためにこれからの戦いで役に立ってくれるはずだ」
「!……知ってたんだ」
涼夜の言葉に驚きを隠せない香織。
「知ってたんじゃなくてわかってたって言う方が正しいな。ハジメ至上主義が助けに行くって選択肢を選ばないはずがないからな」
涼夜はさも当然のように理由を口にする。ハジメ談義による経験則だ。
「……そっか、ありがとう」
少し影が差しているがそれでも可憐な笑顔でお礼を言う香織。ハジメが戻ればいつものように笑ってくれるのだろうかと涼夜と雫は少し悲しくなった。
「ああ。
……で、だ。俺はこれからハジメをどうやって助けに行くかを相談したかったんだ」
涼夜は渡すものを渡したので本題に入る。今日、涼夜が話したかったのはこれだ。
「どうやってって?」
「…ハジメを助けるという結果は変わらないが、その過程は何通りかある。香織達は遠征として助けに行くんだろう?」
2人は首肯する。たしかに現状はそれ以外に方法はない。
「俺はそれじゃあ無理だと思っている。だから王国を出て他の迷宮を探索しようと思う。迷宮の最深部にはアーティファクトが眠っているという話だったからそれを使えばハジメの位置を特定できるかもしれない。そっちの方が確実なはずだ」
流石にハジメが生きていると信じている香織の前で蘇生魔法の可能性の話をする訳にはいかなかった。それは俺が見つけてからでいい。
「なんでオルクスに行かないの⁉︎」
香織の悲痛な声が響く。心に直接響いているような感覚だ。
「……悔しいが俺がオルクスに挑むには力が足りない。だから他の迷宮で力をつけるつもりだ」
「なら私と雫もーー」
「ダメだ」
涼夜は優しく、しかし有無を言わせない迫力で申し出を遮る。慎重に言葉を選んで話す。
「……恐らく、王国をどんな条件であれ出れるのは1人だけだ。なら、応用力があって1人でも生き残れる可能性が高い俺が適任だ。だから俺が行く。
香織達は遠征で助けに行ってくれ。もしかしたらそっちの方が早いかもしれない。俺も見つけたら戻ってくるし、月に一度は遠征での宿に連絡するから」
涼夜も香織も雫もわかっていた。涼夜が行くことを決めれば二度と会えなくなるかもしれないことを。
だがそれでも今、決断しなければならない。そんな気がしている。
「……本当に行かないといけないの?」
雫が声を震わせながら涼夜に聞く。
「ああ、俺が行かなきゃいけない」
「……死なないって約束できる?」
「勿論だ。無理をしてはいけないことを2人から教えてもらったからな」
涼夜は力強く答える。前のように気負う感じもなく、微塵も迷いを感じない。
「……わかったわ。こっちは任せて」
「雫ちゃん⁉︎」
雫が許すとは思わなかったのか香織が「なぜ?」という顔をする。
「……いいのよ。涼夜には涼夜なりのやり方があるもの。それを止めるのは私達にはできないわ」
「………ありがとう」
涼夜は行かないと言えない代わりにありがとうと言う。
「ええ。けど、お礼は帰ってきてから言ってね」
「ああ、わかった」
「ん〜もう!わかったよ!なんか反対してるのが馬鹿らしくなっちゃった。……それでどうやってここから出るの?」
香織もプンプン怒りながらも了承してくれた。そして未だに決まっていなかった脱出方法について聞いてきた。
「ああ、それはーー」
脱出方法を考えた後も、3人で仲良く喋る。暗い話をしていたのに今は和気藹々としていた。
3人の夜はまだ続く。
次は別視点挟んで新章に行きます。
その頃のハジメ
6日目
涼夜に助けを求める。魔法をうった相手を恨む。
7日目
ついに涼夜にすら助けを求めなくなった。殺す殺すマシーンになった。←今ここ