「涼夜、同じクラスだね」
「ああ、そうだな」
2年に上がるとまたハジメと同じクラスになった。あの日からしばらくしてハジメも俺の事を涼夜と呼ぶようになった。
新学期が始まってしばらくすると問題が起きた。学校の二大女神と呼ばれる内の1人、白崎香織がハジメに声をかけ始めたのだ。
話しかけられるだけなら問題はない。それに付随するものが問題なのだ。白崎に話しかけられているハジメへの嫉妬とからかい、そして侮蔑の視線。これがどうにも許せない。
白崎は学校のアイドルだ。そんな女子が顔はイケメン(他人はそうは思っていない)だがオタクで寝てばかりいるクズ野郎に構っているのだ。そりゃ、「なんであいつばかり」と、なるのは仕方がない。仕方がないと思うが気持ちは別だ。
ハジメはその視線を理解しているようでよく俺に愚痴をこぼす。それをほぼ毎日聞かされる俺の立場からすればたまったもんじゃない。
そういうわけでハジメの心労を減らすために動いた。
まず、八重樫雫にコンタクトをとった。白崎の幼馴染で、よく周りのフォローをしているのを見かけるから、大丈夫だろうという判断だ。
「八重樫、ちょっといいか?」
「ええ、部活の時間までなら平気よ」
「……助かる。白崎の事なんだがーー」
「あ、ごめんなさい。そういう相談は受け付けてないの」
「違ぇよ。勝手に勘違いするな。ハジメに構うのをやめさせて欲しいんだよ」
俺がそういうと八重樫は途端に気まずそうな顔をする。
「ああ、親友にいうのが気まずいってのはわかるがそれでもーー」
「……違うの」
俺は話しているときに呟かれた言葉を聞き逃さなかった。
「何が違うんだ?」
なぜか俺たちの周囲だけ重苦しい雰囲気になっていた。
「…ごめんなさい、言えないわ」
そう告げた八重樫の目は申し訳なさそうにしながらも真っ直ぐとこちらをみており、その瞳の奥に覚悟の色が見えた。
「……そうか。まあ、言えないなら言えないでいいけどよ。俺はハジメの親友なんだ、あいつが困ってたらお前の幼馴染に邪険に思われても引き離すからな。……それだけだ。悪かったな、ひきとめて」
この瞳を見て「これは無理そうだ」と感じた俺は説得を諦めて伝えなきゃいけないことだけ伝える。ちょっとこっぱずかしいこともつい言ってしまった。
顔が少し赤くなるのを感じながらその場を離れる。八重樫は何も言わずただ立ち尽くしているだけだ。
俺はその日はそのまま家に帰った。
翌日の朝、学校で早めに来たので席に座って勉強をしていると俺の席に八重樫がやってきた。
「……今度の日曜日は空いてるかしら?」
八重樫のその言葉で教室にざわめきがおこる。さすが二大女神の1人。注目度は計り知れない。俺は目立つような真似をしてくれた八重樫に内心でため息を吐き出す。
「無理だ。……この前の質問の答えなら今聞く」
そう言って俺は目の前のノートに文字を書き出す。内容は「口頭だと目立つからここに時間と場所を書いてくれ」と。
「え?……ええ、そうね!この問題の答えね!」
一瞬キョトンとした八重樫だったが俺が書いた内容に目がいき、ようやく目立っていることに気がついた。
恥ずかしくなったのか誤魔化すように少し大きめの声で答え、素早くノートに場所と時間を書き出す。書き終えるとすぐに白崎達の側に戻り、談笑を始めた。
そんな八重樫をみて、可愛いなと思った。こうやって人を落としているのかと邪推してしまうほどに。
その後は特に何もなく、あるとすればハジメへの白崎のアタックも阻止するように外に逃がしたくらいだ。
そして日曜日、八重樫が指定した喫茶店に入るとそこにはすでに八重樫がいた。そしてなぜかその隣に白崎も座っていた。
「おはよう、有賀くん」
「有賀くん、おはよう!」
俺が八重樫の向かいの椅子に座ると挨拶をしてくれたのでこちらもきちんと返す。
「ああ、おはよう。……んでなんで白崎がいるんだ?聞いてないが」
「ごめんなさい、でも香織から言ってもらった方がいいと思って」
「は?それはどういうーー」
俺は混乱した。わざわざ本人から言わなきゃいけない理由なんて思いつかない。
「有賀くん!」
「お、おう」
白崎の迫力に気圧される俺。
「私、ハジメくんのことが好きなの!」
「ーーーー」
「あのね、香織の言ってることは本当なの。だからーーー」
俺が固まったのを理解が追いつかなかったからだと考えたのか八重樫がフォローを入れようとしている。
だが、
「ハハハハハ!そうか、そういうことか!白崎!いいセンスしてるよ!」
急に大声で笑いだした俺に喫茶店の客がみんな何事かとこちらをみてくる。八重樫達も驚いている。
「なんで笑ってるの!」
俺が白崎の言葉をギャグだと思って笑っていると勘違いした白崎がすごく怒っている。ぷりぷりしている。
俺は笑い声を収め、真剣な目つきになる。顔は笑っているままだが。
「いや、
俺はとても嬉しかった、ようやくハジメの良さを知る人に出会えて。
誰も彼も口を揃えてハジメを「ダメ人間」と言いやがるからな。
「えっ?え?」
八重樫は俺が笑い出してから終始混乱している。それが可愛いと思ってしまった俺は末期だろうか。
白崎もあの流れからこんな言葉が飛び出すとは思ってなかったのかポカンと呆けていたが、やがて俺の言葉に飛びつくように肯定した。
「うん!ハジメくんはすごいよね!」
すごく嬉しそうにニコニコしている。これを白崎のファンに見せたら鼻血必須だろう。
「ああ。……っと八重樫、とりあえず落ち着け」
流石に混乱し過ぎなので八重樫を落ち着かせる。どうどう。
「え、ええ。……すぅーはぁー、落ち着いたわ」
八重樫はゆっくりと深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「……で、香織が南雲くんに構う理由はわかったのよね」
「ああ、もちろん。こういう理由なら俺はむしろ応援するぜ」
「本当⁉︎」
白崎が身を乗り出して顔を近づける。近い近いいい匂い……ハッ!邪念よ、去れ!
「本当だ。ただ俺がハジメをどうこうすることはほとんどないぞ(自分に利がなければ)」
白崎を押し戻しつつ、あくまで不干渉だという主張はする。
「うん、それで十分だよ。ありがとう!」
「いや、お礼を言われるようなことはしてないんだが……まぁいい。それよりもこれ、連絡先だ。ハジメの素晴らしさを知る人同士なんだ。ハジメ関連の話ならいつでも聞いてやる。
八重樫もだ。多分これから色々話すと思うから。
……必要無かったら捨ててくれ」
そう言って連絡先を書いた紙を渡す。電話番号とL○NEのIDだ。こっちから渡す分には大丈夫だろ。
もし、連絡先を貰ってファンの奴らにバレでもしたら嫌な視線がビシバシ刺さることになる。それだけは避けねば。
「わかった!ありがとう有賀くん!」
「ふふっ、そうね。ありがたくもらっておくわ」
2人の反応を見るに迷惑ではないらしい。よかった、もし迷惑がられていたら黒歴史確定事案だからな。……待てよ、すでにこれ、黒歴史なんじゃ……
「あー、うん。で、俺は帰るけど八重樫達は?帰るんなら送っていくが」
そう考えて居た堪れない気持ちになり、変な返しをしてしまった。止まれ俺!これ以上黒歴史を作る気か⁉︎
「これから他の子と合流して遊ぶ予定だから大丈夫だよ」
やんわりと断ってくれる白崎。断ってくれて嬉しいんだけどなんかモヤモヤする。これが矛盾する気持ちというものか!……嘘です。めっちゃ悲しいです。
「そうか。なら帰るわ。じゃあまた学校で」
「有賀くん、またね!」
「ええ、また学校で」
美少女に見送ってもらえるのは役得かな?
そう思いながら店を出てハジメについて考える。
(どうしようかなぁ〜。あれじゃああからさまに避けるのもよくないし、かといって接点が少ないのに人目につかない場所で話すってのも無理だし。じゃあ接点を作るしかない?どうやって?……あ、あれならいけるな。俺も楽しめるし。そうすると八重樫にこちらからかけられないのは痛いな。……まあ、なるようになるか)
俺が思考を終えて周囲に気を配るとなぜか周りがドン引きしていた。
……どうやらニヤニヤしながら歩いていたようだ。うん、ガラスで確認したがこれは引かれてもしょうがない顔をしていた。気をつけねば。
その後、俺発案のダブルデート(ハジメと白崎の接点を作るため。俺の私欲も入っているが)があったり、白崎のハジメ語りがあったり、八重樫の延々と聞かされる愚痴大会があったりとしたが全て割愛。
だってダブルデートのくだりとか恥ずかしいし、俺が意識しだしたときとか語るの嫌だし。というわけでカット!
まあ、そんなこんなで仲良くなった俺と白崎と八重樫は互いにプライベートの時はそれぞれ名前で呼ぶようになった。
そして特に事件はないまま、異世界召喚の日がやってくる。
「やべえ、遅刻だ!」
ダブルデートが気になる人がいるなら書こうと思います。扱いは前日談の番外編ということになりますが。