一夏くん、強くなろうか。 作:妙見
女、女、女。どこを見ても女しかいない。しかも総てが好奇の視線でこちらを射抜いてくる。こちらが視線を向けると色めき立つか、携帯で写真を撮るか、慌てて目を逸らす。
「何とも言えないところに来てしまったなあ」
珍獣扱いされている現状に、織斑一夏は一人嘆息する。このため息一つでさえ様々なリアクションが返ってくる事を見るに、三日後には本人に無許可でまんじゅうやらハッピやらが売り出されるのではないかと本気で心配になってくる。
この様な場所が果たして現行最高とされている兵器の訓練校なのかと本気で疑ってみるが、手渡されたパンフレットには間違いなく「IS学園」と書かれている。
──千冬姉には迷惑をかけてしまったなあ。
姉の千冬は取り押さえられた一夏を迎えに、態々政府の施設にまでやって来てくれたのだ。あまりにも早い迎えに思うところがあったが、ともかくまたしても迷惑をかけてしまったことが一夏の心に重くのしかかっていた。
「千冬姉、なんか……ごめん」
「何を謝る、これは誰にも予測できなかったことだ。誰が悪いなぞ最初から存在しない、良いな?」
「俺はこれからどうなるんだ?」
自らが例外中の例外になってしまったことにより、最悪モルモット扱いを受けて二度と日の目を見れない可能性だって考えられる。
「IS学園に強制入学……だろうな。お前の意志は当然無視されることになるが」
「仕方ない、モルモットよりは待遇が良さそうだ」
一夏は即決した。
直ぐにISの適性検査を受けさせられたが、平均値より上を出したみたいで取り敢えずモルモット扱いは免れることが出来た。続いての実践試験はISを直に纏って教官機との戦闘であったが、相手が慢心していたのもあってか、接近してきたのを組み付いて刀の柄で滅多打ちにしてやると合格判定が出た。
その後、あれよあれよという間に手続きは進み、電話帳と見紛う教科書を与えられた結果がこの珍獣扱いである。
「剣を振りたい」
斯様な扱いを受けるのであれば、一人俗世を離れて剣に打ち込む生き方でも模索すればよかったかと真剣に悩み始めようとした時、声をかけられた。
「織斑一夏くん!あ、あのぅ自己紹介してもらえるかな?今、ちょうど『お』のところなんだけど……?」
何事かと顔を上げれば童顔な学年副担任である山田先生が心配そうな表情でこちらの反応を伺っている。サイズの合ってないメガネが余計に年齢の近さを錯覚させる。
それならばと、一夏は起立した。全身に女子たちの視線が突き刺さる中、彼は軽く深呼吸すると短く述べた。
「織斑一夏!以上っ!!」
正直、自己紹介と言われても何を言って良いのか分からんという事もあったが、今の自分には老人たちから受けた剣術をさらに磨き上げるという崇高な使命がある。それに比べればこの様な自己紹介程度など不要の一言に尽きる。つまらない事にエネルギーを使いたくはないのだ。
また、彼の剣術の師匠の一人曰く。
「顔はいいので女は必要以上に群がる。少々刺々しいほうが良い選別になる」
とのこと。
自己紹介が淡白すぎたせいか、何人かの女子生徒がずっこける音が聞こえるが意に介しない。そのままどっかりと椅子に背を預ける一夏。すると、背後から殺気が飛んできた。
「ふん!!」
同時に出席簿が凄まじい速度で振り下ろされるも、一夏は両腕を挙げでそれを防ぐ。手の平から肘にかけて雷が走ったような痺れが広がり、思わずうめき声が漏れる。
「受け止めた度胸は認めてやるが、まだまだ実力不足のようだな」
「ナァに、卒業までには超えてみせる!!」
周囲は呆然としている。IS乗りを志すものならば知って然るべき超有名人が現れただけでなく、自らが下等と見做している男子がその一撃を受け止めたのだ。それだけではなく、この在学中に超えることを明言するという大言を吐いたのだ。
「ふん、期待せずにおこう。──さて、諸君。私が織斑千冬だ。君たち一年を二年になるまでに使い物にするために指導させてもらう。怪我をしたくなければ私達の指導をよく聞き、理解しろ。そうすればこの学園生活を実り多く過ごすことが出来るだろう。反抗してもいいが、少なくとも私の言うことには耳を傾けろ。良いな?」
そう告げた黒いレディスーツに身を包んだ凛とした女性教諭──織斑千冬は、鋭い視線を呆けている生徒たちに向ける。反応は無い。皆、眼前の出来事の処理に脳が追いついていないのだ。
「ふん、沈黙は肯定と受け取るぞ。さて、早速だが授業を始める。教科書を出せ」
通常の学校などとは違って、IS学園はオリエンテーションの類は行わずに早速授業を開始する。IS関連の学科の他に通常教科の授業も行うからだ。一時限目の『IS基礎理論』を終えたばかりだが、一夏の心中は穏やかではなかった。
「ぜ、全然分からん」
男であるという理由から、IS関連の知識は男子だと興味本位で近づかないと専門的な勉強は出来ないようになっている。一夏はISに全く興味を持っていない状態であったが故に、IS関係の知識はそのへんの雑誌レベルに毛が生えた程度の知識しか無く、専門用語の羅列に全くついていけなくなっていた。
「落ち着け、落ち着くんだ織斑一夏。先ずは分かるところを見つけて、山田先生に補習を自主的に頼むんだ……鍛錬の時間が減るがそこは寝る時間を減らせばどうにでも……」
「ちょっといいか?」
「すまん、後にしてくれ」
誰かに話しかけられたが、間髪入れずに断りを示した。いくらISに興味がなくとも郷に入っては郷に従わねばならない。なるべく周囲との遅れを取り戻さねばならない状況下において、他人とのかかわり合いに注意を割いている暇などなかった。
すぐに教科書にはわからない点や単語にアンダーラインやマルが手早く付けられていき、あっという間に数ページが真っ赤になっていく。
「なっ、何だと!?お前はいつの間にそんな薄情なやつになったのだ!!」
「この状況下で邪魔するお前は何だ?鬼畜か悪鬼かなんかだろうな。こっちは遅れを必死で取り戻そうとしているんだ。邪魔するんじゃない」
捲し立てるような一夏の反論に、何者かは矛盾を指摘された武具売りの様に言葉に詰まって何も言えなくなってしまっていた。さて、邪魔者はいなくなったとばかりに作業に没頭しようとすると、再び声をかけられた。
「あら、それならばわたくしが教えてあげてもよろしくてよ?」
──天の助けか!
一夏は藁にもすがる思いで顔を上げると、明らかにこちらを見下したかのような驕慢に満ちた表情でこちらに歩み寄ってくるブロンドの美少女が居た。
「あ、結構です」
「何でですの!?」
瞬時に地雷臭を感じ取った一夏は目にも留まらぬ素早さで両腕で☓を作る。こういう輩は一度下手に立つと驕慢さがエスカレートして、一挙手一投足を教わるのに靴を舐めるよう要求してくる類の難物であることを事前に悟ったのだ。
「私は代表候補生で入学試験の教官を唯一倒した……」
「ええい一夏!幼馴染たるこの私に対してその態度は何だ!大体6年ぶりにだな……」
何たることか、先程黙らせた女子生徒が再び一夏に向かって食って掛かってきたではないか。どうやら思った以上に頑固な性格であったみたいだ。だがいくらなんでも状況が悪すぎた。
「ちょっと!今はこのわたくしが話しかけているのですよ!?下がっていてくださいまし!!」
「うるさい!最初に話しかけたのは私だぞ!!それを後からズケズケと……」
「うるせえええええええええぇぇぇ!!」
案の定、もう一人のブロンド驕慢美人と口喧嘩の様相に持ち込まれてしまい、結果として、一夏の貴重な休憩時間は金切り声のステレオパーティによって磨り潰されるように浪費されてしまったのであった。
原作を読み返してるけどセシリアさんよくボッチにならずに居られたなあ……。