IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第1章~激動の始まり編~
第1話


ISとは稀代の大天災(誤字にあらず)が生み出した史上最強と位置付けられている兵器の事である。元々は宇宙空間での活動を想定、開発されたマルチフォーム・スーツであったがそれは自らの行為によって将来の道を捻じ曲げた上に変質させた。開発者である篠ノ之 束が起こした大事件、通称「白騎士事件」と呼ばれる一大事件による影響である。

 

日本へ向けて放たれた2000発以上のミサイルの半数以上をたった一機のIS、事件の名にも示されている存在「白騎士」が撃墜した。天災が行ったマッチポンプというのが最も有力な説になっているが詳細は不明。しかしそれは宇宙進出のためのものではなく軍事用パワード・スーツとしての転用という道をISは進んでしまう。まあ自らがそう定めたのだから自業自得と言えるだろう。

 

そんなISは女性しか動かせないという途轍もない欠点を抱えているに加え心臓部とも言えるコアを製造できるのは篠ノ之博士のみ、その肝心の博士は467のコアを製造し各国に配布した後に姿を眩ませた。ISの登場によってあらゆるバランスが崩れ掛かっている世界、女性を優遇すべきだと主張する一部の女性達やISはもっと時間を掛けて研究し発展させるべきだと様々な意見が飛び交う中、ある大事件が起こった。世界初の男性操縦者が現れた、それによって世間はその話題で一色であった。

 

がこれによって大きな被害を受けた少年が居た。本来進むべき筈の道を捻じ曲げられ平穏とは程遠い世界へと入る事となってしまった……運命に魅入られてしまった不幸な少年……彼はどのように生きて行くのだろうか。

 

 

桜が咲き晴れやかな気分になるはずの季節だが既に桜の殆どは散っており如何にもそんな気分には慣れない少年、杉山 カミツレは真新しい制服に身を包み、新しい学び舎(IS学園)の教室に居た。むせ返りそうな程に満ちているような女性の香りというよりも香水と貫くような視線の数々。何故こんな事になってしまったのだろうと溜息と絶望ばかりが頭を過ぎってしまう。静岡県に住んでいたカミツレは地元の高校へ進学が決まっていた。米農家である祖父の跡を継ぐ為の勉強として農業高校に入る筈だったのに何時の間にか言うなれば工業高校に進学させられていた。

 

「(……まあっいきなり研究所送りとかにされないだけマシだけど、人権絡みで保留って扱いなんだろうなぁ……)」

 

正直このIS学園に進学させられた事で自分の夢であった祖父の後を兄と一緒に継ぐ事は完全に絶たれたと言っても良い、これから自分は間違いなくISに巻き込まれて生きていくしかない運命にあるのだろう。そもそも二人目は研究の為に使えば良いと無理矢理研究されるよりは何百倍もマシ、であるだろうが……それでも何時までこの身分で居られるのか全く分かった物ではない。求められているのは結果のみ、努力と苦難の道しか待ち受けていない。このような現状に置かれなければならないそもそもの原因へと目を向けた、それは顔を青くしながら震えている織斑一夏であった。

 

もしかしたら自分が最初になる場合とて有り得たかもしれない、ならば自分こそ彼に怨まれる側だったのかもしれない。ならば怨むべきではないのだろうが……生憎カミツレはそこまで良い善性を持ち合わせては居ない。幼い頃から尊敬していた祖父、祖父の作る米が大好きで自分の力の源でそれは兄も同じだった。家族、いや親戚全員に自分の作った米を送り全員を幸せな笑顔にする祖父を兄である一海と共に酷く尊敬していた。だから自分達も人を笑顔にするお米を作りたいと思っていたのに……その幼い頃からの夢を壊された挙句、家族にも多大な迷惑を掛け、自分が人間として扱われるかも怪しい状況になるかもしれない現在に陥れた一夏に対して良い感情など向けられない。

 

必死に自分を抑えつけつつも息を整える、間もなく授業が始まるからだ。

 

 

「ハァ……」

 

溜息と共に休憩時間は始まった、SHRから直接始まった一時間目に何とかついていけている事に僅かながらの安心感を覚えたカミツレ。今日に至るまで一体何度参考書を読み直したのか分からない程だ、電話帳ほどに分厚いボリュームがある参考書は既にヨレてきており自分でもよくもまあこれほどになるまでに読みこめたなと感心するレベルだがそんな事をしている暇もない。早速ノートを取り出し先程の授業の復習と予習を開始する、授業中にも考えたが矢張り自分に休んでいる時間など無いと改めて思い出来る時間にやるしかないと思い立った。

 

「ねぇあの人が噂の男性IS操縦者?」

「長い髪だねぇ、ちょっと羨ましいかも」

「わぁもう自習?凄い真面目……」

「ちょっと良いかも……」

 

周囲の女子達はなにやら話しているが気にしている暇などない、気を取られようとした時に一気に不安が押し寄せてきている。それらを振り払うかのように復習に集中する、死への恐怖にも似ているそれに駆られるかのような衝動に背中を強く押されながらペンを動かし続けながら必死に頭の中に叩きこんでいく。自分に求められているであろう物を果たす為に、それは即ちに自分の生死に拘るのだから必死にやる。人間としての生活が一番、研究材料としての生活なんぞ御免だとその一心で勉強を続ける。

 

「なぁ、あのちょっと?」

 

何か声が聞こえてくるがカミツレの耳には入ってきていなかった、ハッキリ言ってそんな事に構っていられるほど余裕なんてない。聞こえてはいるのだが認識が全く出来ていないのが現状であった、それでも声の主は話し掛けるのをやめない。それで漸く認識出来たのか顔を上げて見るとそこには心底嬉しそうな笑いを浮かべているイケメンが立っており衝動的に殴りたくなるのをカミツレは必死に抑えつけた。

 

「やっと気付いた!なぁお前もIS動かしちゃったんだろ!?俺、織斑 一夏だ宜しくな!!」

 

動かしちゃった……?そもそも誰のせいでISを動かすような現実になってしまったのかと思ってしまった、お前がISなんぞ動かさなかったら自分は今ここには居ないのだから。

 

「……ああ、杉山 カミツレだ」

「カミツレって珍しい名前だな、どう書くんだ?」

「知らん、戸籍の上でもカタカナだからな」

「ふぅんなんか変な感じだな。まあいいやこれから仲良くしようぜカミツレ!!」

 

正直言ってカミツレが一夏に対して抱いている物のそれは決して良い物ではない、これのせいでこんな目に遭っているという認識だしそれがなくてもいきなり人の名前の事を変だと言ってくる上にいきなり名前で呼び捨てにしてくる、これで良い印象を抱けというのはカミツレ的には無理という物だ。

 

「ところでさっきから何やってんだ?」

「復習と予習だ」

「もうやってんのか!?うへぇ真面目なんだなカミツレって……」

 

真面目なのではない、こうでもしないと結果が出ない上に授業で置いていかれるのが目に見えているからだ。自分だって復習も予習も大嫌いだが自分の命が掛かっていると考えれば真面目にやるしかなくなってくるのだからしょうがない、というか何故こいつはそれをしないのかと疑問に思える。優秀な姉にでも既にある程度教えて貰っているから楽勝とでも言いたいのだろうか。

 

「でもいきなり根を詰めたりしても逆効果だと思うぜ、まだ始まったばかりなんだからゆっくりやった方が良いと思うけど」

「……ご忠告どうも」

 

そんな事など言ってられるか、自分は―――実験材料にされるなんて御免だ。


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