IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第10話

シャワーノズルから溢れだすお湯、程よい熱さは肌に当たっては弾けて身体をゆっくりと暖めて行きながら彼女自慢のボディラインを流れていく。均整の取れた身体の曲線美は自慢の一つでもあった、やや胸が小さめという事が気になるがそれが逆にバランスの取れたラインをかたどっているので本人としては複雑な心境を生み出している。シャワールームにて一人で頭からお湯を浴び続けているセシリアは胸に手を当てながら物思いに耽っていた。

 

「(今日の試合、今まで、感じた事のない感覚でした……)」

 

IS稼働経験僅か2週間、二人目の男性IS操縦者である杉山 カミツレとの試合は彼女にとって驚きの連続であると同時にひどく充実した物であった。しかしそれは何時も勝利への確信と向上の欲求を抱き続けていた彼女にとっては初めての経験に近い物であり、勝てなかった筈なのに清々しく嬉しさすらあった。千冬からその気持ちを大切にしろと言われたが初めて経験する物に慎重な思いを募らせてしまっていた。

 

「杉山、カミツレ……」

 

同室であり今もベットで眠り続けている彼の事を思い出す。あの強い意志と覚悟、そして自分が見据えた未来へ絶対に行ってみせるという迫力は今まで彼女が出会った事がないような男性であった。あれだけの強さの理由は現実を見ているからこそだと真耶から言われた時には驚いた。彼は恐れているからこそ努力し前に進もうとしているのだ。男性IS操縦者として結果を出せなければ後ろ盾のない自分が確実に研究所に送られ全世界の男性がISを使う為と称して非人道的な毎日が待っていると。命の危険という恐怖と必死に戦いながら自分と渡りあったカミツレ、彼の事を思うと胸が熱くなってしまう。

 

「ミスタ・杉山……カミツレさん……」

 

今までの呼び方ではなく思い切って名前を言ってみると、不思議と胸が暖かくなっていた。あの人と一緒に居たい、ずっと彼の事を見ていたい……傍に居て支えてあげたいという思いがどんどん募っていく。何処か苦しい筈なのに感じる嬉しさに動揺しつつも良い形になっている唇に触れる。

 

「カミツレ、さん……私は、貴方の事が……」

 

そう形にする前にもう一度シャワーに頭から突っ込んだ、そしてある事を決めながらノズルを止めシャワールームから出て行く。新しい制服を着直すと部屋へと出る、ベットには心労と疲労で穏やかな寝息を立てている彼の姿があった、思わず彼の髪をそっと撫でてから自分の机に向かい、ノートパソコンを起動。アプリを起動させながらマイク付きのヘッドフォンを付ける、起動が終了すると連絡先をクリックする。その連絡先は―――イギリス本国。少し待つと画面に複数のウィンドウと共に本国のIS関連の政府官僚が映し出された。

 

『ミス・オルコット、連絡を待っていたよ。それで一体何の連絡かな』

「はい、今回連絡させていただきましたのは他でもありません。男性IS操縦者である杉山 カミツレについてです」

 

そう議題を提出させられた官僚達はほぅ、と言葉を漏らしながらセシリアの言葉を待った。

 

「本日私は男性IS操縦者である二人と対戦を行いました」

『それで結果は?』

「1勝1引き分けでした」

 

隠す事もなく真実を告げるとスピーカーからどよめきの声が聞こえてくる。セシリアは国内の代表候補生の中でも上から数えた方が早い実力の持ち主であり、次期国家代表にも近い人物と言われている。そんな彼女が今までIS稼働経験がない相手に引き分けたという事実は衝撃的なニュースなのだ。

 

『そ、それは矢張り戦乙女(ブリュンヒルデ)の弟であるイチカ・オリムラなのかね!!?』

『矢張り優れた姉には優れた才能を持った弟、という事でしょう』

『矢張り凄いのだなミスオリムラの弟君は!!』

 

と勝手に言っている官僚達に内心で苦笑いを浮かべてしまった。実際には彼には勝利している。しかし彼らが期待しているような内容ではなく、正に大番狂わせが起きたのだから。

 

「いえ違います、織斑 一夏は私に敗北しております。引き分けたのは杉山 カミツレです」

『『『な、なにぃ!!?』』』

『し、しかし彼は一般家庭の出だと聞いておりますよ!!?』

『祖父は軍属経験があると資料にはあるが、それでも事実なのかねそれは!!?』

『しかしミスがこのような嘘を言うなど有り得ませんぞ!!?』

 

明らかな動揺とまさかの報告に官僚達は大きく取り乱していた。しかし無理もない。カミツレは正真正銘一般家庭の生まれ、親族にIS関連の仕事をしている者は一人もいない極平凡な男なのだから。そんな男がセシリアと引き分けたというのは中々信じられる物ではない。セシリアもこのままでは納得して貰えないだろうと彼の師匠の名前を出す事にした。

 

「落ち着いてください、彼は今日までの2週間ある人物の元で特訓を行っていたのです。その人物の指導と彼の覚悟と思いが強さを付けたのです」

『そ、その人物とは誰なのですか!?ま、まさか戦乙女!?』

「いえ『銃央矛塵(キリング・シールド)』という二つ名を持つ山田 真耶教員が彼の師となり指導を行ったのです」

『"銃央矛塵"ミス・マヤ・ヤマダか!成程、確か彼女は実力こそ戦乙女に劣るが指導力という点では上回ると聞く。彼女ほどの師の下ならばあるいは……』

『しかしそれでも僅か2週間ですよ、それでミスと渡りあうなど、信じられません……』

『ミスター・杉山は恐るべき成長力を持っているのかもしれませんな』

『これは、ミスター・織斑よりもミスター・杉山にアクションをとるべきなのではないか?』

 

様々な意見や感想を述べているが誰も分かってはいない。彼の強さの秘密は理解してこそ納得が行く物なのだ。セシリアは意見を飛ばしている官僚にストップを入れてカミツレの強さの秘密を明かした。それらを聞いた官僚達は驚き、呆然とし、感心し、納得した。そしてその強さの秘密を理解した。

 

『成程……確かにな、そのような事が待っていると思うと強くなれた。いいや、なるしかなかったのか』

『納得が行って、しまいますね……男性IS操縦者だと騒いでいた自分が恥ずかしいです……まだ、15,6の少年にそこまでの恐怖を与えてしまっていたなんて……』

『死への恐怖か……そこから少しでも遠ざかりたいという一心で努力したという訳か……』

『立派、というしか言葉が見つかりませんな』

「そこで私は提案をしたいのです。私、セシリア・オルコットは杉山 カミツレさんをイギリス国家代表候補生への推薦を強く希望いたします!!」

 

その言葉に一同は驚きつつも納得も出来た。彼が恐れているのは研究所へと送られる事。それは後ろ盾がない事が一番の原因とも言える。それならば自分達がその後ろ盾となってしまえば良いのだと。彼の家族やカミツレのバックにはイギリスが付くという事になりそう簡単には手出しが出来なくなる。それに加えてイギリスとして非常にメリットが大きい。交渉の材料としても男性操縦者のデータとしても優秀な操縦者獲得という面で見ても圧倒的なメリットがある。

 

『成程、これは早急に協議を行い詳しい内容などの選定に入るべきでは無いでしょうか。私としてもミスター・杉山を代表候補生として迎え入れるには大いに賛成です』

『私もです、正直戦乙女の弟であるミスター・織斑も魅力的ではありますが確実性を取るにはそちらの方が良いでしょう』

『ふむ激しく同意ですな。私個人としても彼を守るために力を尽くしたいと思います。英国紳士として』

『ではそのように進めるとして迅速且つ精巧なプランを用意する事としましょう。宜しいですな』

『『『異議無し』』』

 

その言葉を聞いたセシリアは思わず心がますます暖かくなって行くのを感じた。これで彼に選択肢を作ってあげる事が出来ると。ホッとしている中、官僚の一人がニヤついた声で尋ねてきた。

 

『所でミス、そこまでミスター・杉山の事を頼むとは……もしかして彼に惚れましたかな?』

「なっ!!?」

『ほほうそれはめでたい事ですな!いやぁ矢張り恋は若い時にしないといけませんからなぁ』

『若い男女が見つめ合う。そして次第に重なる腕と腕。絡め合った指からは伝わりあう互いの体温。くぅぅ良いですわねそういうの、私大好きですわ!!』

『いやぁもしかしたらオルコット家の旦那と呼ぶ日が来るかもしれませんなぁ』

「あそそそそそそそんな事ととととことは!?そ、そのもう失礼致しますまた何れご連絡いたしますので!!!」

 

顔を真っ赤にしながら連絡を切る、熱くなってしまった顔、まさかと思っていたが本当に自分はこの男性に恋をしてしまっているのだ……今確実にそう実感した……。そして思わず妄想してしまうセシリア。大人となった自分とカミツレが屋敷のバルコニーにて綺麗な月を眺めながらワインを飲んでいると彼から抱き寄せられそのまま口付けを……。

 

「いやんいやんいけませんわ私ったらはしたない!?いけませんわ高鳴りが抑えられませんわ、でもああ、いけませんわこんな所でぁぁん、カミツレさん……ぁぁぁっ……」

 

本人が熟睡している直ぐ近くで妄想の世界に入ってしまったセシリア、彼女の恋は叶うのだろうか。

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