「如何した、部屋に戻ったのではないのか」
「束さんがセシリア達とガールズトークを始めちゃって、男は逸早く退散したって訳ですよ」
月明かりによって照らされている屋上、その下にて顔を合わせた千冬とカミツレ。千冬は意外な邂逅と思ったのかやや眼を丸くしている、出来る事ならば会いたくなかった人物とであったかのような印象を少し受ける。
「千冬さんは?」
「寝る前に酒を抜こうと思ってな…少し月見だ」
「へぇ千冬さんもこういう事するんですね」
「なんだと言ってくれるなぁ、ああっ?」
「いてててっっ!!?き、決まってます決まってます千冬さぁん!!?」
意外そうな表情で言ったカミツレの腕を決める千冬、そんな一撃を成す術なく喰らい腕が悲鳴を上げるのに合わせるかのように声を上げる彼。此処までやっておいて千冬は思わず何をやっているんだと自分を戒め、開放する。簡単なじゃれあいなのだがするつもりはなかった、しかし思わず自然な流れでそれをやってしまった。
「しかしあいつが来ているのか、そう簡単に入られると学園の警備が不安になるというかあいつだからしょうがないと思うべきか……なんともいえんな」
「その辺りは束さんだからしょうがないと思いますよ、あの人だったらワープゲートを作ってましたとか言われても別段驚きませんし」
「否定出来んから困るなそれ」
何処かウンザリぎみに言葉を吐き出す自分に対して向けられてくるカミツレの言葉と気持ちが妙に嬉しい、今日まで何度も掛けられてきた物のはずなのに妙に感情が揺れ動いてしまっている。今まで自分が感じた事もないような大きな物、それに不思議な物を感じつつも苦しさは感じない。寧ろ…心地よさすら感じる。
「そう言えばお前は一線越えたのか?まあ避妊さえすれば文句言わんが」
「……あの千冬さん、アンタ一応この学園の教師なんですからそこは風紀があるからするなとか言うべき所でしょ……」
「こんな学園の教師だからこそ、だろう。下手に溜め込んで爆発されても困るからな、適度に発散させた方が身体にも良いと言うものだ」
取り敢えずノーコメントにしておくと言うカミツレに悪戯気に笑みを浮かべる千冬、困惑するかのような困り顔に思わず顔が歪む。矢張りカミツレのこの表情は見ていて飽きないし面白味がある。しかし、ここでカミツレも反撃にでた。
「そ、そういう千冬さんこそ相手とかいないんですか!」
「むっ私か」
「そうですよ毎回毎回俺ばっかりじゃないですか!そんだけ美人でカッコいい千冬さんなら良い相手がいるんでしょうね!!」
「いると思うのか、こんな職場に居るのに」
一瞬死んだ目になった千冬を見て全てを察したカミツレは素直に謝罪した。実際千冬は世界最強という称号のせいでまともに男との出会いがない、加えてこんな職場に勤めている影響で男との出会いは極端に少ない。まともに出会う男と言えば行き付けのバーのマスター位だろうか、後は自分の弟とカミツレ位なのが割とマジな話である。
「だからこそ、私はお前を弄るのだよ」
「Oh……こうなったら俺の兄貴でも紹介するかって駄目だ、あのクソ兄貴ドルオタだった……」
「ハッハッハ諦めたまえカミツレ君、君は私の物になるしかないのだよ」
「なんてこった……」
笑いながらカミツレの肩に手を回す、そして自分の言葉に本心が出ている事に気付いた。そして先程から心に沸き上がってくる心地よさにも漸く気付く事が出来た。これでは一夏の事を言えないじゃないかと溜息ながらこれは―――好意だと気付く。
今日まで生きてきて初めて感じる異性への好意、弟を養う為に青春を擲って生きてきた。その事に悔いはない、大切な家族を養うのは当たり前の事なのだから。だが……もしも、我侭を言っていいのならば、自分の為に少しでも生きて良いのであれば……この気持ちに素直になってみたい、この気持ちが真実なのかを確かめたい……。千冬はそのままカミツレの事を抱き寄せ、そのまま深く抱きしめた。
「ち、千冬さんっ……?」
「……」
いきなりの事で驚くカミツレ。しかしセシリアや乱、それに束との触れ合いがあったからか比較的に落ち着いていたが千冬の様子が普段とは何か違う事が分かる。今まで彼女からの行為を受け続けてきたからだろうか、千冬は純粋に自分を求めているかのように感じがする。何か辛い事でもあったのだろうか、何か精神的に来る事があったのだろうか。それなら自分は少しでもそれを癒す手伝いをしたい、そう思い千冬の背中に手を回して軽く抱き寄せた。
「千冬さん、何かあったのか聞きません。でも俺に何か出来るなら言ってください、力になりますから」
「……優しい、な……お前は」
「千冬さんほどじゃないですよ」
そう言って慰めてくれる彼の気遣いが痛いほどに嬉しい、彼の体温を感じると不思議なほどに心が落ち着いていく。今思うと初めてカミツレに対して弱音を吐き、弟にすら見せなかった自分の本当の姿とも言える物を見せていた時から…好きになっていたのかもしれない。今こそ確信出来た、自分はこの少年の事を好きになってしまっているのだと。優しい彼が好きだ、困ってくれる彼が好きだ、頼ってくれる彼が好きだ、慰めてくれる彼が好きだ……ぁぁどうしようもない位に好きだ、心を奪われている……。
「カミツレ、少し聞いてもらいたい事がある。いいか」
「俺で良ければ」
「お前の負担になるかもしれん」
「今更過ぎませんか。あのハニトラ訓練だって十分負担だったんですから、もう変わりませんよ」
小生意気に言い返してくるカミツレに笑いかけながら正面から見つめる、息を整えてから素直に言った。
「私はお前の事が好きなようだ、だからこれからも宜しく頼むぞ」
「はい分かりま……えっ―――」
どういう事何だと問おうとした言葉は後に続かなかった、困惑からではなかった。もっと激情的な物に塞がっていていた。熱い千冬の口付けによって、自分の唇が奪われていたからだった。困惑する彼の手を取って官能的に腰に手を回しつつ更に深くまでする千冬は、彼との間に銀の橋を作りながら少し離れた。そこには目を右往左往させながら自分を見てくるカミツレの顔があった、それに思わずゾクゾクと何かが掻き立てられる。
「ああそうだ……その顔が一番ソソる……」
「ち、千冬さっ―――」
再び交わされた熱い口付けにカミツレはまた言葉を失った、しかし抵抗する気もなくただそのまま、彼女に成されるがまま、交わし続けた。
……あっれ~……マジで如何してこうなった?
確か初期案だと、ちっふーはセシリアとかの為に身を引く筈だったのですが……
引いてねえじゃんガックリ食いに行ってるじゃねえか!!!
これじゃあカミツレ君がヒロインじゃねえか、というか今までのセシリアとかの絡み的に考えるとどっちかというとカミツレがヒロインポジ的な事になってる!!?
あれ、ISってこんな物語だったっけ!!? <ナニヲイマサラ