千冬からの衝撃的な告白とそれを受け入れてから数日、カミツレは千冬との関係が漏れないように必死に側を取り繕いながら生活を送っていた。時々授業中、千冬からの自分にしか伝わらないようなさり気無いウィンクにドキドキしつつも学業に打ち込みつつもISの技術向上に努めていた。
「なぁカミツレ、最近千冬姉機嫌よくないか?何かあったのかな」
「さあな。自分の弟が3位入賞して自慢できるようになったからだろ」
「へへっそうだとしたら俺は嬉しいな。そうだ模擬戦やろうぜ、俺が勝利貰ってやるからな!!」
「今までの戦績が13戦全敗の奴が言うと勝利宣言の軽さが際立つな」
「うるせぇ!!というか俺の「白式」とお前の「蒼銀」の相性が悪すぎるんだよ!!」
「手加減してやろうか」
「いらねぇよ、今に見てろ今日こそ勝ってやるからな!!!」
偶に鋭く突いて来る一夏の言葉を上手く受け流しつつも、彼が義弟になるのかと思いを巡らせながら彼が告白しようとしている箒も将来的に自分の義妹になるのかと思うと途端に頭が痛くなってくるのは何故だろうか。同級生が二人も義理の兄弟になるなんて、誰が体験した事があるだろうか……。
「カミツレ、夜行くからな」
「……またっすか……?」
「嫌だと言っても行くからな」
「……まあ自由にしてください、一応セシリア達にも言って下さいよ。平等って約束なんですから」
「分かっているさ」
そして、いざ恋人同士になってみると千冬は度々自分に甘えてくるようになった。もう隠す必要もなくなったという事なのだろうか、自分だってこうしたかったのだと言わんばかりに部屋を訪れては甘えてくるようになった。普段の凛々しい姿からは予想出来ないほどに柔和でか弱さをみせる千冬、そんな彼女を優しく受け止めるカミツレ。まるで依存して行くかのようにカミツレに愛を囁くようになった千冬に困りつつも彼女の願いを叶える彼にセシリアと乱も少し笑いながら、自分達もとせがんで行く。
「このこのぉやるねぇカッ君、あのち~ちゃんが甘々じゃない~♪流石私の旦那様♪」
「勘弁してくださいよ…まあ一緒に居るのは結構楽しいですし苦じゃないですよ。俺に出来るのは皆の不平不満とか、して欲しい事をしてあげて気分よくしてあげる事ですからね」
「さっすが奥さんたちの人心掌握術もバッチリだね!」
「いやまあ間違ってないでしょうけど…その言い方やめません?」
相手の心を受け止めて相手のして欲しい事、ストレスを共に解消して良い方へと導く。カミツレはどちらかといったらメンタルセラピストに向いているのではないかと思いつつ、彼に抱きついて頭を撫でて貰っている束は嬉しそうな顔をしながらそう思った。
「あっそうだ、実は今度カッ君にあって欲しい人がいるの」
「会って欲しい人……?束さんが俺にですか、コア人格とかじゃなくて?」
「普通に人間だよ。その子は束さんの家族なんだけど色々複雑な立場でね、便宜上束さんが引き取って娘にしているの。だからカッ君にとっても義娘にあるわけだから挨拶とかするのが妥当かなぁって」
「まあ利に適ってますけど…娘さんいたんですか……。これで俺は一体何児の父親になるんだ……?約500児の父親……?」
「君が束さんの子供のパパになるんだよぉ!!って奴だね♪」
「その言い方だけは止めてください、完全に俺被害者になってるじゃないですか」
一番接する機会が少なく、僅かな時間で千冬に恋人としての時間を逆転されてしまった束が訪れた時、彼女の口から子供がいる事が明らかになった。束の実の子供はISだけだが、どうやら複雑な事情が絡み合った末に引き取った義理の娘らしい。それなら早く連れてくればいいのにと聞いたがどうやら本人が中々その気にならなかったらしい。
「く~ちゃんって言うんだけどね、く~ちゃんは束さんが言う相手だから会って見たいとは思ってたみたいなんだけどね?束さんの旦那様って事は自分にとってのパパって事になるでしょ、だからそのパパにどんな顔をして会ったら良いのか分からないし恥ずかしくて中々踏ん切りが付かなかったんだよ」
「へぇ~…まあいきなり父親になる人だって言われて普通に接するのは難しいだろうな。割と妥当な反応だと思いますよ」
「でしょ、でも遂にもう少し心の整理をしたら会ってみたいって言ってくれたんだよ!束さん、嬉しくて抱きしめて泣いちゃったなぁ」
「本当にそのく~ちゃんのママですよ束さんは」
「えへへっ~ほらほら、パパもママを褒めていいんだよ~♪」
「はいはい、偉い偉い」
束も束で甘えてくるが何処か小動物が甘えてくるような感覚を感じる、完全に婚約するまでは一歩引いて気を遣ってくれているような気がする。そんな彼女に感謝しつつ不意打ちで抱きしめてみると束は擽ったそうにしつつも、嬉しそうな声を出す。
「んもうパパってば♪子供が見てるのに、恥ずかしいよっ♪」
「部屋に入ってくると同時に抱き付きながらキスして来たママに言われてもなぁ……」
『全くです。私の身にもなってくださいご馳走様です、保存録画は万全です。私のお宝ムービーフォルダにまた、お父様とお母様の仲睦まじい歴史がまた一ページ』
「おい今度は銀英伝か。因みにフォルダの殆どを占めてるのは?」
『ドライブの全話と劇場版の超高画質ムービーデータです』
「だと思った」
何処かどたばたながらも楽しい日常を送るカミツレ、そんなある時であった。早朝のトレーニングで外を走っている最中の事、海際の埠頭を走っている時にある物が目に付いた。
「あれって……まさか人か…!?」
それは黒い水着のような物を纏っている小柄な少女だった、カミツレにとって見覚えのあるそれはISスーツだった。まさか学園の生徒なのかと思いその少女へと駆け寄って、引き上げた。酷く身体が冷えており、ISスーツで隠れていない部分には無数の痣が見える。表情は高機動時に使用するバイザーに似ている物で隠れてよく見えないが、きっと顔色も悪い事だろう。
「こりゃ直ぐにでも手当てしないとっ……!そうだ千冬さんに連絡を…!!」
そう思いすぐに千冬に連絡を取るカミツレ、そんな彼に答えるように直ぐに千冬へは繋がった。
『如何したカミツレ、早朝から愛しの私へのラブコールか?それとも一緒にシャワーでもというお誘いか?』
「そうだったら嬉しいんでしょうけど違います!学園の生徒かもしれない子が打ち上げられてるんですよ!!凄い身体が冷えてて危ないです!!」
『なんだとっ!!?分かった、其方の位置はGPSで確認出来るから直ぐに行く!!』
切られた携帯をしまいつつ、カミツレは千冬が来るまで待つ事にする。しかしこの少女は一体何故こんな所に…兎も角抱き上げて楽な体勢にさせようとした時、少女の顔からバイザーが転げ落ち素顔が明らかになった。そこにあった表情を見た時、カミツレは思わず凍り付いた。そこにあったのは此方に向かっている筈の恋人―――織斑 千冬と瓜二つな顔をした少女の素顔があったからだ。