IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第109話

夢を見ていた―――。目の前に翳した手すら見えない、漆黒の闇の中に腕を水に叩きつけるような音だけが木霊し響いている。恐らく暗い海の中を自分は漂っているのだろう、徐々に身体の熱は海の冷たさに奪われている同化しているかのような感覚すら覚える。虚無へと帰り飲み込まれるのではないという、わずかな好奇心と恐怖が同時に襲い掛かってくる。

 

それから逃れるように、痺れる身体に力を込めて足掻いていた。そのはずだった、その甲斐があったのか自分は何処かの岩場に叩き付けられるかのように打ち上げられていた。わずかに聞こえて来る人の声、暖かな光が漏れだしているのが視界の端に映っている。だがそこへ身体を引き上げようとすら思わなかった、反射的に―――

 

 

『―――あそこにいる資格なんてない』

 

 

と思ったのだろう、半身を海に預けながら半身を岩場に任せる。虚無と今の狭間に身が揺蕩う。これでいい、これでこそ自分に相応しいものなのだと確信と安心を持ちながら、反論する何かを黙らせてそのまま凍てつく身体の感覚を楽しむ。だが突如としてそんな虚無から自分は引き上げられた、その恐怖を心のどこかで望んでいた筈の自分の意志など無視するかのように自分を引き上げる影がある。

 

影はそのまま、優しく抱き上げて光の方へと歩いていく。望んでいない(望んでいた)方向へと足を踏みしめていく、暖かな光が身体の氷を溶かしていくかのような感覚……それを拒絶(許容)している自分、そんな意志(SENSE)など意味はなく、他人の意志(SENSE)が自らの行動を決めてきた今までと同じ。だが……何かが違う気がする、靄のように不確定な何かだが確信めいた何かがある。それが何なのか理解は出来ないが……。

 

 

「―――、―――?」

「―――!?―――……」

 

何かが聞こえる、耳に何かが聞こえてくる。人を殺す物の類いの物ではない、人が人に向けて放つ優しくも暴力的な物であるそれ、言葉が聞こえてくる。視界は霞んでいる、朧のような光しか見えない。意識こそ覚醒し始めているが身体的な機能は弱っているらしい、回復には相当な時間が掛かるのだろう。

 

「というかこれ確実にそっちの関係でしょう。もしかして、隠し子とかだったりして」

「……決してないと言い切れないから困る、というか此処まで私に似ているって可笑しいだろう」

「でしょうね。俺も驚きましたよ―――千冬さんにそっくりなんですもん」

 

その言葉を聴いた時、意識が一気に覚醒する。「病は気から」という言葉があるが一気に目覚めた意識に呼応するかのように一時的に身体機能が回復する、目も耳も正常な機能を取り戻した。視界を巡らせていくと其処に居たのは長髪の男と凛々しい大人の女、身体を起こそうとするが肉体的な損傷と疲労などで身体は動かない。

 

「んっ起きたか、おっと無理に身体を動かそうとするなよ。低体温症で身体は危険な状態にあるんだから」

 

身体を起こそうとしているのが分かるのか、男は優しく自分を諌めた。気付けば自分はベットの上に横になっていた、何故そうなっているのか理解が追いつかないが非常に暖かな感触が身体を包んでいる。足元には湯たんぽが置かれているのか、非常に暖まる。

 

「口は利けるか」

「っ―――ぁぁっ」

「完全ではないが利けるか……」

「やっはろ~ってありゃりゃこりゃ珍しい場に出くわしたもんだ」

 

途端に騒がしくなった室内、一体何がどうなっているのか分からないが頭は途端に真っ白になってしまい会話は聞こえなくなった。

 

 

「亡国、機業……?なんですかそれ」

「言うなればテロ組織かな、私が壊滅させた」

「そうか、ではその元メンバー……待て私、サラッと壊滅させたと言う事実を受け入れて受け流そうとするな……」

「無駄ですよ千冬さん、だって俺も受け入れてましたもん無意識に」

「アハッ♪」

 

室内にはやってきた束の口から語られた事実、カミツレが海から引き上げ保護し千冬の手を借りて部屋まで運んで手当てをした少女の真実。彼女は以前学園祭を襲撃した際に千冬が撃退したISの操縦者であり、束が完全に壊滅させた組織の生き残りである事が明らかにされた。

 

「つまり、あれか。お前が間接的にだがIS学園に迫りつつあった危機を滅ぼしたと……?」

「束さんとしては、子供達に戦争とかテロさせる大馬鹿者共に鉄槌下しただけだけどね。副次的な効果としてそれが現れたって所かな」

「それでこの子は……千冬さんに瓜二つ……ですけど」

 

カミツレの見つめる先には先程まで確かに意識があった筈だが、再び混濁してしまったそれに呑まれてしまった少女がいる。話を聞く限り彼女もテログループの一員なのかもしれない、しかし自分は初対面でその出会い方からそれは連想しにくい上に恋人と同じ顔をしている。どちらかと言えば千冬の妹と言われた方がすんなり納得出来てしまう。

 

「一応情報は引き出したけどねぇ……言うなればち~ちゃんのクローニング体、世界最強の遺伝子(ジーン)複製(コピー)した紛い物って所かな」

「千冬さんのクローンって……」

「否定したいが…ドイツで遺伝子操作されて生まれたラウラの事を考えると有り得ないとは言えんな…」

 

肉体的な意味で世界最高峰の物を持っている千冬、世界最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)たる彼女が持つであろう遺伝子(ジーン)、それを無数に持った人類の誕生は最強の白兵戦闘能力を保持した武力の保持とも言える。兵器のみの強さを追求してもそれを扱える人間がいなければ、それはハイテクではなくただのローテク。ならばそれを使うに相応しい人間兵器を作る、ある意味合理的な考えだ。

 

「私のクローンか……」

「正確に言えば、ち~ちゃんの遺伝子。そいつらは戦乙女(ヴァルキリー)遺伝子って呼んでたよ、それを遺伝子操作して組み込んだ上で生まれた命、それがこれって訳みたいだよ。だからクローンではないけど複製者(クローン)に近い他人っていうのが良いのかもね」

「なんにせよ、聞いていて気持ちの良い話ではないな」

「まあ取り敢えずこれを打たせて貰うよ」

 

そういうと束は胸元から注射のような物を取り出してそれを少女の腕へと打った。注射器とは思えぬような平たいそれから、何かが流し込まれるような音がそれから聞こえてくる。

 

「何を打った?」

「これの中には監視用のナノマシンが入ってるみたいでね、一応組織自体は壊滅させてるけど念の為にそのナノマシンを殺すのと束さんが監視する為のナノマシンを打ったの」

「ナノマシンって……本当に束さんなんでもありですね」

「カッ君も打つ?夜の方も王者になれる奴」

「よし束それを貸せ、私がカミツレに打つ」

「千冬さんマジな目を止めてください怖いです」




実際この子は千冬さんのクローンって扱いで良いのか本当に迷う。

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