IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第111話

「さてと、全部食べてくれて貰えたし少しは身体温まったか?眠っている間結構震えてたから心配してたんだ」

「あ、ああっ大丈夫だ……」

「そりゃ良かった、んじゃちょっと食器洗うから失礼」

 

自分が平らげたお粥を入れていた器をシンクまで持って行って洗いはじめるカミツレ、未だに動揺が身体を包んでいる中で彼は鼻唄を歌いながら洗い物をしている。その背中を見つめるマドカは何処か不思議な感覚を味わいながら、戻って来たカミツレから少し赤くなった顔を隠すように布団に顔を埋めた。

 

「それじゃあ改めて、杉山 カミツレだ。まあこの部屋の主と君を見つけた第一発見者って所かな」

「そ、そうか……」

「流石に驚いたよ、学園の埠頭に女の子が流れ着いているんだからな」

「……」

 

話掛けてくる彼の話に耳を傾けながら自分の状況を確認するマドカ、今此処がIS学園という事であり自分の事や既に束や千冬に連絡済である事を明らかにして行く。聞いていく度に絶望的な状況に置かれているのが分かるが、それでも妙に自分は冷静だった。それは自分が所属させられていた組織が完全に滅せられているからだろうか、今では組織の為に此処から逃走する事や戦う事すら意味を失っている。

 

「私は…私はどうなるのだ……?」

「如何なるって…何が」

「惚けるな、組織が壊滅したとはいえ私がテロリストである事には変わりはない。私は何時投獄され処断されるのかと聞いているのだ」

「いや俺はそんな事知らないよ」

 

正直自分に尋ねられても困る、カミツレは千冬が仕事で居ない間の看病を頼まれただけで処遇になどについては何も聞かされていないのだから。

 

「……」

「それに誰が君をテロリストだって断定するのさ」

「なにっ……?」

「その組織は束さんが壊滅させてるし本人からしたら君をテロリストだって公表する事に意味を成さない、大元が無くなっている以上特定が出来ないと思うけど」

 

そう言われてみればそうだ…自分の搭乗ログが残っているISも束によって奪われてしまっている、それさえあれば自分が学園祭時に此処を襲撃しようとした操縦者という証明をする事は出来るが今それは無い。故にマドカが自分がテロリストだと言い張ってもそれを証明する材料がない。

 

「だが私は……私にはもう生きる意味が……っ!!!」

「生きる意味、か」

「ああそうだ私にとっての意味は、亡国の連中に私こそが織斑 千冬であると認めさせる事だったッ……!!!」

 

思わず自暴自棄になってしまったマドカは自分の事を口にした、織斑 千冬という最強のIS操縦者の創造計画の一旦として誕生させられたのが自分。しかし人間のクローニングは不完全で何十回という失敗が起きていた、そこで千冬の遺伝子を操作し限りなく千冬に近く限りなく遠い別人として創造されたのがマドカ(自分)だという。

 

実験自体は成功し薬物や特殊な手術などを施された事で急成長したマドカは、戦士の第一号として訓練を施された。しかし優秀ではあるもののオリジナル(千冬)よりも劣っている事が明らかになった。それでも戦士としては充分であった筈だが組織が望んだのは織斑 千冬そのもの。組織として絶対的な力を有した象徴(イコン)を欲していたのだ。

 

それによってマドカは千冬とは全く別の存在、千冬と呼ぶにはおこがましい紛い物と言われるようになってしまった。そんな上層部を憎み、自らの存在を認めさせる事こそ自分の存在意義だと捉えるようになった彼女は自分こそ織斑 千冬だと証明する為に生きると誓った。

 

その為に苦しい訓練を重ねてきた、死んだ方がマシと言えるような惨状を耐え忍んできた。その原動力は自分こそが織斑 千冬だ、未だに続けられているクローン実験など意味はなく自分こそ千冬だと証明したかった。しかし……そんな物ももう必要なくなってしまった…。

 

「もう意味などない、もう無いのだぞ!!?私の全ては奴らを見返す事だった、私があの人と同じ人間なのだと証明する為の行動だったっ!!!それなのになんだこの様はっ!!?たった一人の女に惨敗し、その女に何時か私が殺したいと願った相手すら奪われた……もう私にはなにも残っていないではないか!!?」

「……」

 

大粒の涙を流しながらもう価値が無い、何故私を助けてしまったのかと嘆き続ける。もう生きる意味すら見失った彼女とって、生とは苦しみと同義。自らに貼られた紛い物というレッテルは永遠に剥がれない、自分の身体にある遺伝子による呪縛から永遠に逃れらない。こんな思いをするのならば、あのまま死なせて欲しかったと零すマドカ。そんな彼女の頭をカミツレは優しく撫でた。

 

「残ってるだろ、マドカ。それがお前の名前だろ」

「マドカ、それは私に与えられた個を判別する為の認識コード(ネーム)にしか過ぎない……!!!」

「そうかな。なら如何してその名前を背負って、千冬さんと同じ存在だって名乗ろうとしたんだよ。それはもうマドカという一人の人間という個だ」

 

空っぽだった名前、そこに自分自身で中身を注いで個として確立出来ている事に彼女は気付いていない。千冬と同じ存在を目指す少女(マドカ)、これは十分自分を築き上げていると言えるとカミツレは言っている。

 

「誰にだって憧れはある、俺だって千冬さんを尊敬してるしあの人みたいになりたいって思ってる。誰かが誰かになりたいって思うのは極普通の事だ。お前だけが抱えてるものじゃない」

「私、だけが……」

「意味が無い、あるじゃないか。千冬さんみたいになる、それが残ってる。なんだったら千冬さんの後を継ぐみたいに国家代表になって世界最強の座に挑む事だって出来るだろ」

 

カミツレの言葉にマドカは衝撃を受けた、自分とは違う世界で生きてきたカミツレだから言えた言葉だった。自分はマドカという一人の人間、自分はもう千冬の遺伝子から作られたものではなく「マドカ」。その名前を持った人間……。それを受けて、マドカは一筋の涙を流しながら目を閉じた。

 

「ああっ―――なんでだろうか、凄い眠い……何でこんなに…」

「安心したからじゃないか?」

「そう、なのか―――」

 

最後まで言う事無くマドカの意識は闇に落ちて行った、穏やかな寝息を立てたまま眠った彼女を優しく撫でた。




この子、本当に如何しよう

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