IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第112話

「それで千冬さん、マドカはどうなるんですか?」

「まあ一般的な目線で見ればテロリストとして拘留するのが妥当……なんだがなぁ……証拠が無いから正直無理だ」

 

マドカが眠りに付いた後、仕事を終わらせて部屋へと戻って来た千冬。そんな彼女とこれからのマドカの処遇についての談義が始まった。普通に考えてしまえばテロリストとして逮捕拘束、というのが一番の流れなのだが…生憎彼女が所属している亡国機業は束の手によって壊滅させられ、証拠になり得た彼女が使っていたISは束が回収してしまった為に学園祭に無人機を引き連れて襲撃して来た犯人としての照合が出来ないのでそれが出来ない。

 

「かと言って、いつまでもここに置いておく訳にも行かんしなぁ…」

「う~ん……選択肢としてはどんな物があるんですか?」

「まあ色々あるだろうが……そうだなまずはこいつの、マドカだったか。マドカの状況などを抜粋して行くか」

 

元テロ組織の構成員で各国のISの奪取や主要機関への襲撃任務を受けるエージェントだった。現状としてもIS学園への襲撃経験あり、その際に千冬とヨランドと交戦し無人機を駆使してはいるが二人相手に撤退しきれる実力者。束によって使用していたISを奪われ、海を漂流し学園に流れ着き今に至る。

 

「このまま解放するにしても問題点が多い。テロ組織に育てられたという事で知識や経験が戦いやISに関してに特化し過ぎている可能性があり、一般的な生活が難しいと考えられる。それに加えて戸籍も無いというのも問題だ」

「となるとこの学園に置いておくというのが妥当なんですかね」

「そうしてやりたいんだがなぁ…何の役割もない奴を置いておくのも中々難しいぞ、確かにIS学園は治外法権地帯だがそれ故に面倒な事もあるのだ」

 

改めて考えてみるとマドカが置かれている状況は本当に厳しい物がある、このままではまともに人として生きる事も難しい。戸籍の方は千冬が築いているコネクションで何とか出来る可能性自体はあるが、そうなった場合彼女を何処に置くかということも浮き上がってくる。

 

「何か役割を与えてやれるのならば、私の方でなんとかしようもあるんだが…」

「役割……ラウラみたいな感じにですか?」

「ああ。一夏の護衛のような役割……」

「護衛…?」

「「あっそれだっ!!!」」

 

その時二人に電流が走った、マドカの能力を十全に生かしつつ彼女を学園に置いておける手段が確かにあった。それはラウラが命じられている一夏の護衛のようなもの、つまりカミツレの護衛という事にしてしまえばいいのだと二人は閃いた。

 

「よしこれならいけるぞ、先程の話では丁度マドカも色々と生きていく故での物が必要になってくるだろう。それを支援させる事にすれば……」

「よしそれじゃあ俺はリチャードさんとセシリアに相談して、これを伝えますよ」

「私も色々と政府関係者などに根回しを行っておこう」

 

二人はハイタッチをしながら早速行動を起こし始めた、カミツレは早速セシリアを部屋に招いて事情の説明と提案を提示する。最初こそ驚いていたセシリアだがカミツレの身の安全の充実、イギリスという国としても優秀な操縦者の確保にも繋がるという事でメリットが大きい。セシリアはこれを受諾してリチャードに相談してみると、イギリス政府としてもカミツレの安全の確保の為の護衛は必要だとして協力してくれるように取り付ける事に成功した。千冬も千冬で政府への根回しも行い、バッチリと準備は完了となっていた。

 

「という事があったんだ、ごめんな勝手に話を進めちゃって」

「ま、まあ確かに驚いたが…私としては有難い申し出ばかりでなんだか、申し訳ないな……」

 

全ての準備が揃った後目覚めたマドカに対して、条件の提示と説明を行ったカミツレ。まさか眠っている内に此処まで状況が動いているとは思わずに顔を少々引き攣らせていた。

 

「それで俺の護衛…って事になるけど大丈夫かな」

「私からしたら有難い申し出だ、是非受けさせて欲しい。まあ、今は護衛が務まる状況では無いが……」

「そこはゆっくり治して行くしかないでしょ」

「だな…」

 

布団を被りなおしつつもマドカの顔色は良くなっている、組織から受けた手術や束から打たれたナノマシンの影響なのかは不明だが既にかなり回復へと向かっている。これにはカミツレもほっと胸を撫で下ろしている。

 

「だがこういうのもなんだが……元とはいえ私はテロリストだぞ、よくも信用する気になれるな」

「あんな話を聞いて、安心して眠った顔を見たら疑えっていうのは少し厳しいからね」

「うっ……」

 

それを言われると痛いのかマドカは顔を背けた、そんな彼女に笑いかけながら頭を撫でる。

 

「それに俺の周りには頼りになる人達がいっぱいいる、だからかな。ぶっちゃけ感覚が麻痺しているのもある意味認める」

「大天災と世界最強、銃央矛塵、実力者の代表候補にフランス国家代表にイギリスの大貴族、元アメリカの軍人……私が言って良い事じゃないだろうが敢て言うぞ。お前本当に元一般人か」

「うん、俺も最近自分でそれを疑ってる」

 

IS学園入学から既に半年が過ぎようしている、たった半年でカミツレは大分一般人から逸れているのは間違い無いだろう。

 

「まあこれから宜しく頼むよマドカさん」

「あっああ……それと私の事はマドカで良い……」

「分かったよマドカ、これから宜しく」

「あ、ああ……宜しく…!」

 

頭を撫でられ続けるマドカ、それに温かさと居心地の良さを味わいつつもカミツレの傍に居られると言う事に何処か嬉しさを覚えていた。

 

「(……きっと兄というのはこのような人の事を指すのだろうな……カミツレ、兄さんか……今度そう呼んでも良いかと聞いてみるか…)」

 

そんな事を思いつつ、一刻も早く身体を治す為に眠りについたマドカであった。


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