「あっカミツレさん!!見てください、遂に私の専用機が来るんですよ!!」
「おおっマジで!?遂に開発終わったのか!?」
整備室にてISの整備を行っている時であった。一夏はメモを取りながらラウラのドイツ式の整備術を学びながらまずは装甲のチェックとシステム面の調整を始めていた所だった。それを手伝っている箒の隣で「蒼銀」の整備を行っているカミツレとその手伝いを行っているマドカ、カチドキは自らの趣味であり「仮面ライダー」の変身ポーズの布教という名の談義の為にコア・ネットワークへと潜っていってしまった。相棒を放置して良いのかともマドカは呆れたが、相棒だからこそこんなことも出来るのだと言われる。そんな整備を行っている中、整備室へと入ってきた一人の少女、簪はカミツレの姿を見ると嬉しそうな声をあげながら駆け寄っていった。
「はい明日には到着するって連絡が来ました!しかもしかもですよ、私の構築したシステムとかを基本にして制作してくれたんですよ!!これはもう喜ぶしかないですよ!!」
「そりゃ凄いな、やっぱり精一杯やってたからそれに応えられたんだな」
「ふふん早く来ないかな~♪」
嬉しそうにステップを踏みながらくるくると回っている簪、彼女にとって悲願でもあって専用機。それが漸くやってくる……これを喜ばずにはいられない。日本政府の怠慢やアフターケアの怠りを全面的に受けてしまった簪にとって待ち兼ねた物なのだから、そんな簪に一夏も気づいたのかとりあえずカミツレに向けて声をかけた。
「え、ええっと……カミツレそちらは…?」
「んっああ、俺の友人だ。紹介しておこう、更識 簪さんだ。日本の代表候補生でもあるんだ」
「どうも」
静かに頭を下げる簪にカミツレは僅かながら心配を抱いていた、彼女の専用機開発がストップしたのは確かに政府の怠慢が原因だ。その怠慢の理由ともいえるのが一夏の専用機開発でもある、別に一夏が専用機を望んだ訳でもなく勝手に開発されたというべきで彼に非はない。しかし簪はそれを冷静に処理しきれるだろうかと、僅かながらに不安だった。
「更識さん、で良いのかな…?」
「簪、それでいい。それと織斑 一夏、あなたには一度会っておきたかった」
「俺に?」
「(コクッ)私の専用機の開発が滞ったのは貴方の専用機開発を政府が「倉持技研」に委託したから」
「えっ……」
一夏は思わず頬を引き攣られせてしまった、そのまま簪は話を続けて自分のISは完成半ばで放置され自分が引き取り製作を続けていた事。夏休みにカミツレの手を借りる事で漸く、他の研究機関に委託されたお陰で開発が再開された事が語られる。
「え、えっと…それ、俺が悪いのかな…確かに「白式」の開発をしたせいで迷惑掛けちゃったのは間違いないけど……俺が謝るのは筋違いな感じがするけど」
「うん、貴方の言い分は正しい。寧ろ正解、貴方は悪くない。だからもしも謝ろうとしたらぶん殴ろうと思ってた」
「えっ俺殴られそうだったの」
しかし簪は冷静に感情を処理しながら一夏の言葉に耳を傾けていた、一夏も一夏で驚きつつも話から聞いた情報を整理して自分には非がないのではないかと話を切り出している。簪は別に一夏を如何こうする気はなく、気持ち的に言っておいたほうが気分がいいから言ったまでだと伝えこれで漸くスタートを踏み出せるという。
「そっかそういう事か……良かった俺、殴られるのかと思ったよ」
「何をいう、もっと痛い千冬さんのを喰らい慣れているお前なら一発や二発殴られたところで何ともないだろうに」
「確かに教官のは痛い、昔大きな失敗をした時にはよく拳を貰って……いかん、思い出したくない物を思い出してしまった……」
「そう、じゃあ一発……」
「いや簪さん可笑しくありません!?さっき殴らないって言いましたよね俺確かに聞いたぞ!!?えっなにそれ言っていないみたいな顔しないで!!」
何やら良い関係を築けたのかじゃれている向こう側、どうやら自分の不安は完全な杞憂だったようだ。それを察したのかマドカが笑みを浮かべている。
「良かったな兄さん」
「んっ顔に出てた?」
「いや、今までの経験で相手の心理状態は軽くだが見抜けるのでね」
「こりゃ頼もしい護衛だな…」
「お褒めにあずかり恐縮至極」
そんなマドカの言葉を受けつつもチェックを進めていく、カミツレはどんどん進めていく。そんな中、カチドキが帰ってきて整備を手伝い始めた。どうやらかなり有意義な談義ができたのかかなり満足げな調子でいる、ドライブ好きが結構増えてくれたらしい。
「あっそうでした、カミツレさん。学年別の専用機持ちオンリーでトーナメントをするって話知ってます?」
「トーナメント?いや知らないが……」
「今年は各学年で専用機持ちの生徒が多いから、その最新データを取る為に開かれるって話があるんですよ」
専用機持ちが多い、まあ確かにそうだろう。一年だけでカウントしてもカミツレに一夏、セシリアに乱、鈴、シャルロットにラウラに簪。他にも代表候補生はいるだろうが専用機持ちはこのメンバーだけとなっている、それでもそれなりの人数がいることになる。そのデータを取るというのも学園側からしたら重要なことになるのだろう。
「でも噂だとこれがタッグマッチになるって話もあるんですよ」
「タッグマッチ……なんだ、なぜか寒気が……」
カミツレは本能で直感してしまった、このイベントは自分にとっていろいろと大変なことになるだろう。だって恋人であるセシリアと乱、どちらがパートナーとなるかで確実に問題が起こると分かったからだ。