IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

115 / 341
第115話

「んっ……やっぱり、落ち着き、ますっ…」

「如何したんだ乱ちゃん、今日は妙に甘えてくるな」

「ダメ、でした?」

「そんな事無いよ、満足するまで甘えればいいさ」

 

カミツレの部屋の中では乱がやって来て愛しの彼に抱き着いていた。全身を使って彼の体温を、鼓動を、息遣いを感じたいと言わんばかりに身を捩らせつつも抱きしめてくれるその人の全てを感じようとしている。普段の自分とは少し違った印象を感じたカミツレ、そんな些細な事にも気づいてくれた事に嬉しさを感じる乱は彼の胸板に頬ずりしてしまう。

 

「やっぱり何かあったんでしょ」

「分かっちゃいます?」

「まあね、君の恋人だからね」

「えへへっ……」

 

乱曰く、2組で彼氏にするならば一夏かカミツレの何方にするべきかという話題が起きたらしい。最初こそ一夏一強の人気だったが今では完全に二分する人気となるほどに大きくなったカミツレの人気、次々に溢れていくカミツレへの甘い言葉の数々に乱は何か言いたい衝動を抱えながらも言えずにいた。

 

『ねえ乱ちゃんはどっちが素敵だと思う?』

『えっあたし?そりゃカミツレさんに決まってるじゃん』

『ええっでも織斑君の方がカッコ良くない?』

『いやいや、杉山様でしょ』

 

本当ならば言いたい、自分は彼の恋人であり互いに好きあっている関係なのだと。しかし世間的に一夫多妻制が承認されたという発表があるまでは隠しておこう、という決め事がある為にそれを言う事は出来ない。悪戯に言ってしまってはカミツレの立場を悪くしてしまいかねない、彼を守る為の事なのに逆に追い詰めてしまっては意味がない。その後も続いたそんな談議、自分が恋人ならという話に発展してしまい乱にとっては色々と堪らない空間になってしまっており、今こうして全力で甘えているという事なのである。

 

「やれやれ、そんな事だったのか」

「そんな事ってあたしにとっては重要なことなんです!!まるでカミツレさんは自分の物だって言ってるみたいで……本当に嫌だったんです、あたしの方が…カミツレさんの事愛してるのに……」

 

乙女の複雑な心は恋人に対する言葉に酷く敏感になってしまっている、致し方ないとはいえ隠しているのならば尚更だ。それでその場を切り抜けたのはいいのだが、心の中に生まれてしまったもやもやは中々晴れない。そんな心の中に巣食ったものを取り除く為に、今カミツレに存分に抱き着き彼を感じている。彼を感じているという実感がある度に快感と幸福感で心が満たされていく。

 

「俺としても嬉しいかな。何気ないクラスの日常で出てきた話題の俺、それにさえ思いを馳せてくれるんだから」

「恋人としては当然ですよ!!だって、だってカミツレさんの事大好きだから……!!」

 

そう言いながら乱は首に腕を回すようにしながら唇を押し付けるかのようなキスをする、いきなりの事で驚くがその背中に優しく手を回し抱きしめながらキスをする。

 

「んっ……んんっ……!!」

 

それに興奮してしまっているのか更に求めるかのように、もっと腕を絡めている彼女にこたえるかのようにするカミツレ。室内に水音と艶めかしい声が響いた後、二人は笑いあいながら深く互いを抱きしめあった。そして乱は幸福に染まり切った顔を彼の胸板に沈めながら、深く息をするのであった。

 

「それでカミツレさん、各学年ごとに専用機持ちで戦うって話聞きました?」

「ああ噂程度の物を。確かトーナメントって聞いたけど」

「いえ、それは噂で学年別のトーナメントに合わせて流れちゃったらしいですよ。実際はタッグマッチ式の総当たり戦のリーグ戦方式でやるらしいですよ、私も詳しい事はまだ知りませんけど」

 

どうやら簪から聞いた事の更なる詳細らしい、確かに専用機持ちは人数が少ないのでトーナメントをするのにも人数が足りない。それならば総当たり戦全員と戦えるようにした方が効率的にデータの収集ができる、言われてみると納得が出来る。恐らくこれが正解なのだろう、後で千冬にでも聞いてみて真偽を確かめてみる事にしよう。しかしタッグマッチという事は完全決定な模様、という事は……パートナーは誰にすべきかという問題が浮上してくる。

 

「俺はパートナーを誰にすべきなんだろうか……」

「あっやっぱり悩んでくれるんですか?」

「そりゃそうだよ、俺にとってパートナーはセシリアか乱ちゃんしか有り得ないよ。でも簡単に決めきれる事でもないからなぁ……」

 

カミツレにとってどちらも大切な人である事に変わりはない、しかしタッグという事はそんな二人から一人に絞られなければならないという事になる。彼女二人しか有り得ない、しかしそうだと感情的になればなるほどに決めかねてしまう。機体性能の相性的に考えても「蒼銀」は全距離対応の万能型である為にどちらでも十全に力を発揮できるので、決める要因が絶対的な物にならない。

 

「それならカミツレさん、セシリアと組んで上げてくれませんか?あたし鈴姉ちゃんと組みますから」

「えっでも……良いのかい?」

 

思ってもみなかった申し出も思わず驚いてしまった、乱が自分から引くとは想像もしていなかった。しかし彼女は笑ってもちろんと答える。

 

「はい、でも遠慮したかって訳じゃないですよ。一人のIS操縦者として二人と真っ向から戦ってみたいんです!」

「なるほど、それなら断れないな。セシリアには伝えておくよ」

 

急激に力をつけているカミツレ、そしてそんな彼を入学当初から支えているセシリア。この二人のタッグと真っ向から戦ってみたいというのが乱の本音だった。きっと強いのだろうがそれを打倒してみたいという強い衝動に駆られてしまっている、それを了承すると乱は再び強く抱き着いてくる。

 

「そ・の・代・わ・り♪もっと、さっきの続きのキスをしましょうよ♪」

「もう乱ちゃんってば…しょうがない子だな―――んっ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。