「ああもうったく真耶さんめ、なんで俺の名前なんか付けるんだよったく……」
『落ち着いてくださいカミツレ。寧ろ誇るべきではないでしょうか、貴方の努力や真耶教員が真摯になってくれた結果なのですから。加えて言うのであれば、バリエーションで操縦者の名前を入れるという事は割とある話です』
「それでも嫌なの!!」
溜息に呆れと怒りを内包させたまま吐き出したカミツレ、結局あの後に真耶に掛け合いバリエーションの名前を「黒鋼カスタム」という物に変更してもらうことに成功したので取り敢えず肩の荷を下ろしている。そもそも何故バリエーションが認められたのかもカミツレにとっては不明だったが、それを真耶に一から懇切丁寧に解説されると何も言えなくなった。
まず「黒鋼」のカスタムは元々量産型である「打鉄」のカスタムであった事、そのカスタム自体は装甲の増強とシールドの大型化とシールドにブレードを仕込むというそこまで複雑なものではないカスタムであるから。操縦者に合わせて作られた専用機、言うなればセシリアの「BT兵器」のような物をカスタムで付けたのではなく十二分に再現可能な点もバリエーション化の要因にもなっているらしい。
そして何よりこのカスタムでカミツレが結果を出しているのが最大の要因だった。「黒鋼」で成し遂げた結果といえば僅か操縦経験2週間の身でセシリアと引き分けた事、そしてクラス対抗戦時に襲来してきた無人機撃破に貢献、学年別トーナメントでの活躍などが挙げられている。これほどの戦歴を挙げている上に簡単に再現可能、という事でバリエーション化が決定したらしい。尚これには真耶も大賛成したらしく、結果として「カミツレカスタム」という恥ずかしい名前になりそうだったのだが……「黒鋼」に変更して貰った際には酷くシュンしていたのは何とも心が痛んだが、せめて前もって言ってほしかったと言わざるを得ない。
『しかしマドカ氏の操縦技術は見事でした、あの後出力上昇を施したというのに十二分に扱いきっていました』
「まあ元々居た所で使ってたISが高出力タイプだったらしいからな、あの位簡単なんだろう」
IS適正A++の名に恥じぬ操縦技術を見せたマドカ、代表候補生となるに相応しい技術を見せつけた。十二分の自分の力を見せたのち、自分に抱き着いてきて凄いかな?と聞いてきた彼女は非常に愛らしかったとカミツレは思った。そして思わず撫でてしまったとき、鈴とシャルからニヤニヤとした目で見られて凄い恥ずかしくなったが
『兄さんが妹を愛でるのが何が可笑しい!!』
と胸を張るマドカのせいで余計に恥ずかしくなった。取り敢えず必要な書類を書かないといけないらしいので、真耶に連れていかれたマドカを見送った後カミツレは自室に戻ってコーヒーをすすっている。
「そういえばさタッグマッチで学年ごとでやるんだろ、1年には俺を含めて9人いるぞ。この場合一人余るんじゃないのか?」
『マドカ氏の場合は突然の転入でしたので、一旦彼女を抜いたメンバーで行った後に彼女が一人指名してタッグを組んだ上でくじ引きで選ばれたメンバーと対戦を行ってデータを取るらしいです』
「へぇ……というかそれ、どこで知ったのよカチドキ」
『真耶教員のPCをクラッキングして知りました』
「お前何やってんだよ!!?」
なんで態々そんな事をしているのかと思わず突っ込みを入れてしまった、別段そんなことをしなくても千冬に聞いてみれば分かる事なのに……。
『すいません、クラッキングという言葉にロマンを感じてしまって』
「ロマンなら仕方なく……ねぇよもうやるなよ!!?」
『成程、これがフリですか』
「フリじゃないっつの!!というかなんで真耶さんのPCをクラッキングした!?」
『いえ1D10で決めた結果でして』
「意外に手段がアナログ!?」
というカチドキとのコントのような会話が発生していた、まあこんな事はしょっちゅう起こっているので何とも言えないのだが……。
「はぁもういい……兎に角もうやるなよ」
『了解しました、許可を取ってからやります』
「……もうそれでいいよ」
もうこれ以上言っても無駄だと分かったカミツレは良い所で引き下がる事にした、カチドキが何か言っているが取り敢えずは気にしないようにすることにした。
「兄さんただいま帰りました!!」
「ああ、お帰り」
そんな事をやっているうちにマドカが戻ってきたようだ、本来部屋は一緒にするべきではないのだが…生憎部屋割りが現状でもいっぱいいっぱいなのである。なので元々使われていない教員室の一つをカミツレの時と同じように改装し、そこをマドカの部屋に当てられることになった。その改装が終わるまではカミツレの部屋にマドカはいることになった。
「真耶さんとのやり取りは終わったのか?」
「ええ。訓練機の引き渡しは明日ですが、順調に終わりました」
「そっか、んじゃ少し早いけど飯にするか?」
「はい!あっ私も手伝います」
二人揃って食事をの準備を行う、マドカは料理の仕方などは分からなかったがその分カミツレのやり方などを見たり聞いたりして、学習しながら行っていた。最初こそぎこちなかったが直ぐにスムーズなみじん切りなども出来るようになっていた。
「それで色んな話もしたんですよ、兄さんの今までの活躍とか」
「おいおい…真耶さんそんな事まで言ったのかよ……」
食事中には真耶とのやり取りをマドカが話してくれた。今までどんな訓練を一緒にしてきたか、カミツレがどんな活躍をしてきたかなどを真耶はまるで自分の事のように嬉しそうに語っていたという。可愛い弟子であるカミツレの活躍や成長は真耶にとっては、とても喜ばしい事なのである。
「後、兄さんのポスターまで貰ってしまいました!見てください!!」
「ゴフッ!!?」
そう言いながら自慢げに見せてくるのは以前雑誌取材に協力した雑誌である「インフィニット・ストライプス」の10月号と「キャノンボール・ファスト」入賞後に受けた物に付属していたポスターであった。しかも完全にコンプリート済み。
「先生は兄さんのポスターを全て揃えていたんですよ。しかも全種類を複数個、その一部を分けてもらいました!素晴らしい先生ですね!!」
「……急激に頭が…」