IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第12話

出会いと別れの春も終わりへと近づいていく春下旬、世界的にイレギュラー且つ異常な場所でもあるIS学園でも季節の変わり目は少しずつ訪れ確実に変化を齎している。遅咲きの桜さえも殆ど散ると、青々とした葉が芽吹き生い茂る、夏を向かえるための準備を行う頃の授業、1組の生徒達はIS基本操縦訓練を行うためにグラウンドへと出ていた。

 

「ではこれよりISの基本的な操縦を実践してもらう。そうだな…専用機持ちである織斑、オルコット、杉山。試しに飛んで見せろ」

 

名指しを受けた三人は前へと出る。その中の一人であるカミツレは以前よりも余裕と自信を持っているかのような表情をしながら勝鬨を展開する。気付けもしなかった自分の力とそれを得るまでの努力が実を結んだ結果として得られた対価は彼に大きな安心感と生きる希望を与える結果となった。しかしそれで歩みを止める男ではなく今まで以上の努力をし続けているのが真面目な彼の美徳と言える所だろう。因みに現在も真耶に指導を仰いでいるがセシリアもそれに参加する方針で訓練に励んでいる。

 

「流石にオルコットが一番か。だが杉山も十分に早いな、初心者としては驚異的と言えるな」

「有難う御座います先生」

「それに比べ……織斑遅いぞ、少しは杉山を見習え」

「そ、そんな事言われたって……」

 

既に展開を終了している二人に比べて一夏はまだ展開が出来ていなかった、それは明確な練習不足とイメージを形作りきれていない証でもある。しかし初心者である事を考えると妥当であるかもしれない。ある意味死を避ける為に死ぬ気で訓練を行った結晶として今があるカミツレと比べるのは間違っているとも言える。一夏は彼の専用IS「白式」の待機状態であるガントレットを掴むようにしながら目を閉じISの名前を呼ぶ事で展開を完了させた。

 

「よし、飛べ」

 

指示の元、三人は一斉に飛び上がって行く。最も早いのはセシリア、次いでカミツレ、そして大分遅れて一夏が続いている。性能と経験の関係もありセシリアの「ブルー・ティアーズ」が先頭を行くが、カミツレもセシリアの直ぐ傍を追従するかのように飛行している。この辺りは流石に真耶との訓練で培われた経験と技術の賜物だろう。

 

「流石カミツレさん、また上達したのではありませんか?」

「いや、今回は装甲の交換発注していて装甲を一部外してるからスピードが出てるんだ、何時もならここまで追従は出来ないさ」

「またまたご謙遜を、カミツレさんの普段の努力の結晶ですわ」

「あんまり飴を与え過ぎないでくれよ」

 

そう言いつつもカミツレの表情は柔らかく自然と笑いを浮かべる事が出来るようになっていた、セシリアがイギリス政府に掛けあい自分を代表候補生にするために動き出し後ろ盾になってくれるという約束を取り付けたからこその安心感だろう。そんな彼女とは自然体で会話が出来るようになり互いに名前で呼び合う事が当たり前となっていた。

 

『織斑何をやっている、スペック上の出力はお前の白式がワントップなのだぞ。それをもっと活かせ、訓練機のカスタムとはいえ第二世代の「勝鬨」にすら追い付けていないぞ』

「そ、そんな事言ったって……急上昇とか習ったの昨日だぜ、それをいきなり上手くやれって言われても……というか何でカミツレはあそこまで上手くやれるんだよ……」

 

努力の差、これに尽きる。加えて言うのであれば急上昇に急降下は真耶からクラス代表決定戦が行われると決まる日より前に教わり練習をしたため上手く出来ているので最初から上手く出来ている訳ではない。最初など酷く急降下したら下半身が地面に埋まる逆犬神家になったり上昇したら急激に方向転換してしまい犬神家をやらかしたりと酷い物だったが今では自然と自分の足で曲がったりするように意識せずとも出来るようになっている。暫くすると300メートル地点で静止している二人へと一夏は追いついた、それを確認した千冬は新たな指示を飛ばす。

 

『では織斑、オルコット、杉山、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は10センチだ』

「了解致しましたわ。それではカミツレさん、下でお待ちしておりますわ」

「ああ、待っててくれ」

 

そう言いながら急降下していくセシリア、そのまま難なくと千冬の指定した10センチジャストの位置で静止するセシリアに素直に賞賛するカミツレと凄いと感心する一夏。

 

「うしそれじゃあ次俺行くけど良いかカミツレ」

「別に良いが」

「よしそれじゃあ行くぜ!!」

 

勢い良く急降下を行っていく一夏、その速度は中々の物。これだけ出来るなら上昇の時もこれをやれば良いのにと思ってしまったが余りにも速度が速すぎる事に気付いた。あれで本当に完全停止出来るのだろうか。理論上は高い速度でも完全停止は出来るが速度が高ければ高いほどより明確な停止のイメージが必要となってくるのだがそれが一夏に出来るのだろうk……

 

ズドォォォォオンッッッ!!!!

 

無理であった。一夏は地面に穴を開けるように地面に激突するという形で停止した。あれは痛い、色んな意味で。そんな事を思っていたが自分も急降下を開始した。ぐんぐんと通り抜けて行く景色を尻目に迫っていく地面、スピードを出した自転車に乗っている時に手を放すのとは比べ物にならないスリルを感じつつもこの程度かなと感じた所で停止のイメージを作り静止した。それを千冬が測定する。結果は……。

 

「ふむ13センチか、及第点だな。今度は気持ち遅めでやってみろ。しかし停止の仕方は見事だったぞ」

「有難う御座います、精進する事にします」

「うむ」

 

目標の10センチには及ばなかったがそれでも十分惜しいと言える部類の結果に一定の評価を示した千冬は改善点を示しながら見事だった点を褒める。その一方でグランドに穴を開けた一夏に一発を叩き込んだ、如何やら彼も箒と共に訓練機で訓練をしているようだが箒の指導の仕方が良くないのか芳しくないようだ。一体どんな指導なのだろうか……と思っている最中次の授業へと進んでしまう。

 

「織斑、武装を展開してみろ。その位は自在に出来るようになったか」

「は、はあ一応」

「返事ははいだけにしろ」

「は、はい出来ます!」

「ではやれ」

 

そう言われてその手に白式の武装であるブレードを展開しようとする、約4秒ほど掛けて展開したそのブレードを見て満足げに頷く一夏だが千冬は不満げな表情を浮かべた。

 

「杉山、お前は如何だ?」

「ブレードとライフルどっちを」

「両方だ、順番にやってみろ」

 

そう言われ、意識を集中するとその手にブレードが現れる。もう片方にはライフルが展開されるがその両方はすぐに消えて予備のブレードとライフルが再度展開された。展開の速度は十二分に素早く一夏は自分との圧倒的な差にただただ驚き千冬は満足げに笑う。

 

「よし合格だ。だが展開時お前はブレードを逆手にする癖があるな、悪いとは言わんが逆手では対処が難しい時があるから基本的に逆手はやめておけ」

「分かりました先生、意識します……フッ!」

「よし、それで良い」

 

指摘を受けてやり直しをしたカミツレに千冬は文句無しの合格点を与える、それを一夏は面白くなさそうに見つめている。確かにカミツレは自分よりも上手いがあそこまで優遇するような事はしなくても良いのではないかと思えてしまう。先程から千冬は自分よりも明らかにカミツレの方を重視しているように思える、それが何処か気に入らない。一夏が何処か黒い感情を燃やしている中、セシリアの展開も終了すると授業はそのまま終了する。

 

「織斑、穴はお前が一人で塞いでおけ。自業自得という奴だ、責任を持て」

「……分かりました」


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