IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第124話

その日、カミツレはマドカを連れて一夏と千冬と共に、書類上一夏の専用機「白式」の開発元である倉持技研へと向かっていた。IS学園からは勿論中心街からも大きく離れている場所へと向かうために電車を乗り継ぐ事1時間とバスで1時間。既に山奥としか形容できない場所を4人は歩いていた。残暑は過ぎているので暑くはないが…この為にだけに2時間を使ったと考えると嫌になってくる。

 

「なんでこんな所に研究所なんか建てるんだよ……普通に不便だろ」

「利便性の欠片もないな本当に…はぁ致し方ないとはいえ時間をこんな事で潰されると思うと嫌になるな」

 

思わず呟いてしまう織斑姉弟だが致し方ないだろう。もっと立地場所を考えてくれればこれだけの苦労をせずに済んだのだから……。千冬も先日から仕事が溜まっており移動中は常に一夏かカミツレの肩を借りて眠っていた。因みにマドカは満足げにカミツレの膝の上に座っていた。漸く到着した倉持技研、そこは白い壁に遮られた巨大な壁のような建物と言った印象を受ける。一応取っ手の無いドアが付けられているゲートはあるがこのまま入って良いのだろうか。

 

「やっと着いた…兄さん、何故か素麺が食べたくなって来たぞ」

「素麺って大分季節ズレてるぞ。帰ったらてんぷらうどん作ってやるから」

「エビフライを要求する!!」

「はいはい」

 

どこかの軍曹がコッペパンを要求する並に元気な声で言ったマドカに肩を竦めながら了承するカミツレ。そんな様子を見て一夏は下の兄弟がいるって良いなぁという視線を向けているといきなり尻を撫でられる感触を味わい前のめりに飛び退いた。

 

「いやぁっ!!?なんだ痴漢か!!?」

「ん~ふふふっ…未成年のお尻は良いよねぇ」

「おい一夏何を騒いで……」

 

千冬が振り向いた時思わず言葉が出なかった。そこにはスクール水着…いや学園でも使用されているのと同じISスーツを纏いつつ水中眼鏡を装着している女性がいた。スーツには大きくひらがなで「かがりび」と書かれている。加えて全身は水浸しで右手には銛、左手には川魚が数匹握られている。如何見ても変態の登場である、控えめに言っても変態である。

 

「な、なんなんだアンタ!!?」

「なんなんだって見ての通りだろ」

「変態か」

「変態だな」

「変質者か」

 

被害にあった一夏以外は冷静に言った。その言葉に不服そうにしている女性だが如何足掻いても変態にしか見えない。海辺ならまだしも山奥の研究所付近でいきなりこんな格好をした女性が現れたら変態としか形容するしかない。

 

「なんだよなんだよ近くの川で泳いできた美女に対してそんな言い方はないだろ~」

「いやアンタは変態で十分だろ。いきなり人の尻触って喜んでるし変態で痴漢とか…」

「君随分ハッキリ言うね」

「黙れ変態、兄さんに近づくな」

 

何処からかハンドガンを取り出したマドカは目の前にいる変態にそれを向けた。護衛としてこんな要注意人物を近づけるわけには行かないと判断したのだろう。そんな事をやっていると研究所から30代ぐらいの男が飛び出しそのまま勢いで変態の頭をハリセンでド突く。良い音が山奥に響いた。

 

「いってぇぇぇっっ!!!!???」

「アンタ何やってんすか!!?織斑さんたちを迎えに行くって変態すぎる所長にしてはまともな事を言うと感心した矢先にこれか!!何問題起こしてるんですか!!!?」

「か、要君…よくも所長である私の頭をハリセンで叩いたな……」

「黙らっしゃい日常的に食らってるのに今更何いってんだ馬鹿所長!!」

「ぶへぇっ!!!」

 

更にもう一発。所長と呼ばれた変態はハリセンにぶっ飛ばされて草むらに頭から突っ込んだ。一体何時からこの場はコント会場になったのだろうか。

 

「織斑君と織斑さんはこんな所に来てくれたのにまたあんたは何やってんだよ!!それに杉山君は政府が無理矢理交渉して来てもらったような物なのに確り相手するのが妥当ってもんでしょうが!!本当に申し訳ありませんでしたこの馬鹿が失礼な事を!!!」

 

男性はその場で土下座をして所長の行為を詫びる、一応この場でそれを受け取るかどうか決めるのは被害にあった一夏だろう。視線を受けた一夏は確りと謝罪して貰っているんだから良いだろうとそれを受け取る事にした。

 

「ああ有難う…すいません所長は優秀なんですけど文字通りのど変態で……」

「まあ見りゃ分かるわな」

「特に杉山君、本日は本当に来てくれて感謝させて貰います……政府の戯言に態々耳を傾けてもらって……」

 

聞けばこの男性はこの倉持技研で副所長をやっている「秋山 要」という人物らしい。要は本来この場にカミツレが来なくてもいい事を把握しているのか自分が悪いわけでもないのに大きく頭を下げて謝罪する。

 

「今うちの来賓室に日本政府の人がいるんだけどね…この倉持技研、政府に凄い振り回されてるんです……前の所長だった人はあそこで伸びてる馬鹿の父親で政府とも深い繋がりもあって、今でもそれが影響して政府が凄く介入して来るんだ……」

 

草むらに頭を突っ込んで目を回している現所長「篝火 ヒカルノ」はそんな父の呪縛から来る政府の干渉を酷く嫌っているが政府と真正面からぶつかってはこの研究所が潰れると分かっているので表立った反抗が出来ずにいる。所長として所員の生活を守るという役目もある為に渋々政府の指針に従っているとの事。

 

「それは大変だな」

「分かってくださいますか織斑さん……!本当に大変なんですよ…元々開発してたシステムの方も織斑君の専用機の方に人員を強引に回されちゃってままならないし……政府のバックアップが無いとやってられないのは事実ですけどこれじゃあ気分的にやってられませんよ」

「なんか全然印象違うな…」

「だな」

 

要は愚痴をその辺りでしまいこんで未だに目を回している所長を肩に担ぎ上げ、そのまま研究所の中へと皆を案内する事にした。その後に続きながらカミツレは倉持技研に対する認識を改めたほうがいいのかなと思案するのであった。


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