IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第3章~新しい嵐編~
第135話


目から光が失われるほどに辛いヨランドの訓練が待っていると語ったカミツレの言葉から数日。遂に国家代表らが到着する日が訪れた。その日、各学年は所定の場で待機していた。本来は体育館にて挨拶が行われる筈だったのだが、到着時間が諸事情によってズレてしまったので各学年毎に指導が始められる事になった。1年は校庭にて待機を命じられてISスーツに着替えて待っていた。

 

「それでは本日から暫しの間、一学年の指導を受け持ってもらう方の登場だ。皆も既に知っているだろうが…現フランスの国家代表を務めているヨランド・ルブラン氏だ」

 

一学年の生徒を前に声を張り上げた千冬の後ろから一人の女性が姿を見せた。その姿は正に貴族でありながら王の風格を纏い、されどその優雅さは損なわれていない。凛々しい姿は強者の余裕と積み重ねられた強さの証明と数々の戦いを潜り抜けてきた戦士としてのオーラを放っている。王、頂点、至高。自らの力でその位を勝ち取り君臨し続けるフランスの絶対的王者、大貴族当主、フランス代表歴代最強と名高いヨランド・ルブランが登場した。優雅に髪の毛に触れながら現れた姿に生徒達は思わず声が出なかった。絶対的な王者のオーラに当てられてしまい声が出なくなっていた―――ただ一人を除いて。

 

「(ツェレ…お元気そうで何よりですわ…。また強くなったのが見ただけで分かりますわよ)」

 

彼女の指導を受けて潰れずに逆に厳しさを飲み込んで応用を手に入れたカミツレである。彼女の教えは本当に過酷で真耶の訓練が楽しく思えるほどに辛いものだったがそれでもやっているうちに自分が強くなっていると自覚できるので変化の大きさに気付けると気付けないのでは感じ方が異なる教え方とも言える。まあ気付くまでに潰れる可能性の方が圧倒的に高いのだが。

 

「今日から皆さんの指導をする事になりましたヨランド・ルブランですわ。短い間ですが是非ともこれから芽吹こうとしている皆様の可能性と成長をわたくしに見せていただきたいと思っております。わたくしも皆さんの成長の一端を担えるように努力したいと思いますのでどうぞ宜しくお願い致しますわ」

「(その芽吹こうとしている生徒を素で間引く人が言うと説得力が違うなぁ)」

 

と内心で思っているカミツレを置いておきながら周囲は拍手で溢れていく。流石は場慣れてしている大貴族の当主なだけあって言葉に入っている力と感情の込め方が上手い。心から自分達の力になりたいと思わせるかのような語り方にグッと来る…いや実際に力になりたいと思っているのは事実なのだろうが……。この後専用機持ちと訓練機を使う一般生徒でグループ分けされるのだが……そこからヨランドの「新人潰しの破壊淑女」としての片鱗が見え始めるのである。

 

「こ、これで基本のウォーミングアップ!?すっげぇ密度!?」

「我がドイツ軍の基礎訓練並だぞこれは…」

「わ、私達でも辛いですわね、これは……」

「うげぇ……噂通り…」

 

専用機組の皆に割り当てられたメニューを見て思わず顔を青くする面々。それもその筈、ウォーミングアップには相応しいものではあるもののその内容が軍隊顔負けなのである。無理をさせずに限界まで身体をウォームアップ出来る構成になっており、終えた頃には身体は温まり100%の実力を発揮出来る状態になっている…その代わりとってもキツい。ラウラや鈴や乱ですら顔を顰めてしまうものなのだが、顔色を変えていない人間が3人いた。それはヨランドの指導を受けていた際に全く同じメニューをこなしていたカミツレと元テロ組織メンバーで辛い日々を送っていたマドカ、そしてフランスの代表候補生として教えを受けた事がありやっぱりかと脱力し力なく笑っているシャルだった。

 

「さぁて始めるかぁ…」

「この程度ならば私は大丈夫です。兄さんも大丈夫みたいですね」

「もう慣れたよ」

「僕はそこまでじゃないかなぁ…まあ言っててもしょうがないから始めようかあ」

 

と言いながら早速ISのパワーアシストを切った状態でのランニングを開始する。大分慣れているのかそれとも筋力の問題なのかは分からないが軽々と走っていく三人を思わず呆然と見つめてしまった一同だが、一番早くに復活したのは簪であった。

 

「あっカミツレさんっ……!私もこれを楽々こなせるようになればカミツレさんみたいにっ……!!」

「あっ私も行きますわ!!」

「あたしも!!」

「はぁぁっ……アタシも行くかぁ」

「まあ行くか」

「……マジでこれがウォームアップな訳…?えっマジで?」

 

今回の一夏の言葉は間違っていない。だって一般的なメニューと比較してもこれが強化合宿の特訓メニューと言われても違和感がないので致し方ない。

 

「うぉぉぉっ辛いぃぃぃっ……!?」

「さっさと走れ、周回遅れになってんぞ」

「いやなんでカミツレはそんなにすいすい走れてんの!?お前凄すぎない!?」

「慣れ」

 

全てがその一言に集約された言葉を放ってたったと走って行ってしまうカミツレを見送る一夏は、苦労しながらもランニングを続けている。その後も一般生徒達も辛い辛いメニューが続いており見込みがあると判断されると割り増しされてしまい、生徒達は絶望に打ちひしがれていた。ただ二人、箒と簪の幼馴染である布仏 本音ことのほほんさんのみ、その苦しさを乗り越えていた。

 

「貴方達、見込みありますわッ!ではこれは如何でしょう!!」

「望む、ところだっ…!!!私は、一夏の隣に立つ女だっ……!!」

「わはぁ~ルブラン先生ってスパルタ~♪」

 

専用機持ちと一般生徒も地獄を見る事となるヨランドの指導はまだまだ始まったばかりである。既にもう酷い事になっているが……。

 

「も、もう無理……」

「この程度でへばるとか…一夏お前それじゃあこの後のメニューで死ぬぞ」

「カミツレ……お前なんて遠い目を…」

「お前も俺の苦しみを味わえばいいんだ」


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