IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第136話

「今年の1年生はそれなりに粒が揃っていますわね、半分以上がまだまだ行けると言う表情をしておりますわ」

「そうか…?私からすると地獄を体験しているかのような表情をしているように見えるのだが…」

「うわぁ…死屍累々というか皆さんの顔が死んでる……」

 

満足げに訓練に励んでいる1年生達を見つめているヨランド。彼女が思っていた以上に生徒達の出来は悪くはなく上質な物だったようだ。現状でも生徒達はひぃひぃいいながらヨランドが作成したメニューと追加された物をこなしている、その表情はさながら生き地獄を体験しているかのような物であるがヨランドからすればこの位で済んでいるのだから良い部類である。

 

「わたくしは追加メニューを言い渡す前に半分以上が倒れると予想していましたわ。しかし現状まだまだ脱落者は出ておりませんわ。余程学園の教え方が宜しいのでしょうね」

「そう褒められてもな…嬉しくないのは何故だろうな」

「カミツレ君達専用機持ち達も凄く辛そうですねぇ…」

 

一般生徒とはまた違ったメニューが割り当てられているカミツレ達も酷く辛そうにしながらも必死に歯を食い縛り、それに喰らい付くように訓練を続けている。流石は専用機を持つ事を許された子達だ。特に一番平気な顔をしているのはカミツレであるのを見るとヨランドは恍惚に染まった表情でカミツレを見つめた。

 

「矢張りというか案の定一番平気そうにこなすのはカミツレか。まあお前の扱きを受けていたのだから当然と言えば当然か」

「ぁぁっツェレ…以前あった時よりも身体は引き締まりビルドアップしているのにそれでいて身体のしなやかさは一切損なわれていない……矢張り貴方こそわたくしが待ち続けていた最高の弟子ですわぁ…!」

「だからヨランドさん!!カミツレ君は私の弟子なんです!!」

「あら弟子一人につき師一人というルールはありません事よ?」

 

そうだが真耶にとっても大切な一番弟子で可愛い可愛い弟子であるカミツレ。そんな彼の師は自分でありたいという思いが強くあるのだろう、まあ初めてである上に教え甲斐があるから大切に思うというのは分かるが。だからといってヨランドも今まで何十人という弟子入り希望者を見てきて失望して来たのに、漸く見つける事が出来た逸材をそう簡単に諦める事なんて出来ない。絶対にカミツレは自分の弟子にすると決めているのだから。

 

「私はよくカミツレ君のご飯を食べてるんです!!」

「わたくしだってそうですわ!!わたくしはツェレとよくメールのやり取りをしてますわ!!」

「私は何時も顔を合わせて話してます!!」

「ツェレは渡しません事よ!!」

「それはこっちの台詞です!!!」

 

顔を突き合わせて一人の男を巡って争いをしているヨランドと真耶、これほどの美女に此処まで惚れ込まれているのだから男としては誉れがあるだろう。しかし生徒達から離れている所でこの争いをしていて内容が聞かれていなくて本当に良かったと思う千冬である。ついでにカミツレは恋人である自分の物でもあるのだがなとふふんと自慢げに笑う。

 

「というかお前達その辺りにしておけ。生徒達に聞かれるぞ」

「こうなったら後日確りと決着を付けましょう!!!どっちが真にカミツレ君の師匠に相応しいのか!!」

「望む所ですわ、わたくしこそがツェレの師に相応しいのですわ!!!」

「おいおい、なんだか面倒臭いに事になってないか……?」

 

カミツレにとっては二人とも師匠のような存在なのだが…本人はそんな事は露知らずに黙々とメニューをこなしていく。周囲からは畏敬の念を込められた視線を向けられているが本人からすれば本当に慣れているからに尽きるので最初は皆と変わらなかった。寧ろ一対一だったのでもっと酷い状況での訓練を行っていたとも言えてしまう。

 

「妙な方向に拗れ過ぎだぞ…それは寧ろ奴に聞けば済む事だろうに」

「「これは師匠のプライドの問題!!」」

「……勝手にしろ」

 

もう本格的に面倒臭くなった千冬は二人の事を完全に投げた。一応ある程度の理性は残っているのか何処かに移動しながらまだ言い合いを続けている。というか指導担当のヨランドが何処かに行ってしまっていいのだろうか……。

 

「っていけませんわわたくし指導担当でしたわ!真耶話は後ですわ、今は生徒が第一ですわ!!」

「そうでした!私とした事が…」

 

如何やらその程度の理性もあった模様。そんな一幕もありながらも授業は進行していく。ヨランドが周りながら指導などを行いつつも見込みがある生徒にはメニューの追加を言い渡していくからか、ヨランドが来る=地獄が更に苛烈になるという印象を持たれた。

 

「わっは~ルブラン先生の扱き超絶にきつい~♪」

「そ、その割に凄い笑顔だが……」

「笑ってるとキツさが和らぐんだよ~♪別名現実逃避♪」

「フッ確かに笑いには不思議な力があるからな…!」

 

そんな中で一番努力している一般生徒は箒と1組のマスコットでもあるのほほんさんであった。箒は持ち前の根性と剣道で鍛えられた精神力、そして一夏の隣に立ち彼を支えるに相応しい女になるという決意が身体を支えている。が、のほほんさんは素でそれに耐え切っている凄まじさを持っている。本人曰く軽く現実から逃避して負担を和らげているらしいが…それでもケロっとしているのはある種のホラー的なインパクトを与える。

 

「うおおおおぉぉっっ箒だって頑張ってるのに俺がへばってられるかよぉぉ!!!」

 

と箒の彼氏である一夏は彼女の頑張る姿で奮起して更に訓練に力を入れてこなしていく。そしてそれがヨランドの目に留まってしまい……

 

「良い気迫ですわミスター・織斑、その様子ではまだまだ行けますわね!ではツェレ共々追加ですわ!!!」

「ヴェ!!?」

「知ってた」


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