IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第146話

ヨランド・ルブラン。フランス国家代表に就任している名門中の超名門、ルブラン家の当主。歴代の中でも最強と言われる程の実力を持ち、IS操縦者世界ランキングでも常にトップ10に入っている。このトップ10人は順位こそ入れ替わる事こそあるが、トップ10から落ちる事がない不動の王者達。過去に16インチ(41cm)砲搭載戦艦7隻をビック7と呼んだ事に倣って彼女らをIS界のビック10と呼ぶ事すらある。

 

そんなビック10の一角ことヨランドはそんな称号に執着こそなかったが、ある事を目標にしながら育成に力を入れていた。それは自分すら打倒する最高の弟子の育成であった。元から育成とその成長を見守る事が喜びであり楽しみであった彼女が見つけた人生を掛けて望んでみたいとすら思う事であった。そんな彼女は自分に弟子入りしたいという人材を全て引き受け、自分の全てを凌駕する人材を求めていた。しかし……そんな人材は現れることはなかった。

 

元々彼女自身が数十年に一人と言われている才女、あらゆる分野を超ハイレベルで習得し全てを自分の力へと還元する彼女すら乗り越えるような心構えを持ちながら、苦難すら乗り越えていくような人材に出会える事は全くなかった。

 

ビック10に入る彼女に集っていくのは彼女の強さや見た目、上澄みだけで全てを判断したかのような生半可な覚悟だけで自分のいる世界に飛び込んでくるような未熟者ばかりだった。しかし誰しも始めは未熟者なのだと、自分もそうだったように彼女らもスタートは自分と同じなのだと、指導を受けていくうちに変わって行くだろうと全員を引き受けて指導を行っていった。しかし……

 

『ヨランドさん、またです』

『はぁっ…最近の子は如何してこうも気概がないのでしょうか。まあいいですわ、いい加減な子を操縦者にせずに済みますわ』

 

ヨランドの理想とする者は全くいなかった。ヨランドに集っていくその殆どが彼女の強さなどをマスコミが書きたてた風聞、噂などに踊らされて実際にその強さを目にせずにヨランドについて何も知らない者ばかりだったのだから致し方ない。ある意味やりすぎなのも分かっていたが…それでもいい加減な精神を持って問題を起こすような人材を操縦者にするよりマシだと思っていた。ある種、ヨランドは代表候補生の腐敗を食い止める防波堤と選別をするネットの役割をしていた。何処か心の中で諦めを感じつつあった時だった、カミツレと出会ったのは。

 

 

『あっ……えっと、す、杉山 カミツレです……』

『ご丁寧に有難うございます、淑女としてお返事させていただきますわね。ルブラン家当主にしてフランス国家代表、ヨランド・ルブランですわ。どうぞこれからも宜しく』

 

 

デュノア社内の問題の解決、その為に久しく連絡を貰っていなかった友人である千冬から声を掛けられた。腐敗の一掃とシャルロットを救う手伝いをし、IS学園に戻るまでの護衛を引き受け来日したIS学園で出会ったカミツレ。

 

真耶の代理として指導を依頼された時、少し好みだなと思いながら彼の訓練を引き受けた。しかしそれは彼の実際の動きを見て意識が一変した。杉山 カミツレは鍛えれば鍛えるほどに伸びる素質を秘めた上に上昇思考と慢心をしない正に自分が求めていたかのような存在だった。今まで見てきた数多くの人間の中で最も強い輝き放つ原石と言える存在であった。千冬が自分の御気に入りであると言う言葉にも納得が行きつつも、将来的には自分すら追い抜くと確信出来るなにかがあった。

 

 

『ぐっ……!!言う事を聞けよ、相棒……!!』

『そうそのまま出力を上げ続けるのですわ!その際にも最大の注意を払い続けるのです!!』

 

 

今までになかったほどに強く喰らい付いて来る彼の姿勢には感動を覚えずにいられなかった、既に代表候補生である者の指導をした際にも諦めずに努力していたがカミツレのそれは容易く上回る鬼気迫る物があった。自らの全てを理解し、それを覆す為に必要ならば自分の全てを飲み乾して自分の物にしてやると言わんばかりの姿勢にヨランドの理想とする物が重なった瞬間でもあった。

 

そんなカミツレに対してヨランドは恍惚な表情すら向けながら指導をしていた。「稲妻軌道動作」を通常の機動でも出来るように盛り込み、常にハイレベルな軌道を描けるようにしながら「個別連続瞬時加速」を教え込んで軌道面を充実させつつ時には、自ら教員仕様の「ラファール」に乗り込んで直接技術を伝授する事も多かった。それほどに自分が望んでいた理想の弟子とも言える。

 

 

『ヨランドさん結構肩とか凝っちゃってますね…眼とかにも疲れ来てるんじゃないですか?』

『そこまで分かりますの?ええ、当主として代表として書類の仕事もあって結構疲れが来ますの。ぁぁっいいですわぁっ…そこ、そこですわぁっ…』

 

『出来合いの物ですいません、招待しておいて仕込とか出来てなくて』

『良いんですわツェレ。普段通りの物こそ極上のもてなしというものですのよ。あむっ……お野菜のお刺身というのは初めてですがとても美味ですわっ!』

 

 

加えて彼はそれだけが優れているわけではない、彼は自分の身体にも気を配ってくれていた。理由としては千冬の事が切っ掛けで他の人の体調などが気になってしまっているらしい。特に自分は責任などが伴う立場にあるのでストレスなどを大きく受けているのではないか、それなのに指導をして貰って良いのだろうかと相手の事を強く思ってくれていた。マッサージに食事などを準備してくれたり、素直にそれがヨランドは酷く嬉しかった。

 

そして、時間が来て学園を離れてからフランスで活動を再開した。国の一分野のトップとして立ちながらも新人育成をしていたが…如何にもカミツレと母国の質を比べてしまい溜息をついてしまった。カミツレも厳密に言えば完全な初心者ではなかったが、それは自分が教える事になっている少女達にも言える事だった。余りにも違いすぎる点が多すぎた。貪欲に自分に教えを請うてくるカミツレ、そんな中で自分を気遣うカミツレ、指導によって新たな力を手にするたびに笑顔で自分を見てくるカミツレが少しずつ愛おしくなっていった。

 

当主である為に自分には縁談の話が舞い込んでくる、しかし自分を揺り動かすような相手は全くいない。不意に自分にとっての理想の男性像を組み上げて行く事を思いついた。そうすれば少しはまともな相手を探す事が出来るのではと思った。そして組み上げて行った結果として出来上がったのが…

 

『ツェレですわね…。わたくしの理想がツェレ……アリですわね』

 

カミツレであった。そんな理想像に一瞬驚きつつも即座にそれに満足げな笑みを浮かべてしまった、同時に自分が彼の優しさと温かさに惹かれている事を理解し思わず笑ってしまった。弟子を好きになってしまう師匠が何処にいるんだろうか…と。でも悪い気分などはなかった。そしてヨランドは決めた、必ずカミツレに結婚の申し出をしようと。

 

そして遂に一夫多妻制度認可条約が世界中に発表された時、それに合わせて個人としてカミツレに見合いの申し出を送った。そして、今自分はIS学園で共にいる彼に会いたいと思っている。そんな彼女は屋上へと足を運んで見るとそこには顔を赤くして悶絶しているカミツレを見つけた。

 

「ツェレ?」

「ヨ、ヨヨヨヨランドさん!?」


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