IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第147話

「ツェレ?」

「ヨ、ヨヨヨヨランドさん!?」

 

自らの思いを自覚してしまったカミツレは顔を真っ赤にして体育座りをしながらこれから如何したらいいのだと、悶絶しながら考えを巡らせていた。気付かない間に蓄積していたヨランドへの感情、紛れもない好意に驚きを感じながらもそれを受け入れるべきなのかと悩んでいた。そんな所にやってきたのはヨランドであった、彼女が屋上へとやってきたのは本当に偶然で誰かに聞いたから来たという訳ではなかった。立ち上がりながら顔を強く拭いて、無理矢理赤みを隠しながらフェンスの向こう側に広がっている夕暮れへと目を向ける。

 

「ど、如何したんですかヨランドさんっ!?」

「ツェレこそ、座り込んでおりましたが何かあったのですか?」

「い、いえ特に何も…何となくそうしてただけと申しますか…」

「ならいいのです」

 

微笑みながら隣に立ち、同じように海へと向かってゆっくりと沈んで行く太陽を見つめる。隣にいるヨランドはなにも言わないが無言の圧力のような物が襲い掛かってくる、そもそも見合いの話を送ってきている本人を目の前にしているのだから何も感じない訳がない。お互いに無言のまま、ただ時間だけが過ぎて行く…屋上から立ち去るタイミングも見失ってしまったカミツレは何も言えずに、硬直しているかのように留まり続けていた。

 

「…ツェレ、お一つ聞いても宜しいですか?」

「はっはい…なんでしょうか」

「あの手紙は、読んでくださいました?」

「…一字一句に至るまで」

「それは嬉しいですわ、思いを込めた手紙を読んでいただけると嬉しい物ですわね♪」

 

心が弾んでいるかのように言葉を口ずさみながら笑みを浮かべるヨランド。やや動揺するかのように視線を迷わせてしまっているカミツレ、一体如何すれば良いのだろうかと…思っていると後ろからヨランドが歩み寄って抱きついて来た。柔らかな感触と何処か官能的な匂いが頭を鈍らせる。抱き付いて来る彼女をそのまま、受け止めるとヨランドは軽く頭を預けてくるかのようにしながら囁くように言う。

 

「ツェレ…わたくしがあの手紙に(したた)めました思いは決して偽りや政府からの思惑ではありません。ヨランド・ルブラン個人として、貴方に対する思いの発露なのです」

「…でも、なんで俺を好いてくれてるんですか……?前に千冬さんに年下好きって事は聞きましたけど…」

 

思わずクスリと来てしまった、そんな事を口にしてしまう程にカミツレは女性とのやり取りが乏しいようだ。

 

「確かに、どちらかと言えば同い年や年上よりは其方の方が好みではありますわね。ツェレは年下ですし、背もわたくしと同じ位だしストライクゾーン的にはど真ん中ですわね」

「じゃあ…」

「でも、でもわたくしが貴方を好きになったのはそんな事とは無関係だったのですよ…?」

 

自分が好きになった彼は年下だからではない。自分が求めていた人だからだ。優しさに強さ、精神、様々な物を持っていてそれを他人へと向けられて気遣い事が出来るカミツレに心惹かれていた。大貴族の当主として社交界にも出ている身としてはドロドロとした人間の汚い部分を多く見てきた、国家の代表として動けば愚かな思想に塗れた屑のような人間が自分を奉り上げようとしてくる。そんな世界にうんざりしていた。

 

「でも、貴方はわたくしに優しくしてくれましたわ…。それが嬉しかったのです、凛々しく強くなって行く貴方は凄いカッコ良かった、次第にそんな思いは好意に変わって行きましたの」

 

ただヨランド・ルブラン個人として接してくれただけではない、彼の温かさと美しさと強さに心打たれた。真に燃え上がった愛を感じた、上辺を取り繕った男とは違った強さと優しさを相手へと向ける。そんな向けられた優しさと温かさはヨランドの心をじんわりと暖めて、心地よい物で満たして行った。

 

「だから、わたくしは貴方の妻の一人になりたい…。貴方の傍で一緒に居たい、時を一緒に過ごしたい、一緒に夢を見たい……そう思いましたの…」

「ヨラン、ド…さん…」

 

そんな彼女からの思いの発露を受けるとそっと自分を抱き締める手へと優しく触れた。暖かく柔らかな手だ、自分にとってのヨランドは師だ、だが結局は自分が如何思っているかだ。それが一番大切なんだと思いながらゆっくり口を開いた。

 

「俺は…ヨランドさんの事をどんな風に思ってるのか、良く分からないですけど、きっと好きなんだと思います…」

「ツェレ…」

「俺にとって貴方は、技術を教えてくれただけじゃなくて俺が掴んだ未来を手繰り寄せる為に力を貸してくれた人…ってだけはないんです。俺は…俺は貴方の事をっ……!!」

 

振り返りながら強くヨランドを抱き寄せた、それに驚いているがヨランドも自然に彼の背中に手を回して強く抱き締める。

 

「ヨランドさん、その…このような場で返事をするのは失礼かもしれませんが俺は今此処で言いたい…!!」

「はい、どうぞお聞かせください」

「…俺は未熟者でまだまだ幼い子供です、それでも、俺は…貴方に言いたい。ヨランド・ルブランさん、私は貴方と…恋を、したい…!!」

 

それがカミツレがその時、言える最大限の言葉だった。震えている身体から振り絞って出た言葉がそれだった。恋をしたいという言葉にキョトンしてしまったヨランドの顔、それに思わず自分が言った言葉が可笑しい事に気付いた。見合いという事は結婚を視野に入れている物なのに何でそんな事を言ってしまったのか、と慌ててしまうがヨランドは笑いながら軽く、カミツレの頬にキスをした。

 

「恋、いいですわね…。いきなり結婚ではなく、まずは婚約してお互いを知るという事ですわね?流石ツェレ、良くお考えで…是非ともその恋のお相手にならさせてくださいツェレ、わたくしと結婚を前提にお付き合いをしてくださいます?」

「…是非ともお願い、します」

 

その言葉の後、互いに微笑み合いながらヨランドは唇を奪った。

 

「結婚を前提なんですから、キスは普通ですわね♪ツェレ、もっとさせてください…♪」

「だ、誰かに見られても知りませんよ?」

「それはそれで燃えますわ」

「んもう…」




遅くなってすいませんでした。

ギ、ギリギリ今日の分の投稿にセーフ!!!!

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