IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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師弟対決
ヨランド VS カミツレ


第154話

超術の異名は極限にまで洗練された操縦技術と、膨大な経験、卓越された頭脳から導き出される緻密な計算。その計算による無数の罠、巧みな相手の誘導や武器の選択によって相手を完全に粉砕する知略と武力の融合とも言える戦い、それがヨランド・ルブランがフランス国家代表歴代最強と言わしめる要因となっている。

 

そんな彼女の愛機たる専用機『シャティーナ・ブラーボ』は基礎をデュノア社が開発した「ラファール」としているがその実体は細かな所まで彼女自らが所有している研究所で徹底的に改造されており、最早到底「ラファール」という機体ではなくなっている。元々彼女がそれを選んだ理由も基礎設計が確りしている事、そして豊富な武装ともかみ合うからというだけ。他に同じような機体があればそれを選んでいたらしい、と、護衛をする時にシャルに言った際には彼女は引き攣った笑いをしたという。

 

そんな愛機を纏ったヨランドは目の前に登場して来たカミツレに対して満足げな笑みを浮かべながら、近接ブレードを二本展開しながら刃を向けるとほぼ同時にカミツレも「スパークルエッジ」を展開して構えを取った。凛々しくも挑戦的な表情を浮かべる弟子であり愛する男、自分が求めていたのはこの高揚感。自分すら超えて行くような弟子と戦い、そんな弟子が愛する人…なんと素晴らしい事なのかと歓喜に震える身体を抑えながらブレードを構えた。自分としても珍しく弟子との真っ向勝負をしたくなった。

 

「ツェレ…今日という日をわたくしは楽しみにしておりましたわ。実にワクワクしておりますわ」

「奇遇ですね俺もです。以前、貴方に負けてから俺はまた貴方と戦いたくてうずうずしてた。それが叶うんですからね」

 

言葉のぶつけ合いが終わると同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。即座に激しいぶつかり合いが始まるのかと観客達は期待していた。事実、IS同士の戦いは開始直後から激しい攻防が起こる。今回もそうだと思っていたのだろうが、そうはならなかった。静かに構えられたブレードの切先を相手に向けたまま、ジリジリとすり足を行うかのように互いに距離を取ったまま、回る様にしながら相手の出方を警戒していた。

 

「「…」」

 

とてもISの戦いとは思えぬような静かな立ち合い、アリーナ中に充満して行く緊張感と呼吸音すら木霊しそうな程にクリアな沈黙。固唾を呑んで誰もが一体どちらが先に仕掛けるのか、それに集中していた。それは管制室にて戦いを審判する身となっている千冬と真耶にも同様の緊張があった。

 

「す、凄い緊張感…ISの戦いでこんな事になるなんて思いもしませんでした……」

「普通ならば先手必勝や牽制、様々な行動を取る筈だがそれらを頭に入れた上でそれに対応するために敢て動かない。そういう手もあるが、両者共にこれを取るのは珍しいとしか言いようがないな」

 

世界の頂点に立った千冬にとってもこんな静かな戦いの様子は数えるほどしかなかった、事実自分もやった事もあったがあれが相手が自分との対決に緊張しているのと、自分は最初から相手に先手を譲るつもりだった事だったので起きた事象だがこれは全く違う環境。

 

「長剣と二本の剣…まるで巌流島の佐々木 小次郎と宮本 武蔵ですね」

「ほう、佐々木 小次郎と宮本 武蔵また言い得て妙だな。これからの勝敗を言い当てているような物だな」

「そうですね…」

 

二人の中でも勝負は既に決定しているような物だった、きっとカミツレは勝てない。それでも彼は挑む、尊敬し憧れとしている師の一人であるヨランドに。凛々しく鍛え上げられたと言ってもまだまだカミツレは経験が足りない、それに比べてもヨランドは正に黄金のような輝きを放っている。彼女の経験と実力の前ではまだまだ彼は幼い子供でしかない。

 

「―――動くな」

「カミツレ君、頑張れ…!!」

 

それでも彼女らにとっては愛する男であり愛すべき弟子である事に変わりはなく彼の健闘を祈った。

 

「「―――ッ!!!」」

 

全くの同時に、瞬間的に高められた出力を「瞬時加速」として使用して一瞬で互いの距離を0にするように接近し互いに斬りかかった。乾ききった空間に響く剣戟の音、激しく振るわれるブレードのぶつかっていく音。遂に始まった戦いは静かに見つめられ続けている、鍛えられた剣筋がぶつかり合っていくと共に少しずつ互いの機体の動きも激しくなって行く。

 

「っ―――!!!」

「ハッ!!!」

 

凄まじくも激しい斬撃が相手の斬撃とぶつかり合って消えていく、それが何合も続いていく。一撃一撃に思いと全力を込めて振るえという千冬の教え、最初こそ思いと全力を込めるのは酷く疲れる事だったが今では慣れてしまっている。それでも今、目の前で相対している人はそれらを全て受けながら完璧とも言えるカウンターで刃をぶつけてくる。それらを「ディバイダー」で防御しながらも剣戟の手は休めない。力を込めた一撃でなければ相手のカウンターの一撃を削れない、込めていない一撃では凄まじいカウンターが襲ってくる。どちらにせよ大振りも小振りも許されない現状に妙な考えを挟む事もなく、戦い続けるカミツレは敢て大振りをした。

 

「ッ…!?」

 

それを受け止めてカウンターを仕掛けるつもりだったヨランド、しかしその手にブレードが存在していなかった。振るわれた手から零れたかのように落ちたブレード、それは逆の手によって強く握られ下腹部を斬りつけた。それでもヨランドの身体は直感的にサマーソルトをするかのように回転して「ディバイダー」を蹴りつけて距離を取った。

 

「(ワザと大振りをする事でわたくしの防御からのカウンターを誘う、しかしブレードを瞬間的に持ち替える事で思考の隙間を突いた…。良い手ですわね、でもその後が拙い…咄嗟に考えましたわね?)」

「(クソッ後が続かなかった…咄嗟に考えた作戦だから後に続けられなかった…!!)」

 

あのヨランドに一撃を入れた、その事に観客が大歓声を上げるが、そんな事は二人の耳には入らずに目の前の相手の事に意識が集中していた。まだまだ戦いは終わっていないのだ。ヨランドは片方のブレードを消してライフルに持ち替えると一気に突撃して行く、それに対応するようにカミツレは「ヴァンガード」を起動させながら迎え撃った。


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