爆煙から姿を現したそれは進化していた。ISにおける進化、即ち
「ツェレ…貴方そこまで……!!!」
ヨランドも当然カチドキの事は承知している、心を通わせ相棒として二人三脚で成長し生きている二人の事はよく把握している。カミツレも相棒の事を深く理解しただの相棒ではないと認識し、カチドキも相棒の事をただの搭乗者ではなく家族だと認識している。そんな二人の絆が紡ぎ上げたと言える「二次移行」はこの二人ならば確かに至ったとしても可笑しくはないと言えるだろう、何れ至るべき領域だと思っていた。だが…それを自分の目の前で至ってくれる事に深い感動を覚えてしまった。
「フランス国家代表いえ…杉山 カミツレの婚約者にして師の一人、ヨランド・ルブランがお相手を致しますわ!!来なさい!!」
「ハッ!!」
前傾姿勢になったかと思いきや瞬間的に速度を増しながらその手には新たなブレードが握られていた。「スパークルエッジ」よりもやや大型化しているが大将軍はそれを易々と保持したまま凄まじい速度で振り込んでくる、それをショットガン二丁で受け止め破損覚悟で受け流す。酷く重く鋭い一撃、受け止めただけでショットガンが悲鳴を上げるかのように罅が入ってしまった。無理矢理受け流しながら二丁を放棄、新たにショットガンを展開してトリガーを引くがスラスターから凄まじいエネルギーが放出されると一気に後退し追加された手甲の装甲で受け止めた。
「出力が段違いに上がってますわね…!!」
「すげぇパワーだ…それに、何て敏感なんだ…俺が後退しようと思っただけでこんなに……」
『各種性能が底上げされています。カミツレ、何時でも行けます』
「おう、どんどん行くぜ…!!」
ブレードを保持したまま残った片方の手を上げるとライフルが出現する。「スターダスト」と同じ二つの銃口があるのは変わらないが今まで装填していたエネルギーパックが無くなっているのが目立つ所だろうか。そのままトリガーを引くと二つの銃口から同時に光が発射されていく、ヨランドは当然と言わんばかりに回避するが連射をしたままに圧倒的な出力で迫ってくるカミツレにやや驚きながらも、重機関銃を展開して連射して行く。
「オラァァァッッ!!!!」
ライフルを収納するとブレードを構える、そして連なっていたブレードの刃の一部を分離させるとそのまま柄に合体させた。ブレードは忽ち薙刀へと姿を変えて超高速で回転して行き銃弾を全て弾いていく。そして強く振るうと斬撃に乗せられてエネルギーが放出されて弾丸を全て吹き飛ばしていく。が、直後にヨランドが逆に懐に飛び込んで行った。その両腕にパイルバンカーを装備して突き貫かんと迫ってくる―――。
『
と音声が聞こえたかと思ったら彼女の攻撃はカミツレによって止められていた。その両手に自身と同じくパイルバンカーを二つ備えて、シールド部分を展開してそれで防御を行っていた。
「貴方もそれをっ…」
「セイヤッ!!」
腕を広げるかのようにヨランドを振り払うと同時に腕からそれをパージすると「灰色の鱗殻」はデータ化されたかのように消え去っていく。それを見たヨランドは怪訝そうな表情を作ってしまった、通常ISの武装はあんな消え方などしない。今気にすべき事ではないのかもしれないが酷く気になった、あれは自分が気にすべき事で気にしなければいけない事なんだと凄まじい警鐘を鳴らしていた。
「さあまだまだっ…上げて行くぜ!!!」
『あっすいませんカミツレ、さっき調子に乗ってやっちゃいましたが、もうエネルギーが無いです』
「え"っウソッ!!?」
『マジです。というか先程のヨランドの攻撃を受けた時点で残りSEは18%でしたのに先程の加速や斬撃放出時に僅かに被弾してましたし、極め付けにさっきやっちゃったのでもう3%位しか残ってません』
「OH……」
これからもっと乗っていくべき所だったのに…既にヨランドの集中砲火を受けていた時点で機体は限界を迎えていたらしい。残り僅かとなったSEに如何するべきかと一瞬考えた時だったが、そんなの愚問だった。最後の一瞬まで精一杯戦う事に決まっている、ブレードを展開して構えるとヨランドも嬉しそうに構えを取る。そしてその後、カミツレは向かってくるヨランドを迎え撃ち、最後は彼女の「灰色の鱗殻」を両断するが寧ろそれを囮にしたヨランドの一撃を受けてSEが枯渇してしまい敗北した。
勝敗が決着すると大歓声と共に惜しみない拍手が贈られた。二次移行により逆転劇を期待していた生徒達もいたがそれでも最後まで戦ったカミツレに対しても惜しみない拍手が贈られた。
「ツェレ本当に素晴らしいですわ、貴方という弟子を持てて私は幸せですわ」
「そう言ってもらえて俺も嬉しいですよ」
「ご褒美に此処でキスしましょうか?」
「公開処刑は勘弁してください」
「もう千冬にされてますわよ?」
「そうでした」
と二人は笑ってから握手をしてそれぞれのピットへと戻って行き、カミツレは抱き付いて来たセシリアを受け止めて約束通りにキスをするのであった。