やや揺れる室内に充満しているのは英国に住まう者にとってはなくてはならない存在となっている紅茶。彼らイギリス人にとって紅茶は最早必需品であり無いなど有り得ないと言っても過言ではない代物なのである。その紅茶好きの凄さと言えば戦車にまで紅茶を入れる機械が装備されているという話があるほど…此処まで行くと呆れるのではなく感心するレベルと言える。そんな紅茶の優雅な香りを肺一杯に吸い込むと思わずリラックスする、これはDNAに刻まれたイギリス人の宿命なのかもしれない。ミルクなどは一切入れずにストレートで口にする…すっきりとした茶葉の味と気品のある香りが鼻から抜けて行く。
「うむ矢張り良い…。お前の淹れる紅茶は相変わらずのストレートだな、偶にはレモンにでもしたら如何だ」
「私にはこれが丁度いいのだよ!何事も直球一本槍な私にはストレートが一番性に合っているのさ!!」
「相変わらずだな…その馬鹿でかい声もな、この家不幸娘が」
「私ほど家訓を忠実に全うしている人間は居ないよ!!「常に声は大きくハッキリと!!褒める時はもっと大きな声で!!そうすれば自分の気持ちは全て相手に伝わる!!」という素晴らしい家訓をね!」
「だからと言って女王陛下の御前でもその馬鹿でかい声のままでいるのは如何なんだ」
「陛下とて理解してくれているさ!だからこそ、会いに行く時は元気が良いねと笑顔で語りかけてくれるのではないか!」
対面の席に座っているリオノーラは相も変わらずに常にテンションフルスロットルで振り切れそうな元気で毎日を生きている。常にこのテンションを維持したまま生活出来るバイタリティを持った人物であるからこそ国内最高の天才と言われているのかもしれないと笑いながらもう一度紅茶を飲む。ミルクを入れた物も好きだが、偶にはストレートを存分を味わうのも悪くは無い。
「それで件の操縦者は何処にいる」
「ああ君の目的は矢張り…カミツレ君だったんだね!君ほどの人が自分から出向くなんて驚いたけどこちらの事を気遣ってくれて感謝しているよ!」
「此方がスケジュールを調整すればいいだけの話だ。態々我が国に莫大な利益になり得る事に水を指すなど意味が無い所か邪魔なだけだ」
「フフフッ君のそういう厚意は実に有難いよ!それではそろそろ行こうか!?」
「案内を頼む」
研究設備と整備施設を兼ねている場では先程終了した「大将軍」の稼動データ収集の解析及び整備が行われている。それを肩からタオルを掛けながらドリンクを飲んでいるカミツレは眺めながら今日体感した感触を反復しながら頭の中でイメージを固めて行く。先日は高機動時と近接機動時における機体データの収集だったが、本日はBT兵器及び射撃武器のデータ収集だった。進化したBT兵器のデータに現場は大興奮しながらの解析作業が行われている。
「カミツレさん、今日の手ごたえはいかがでしたか?」
「そうだな……前に比べたら大分慣れたな。この位に動かしてから是非ヨランドさんと戦いたかった位だよ」
「そう思われるのも致し方ないですよ、いきなりの事でした物ね」
苦労を労うように間食のサンドイッチを持ってきてくれたセシリアに感謝しつつそれを頬張る。「蒼銀」に比べて出力も高いが扱い易い為なのかもう随分と操る事には慣れてきている。今の自分ならきっとあの時よりも良く戦えていたのではないかと思える。まあ前提条件が違ってくるので過去と比較するのは随分可笑しいのだが…それほどまでに自信が付いてきたという事である。
「それにしても……『極ドライブ』のお陰で覚える事が倍増したよ…能力を最大限生かす為には俺が色んな武器の使い方を覚えておくしかないからなぁ……」
「ですわね…。展開してそのまま射出も出来るそうですけど、そのままにしておくと自然と展開解除されてしまいますから基本は保持して使うのが基本になりますし…そうなるとやっぱりカミツレさんが武器を使いこなすしか『極ドライブ』を100%発揮する事は出来ないでしょう」
「だよなぁ…」
『極ドライブ』はコア・ネットワークを利用して他のISのデータを解析する事で搭載している武装をSEを消費して展開する事を可能とする能力である。一夏の『零落白夜』と同じく搭乗者の技量が酷く重要になる物だが『零落白夜』とは決定的に違う物がある。それは能力を発動する際に使用する物が違う事。
『零落白夜』は搭載武装である『雪片弐型』を媒介にして発動し、相手のシールドバリアを切り裂き相手に決定的なダメージを与える事が出来る。しかし『極ドライブ』は何かを使って発動するのではなく、解析を行いその武装を展開して使う事が出来る能力。展開した武装を使用してどのように戦うか、どのように使うのか、どのように戦術を組み立てるのかというのが重要になってくる。『極ドライブ』がヨランドに使用された場合はもう目も当てられない事になる事は必死だろう。
「兎に角俺ももっと努力しないと駄目だなぁ…その為にももっと努力と経験を積んで実力を磨く。まだまだ俺の技量は下から数えた方が早いんだ…徹底的に磨けば俺はもっと輝く筈だ……!!!!」
「―――ほう、良く理解しているようだな。ただの小憎、という訳では無さそうだ」
瞬間、騒がしかった施設内が冷たくシーンと静まり返った。沸騰した湯のように音を立てていた物が、たった数滴の水によって完全に凍りついてしまったかのような様子に一種の恐怖を感じる。振り返って見るとそこには凄まじい風格とオーラを纏っている女性―――というには千冬やヨランドとは違った王者としての強さを纏った女傑がいた。黒を基調としている服装は更にその強さを強調しており、威圧的な印象を強く受ける。無理矢理にでも表現しようとすれば―――鉄の女だろう。
「久しいなオルコット嬢。壮健なようで何よりだ」
「はっはい有難うございますっ…!!」
「硬くするな、私はプライベートで此処を訪れているのだ」
表情を硬くして冷や汗まで流すセシリアは頭を下げると女傑は気遣うように楽にしろというが、そんな事が出来る訳がない。今目の前にしている人はセシリアが一番怖い、怒らせたくないと思っている人物で会うにも心の準備をしないとまともに口も利けない程なのだ。今も身体の震えが止まらない……そんな風に震えているとカミツレが背中を撫でて落ち着かせてくれる。それでなんとか落ち着きを取り戻しつつも、ついついカミツレの後ろに隠れるように立ってしまう。
「おやおや、随分と嫌われた物だ」
「そりゃ君が怖いからさ、誰だって君から感じるオーラと威圧感を思ったら硬くなってしまうさ!!」
「平常運転のお前に言われては説得力の欠片もない物だな」
そんな女傑の背後から顔を覗かせるリオノーラ。そんな能天気で元気がトレードマークな彼女の登場でセシリアも少し安心出来たのか思わずホッと息をついた。そんな女傑を前にしているカミツレは彼女が一体ダレなのか理解した……そう、このイギリスの国家代表である。
「あの…杉山 カミツレと言います、本日はお会い出来て光栄です……イギリス国家代表ハマーン・カーンさん……!!」
「私も是非お前に会ってみたいと思っていたのでな、今日は足を運んだ。改めて名乗らせて貰う…。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国…通称、イギリス…その国家代表を務めているハマーン・カーンだ。杉山 カミツレ……是非一度会ってみたかったぞ、宜しく頼む」
候補としてはインテグラ、バラライカ、オリヴィエ・ミラ・アームストロング…というかこの方々がすげぇ印象的すぎて他の人が出てこない……。
シーマ様とかいる筈なのに……この方々のインパクトがやばすぎる。
一応女傑ではなくて、FGOのマリーみたいな人が代表という候補もあったんですが……表現出来るか不安だったのでパスしました。