IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第173話

その日、カミツレは珍しく一人で屋上に佇みながら空を眺めていた。基本的に恋人と共にいるか友人達が周囲にいる彼には珍しい孤独という名の相棒と二人きりの時間は酷く貴重で、自室以外では基本的にありえないようなことになっていた。しかしそれが何の因果で訪れ、何となく屋上に足を運んで空を眺めている。2年になって何かと誰かについて回る事が多かった身としては珍しい時間に身を委ねる。

 

「こうして二人で空を眺めるのも悪くねえな」

『そうですねお父様』

「こんな時ばっかりお父様呼びすんの止めろ」

『こんな時、だからですよ』

 

そんなくだらない事を話しながらも夕暮れに染まり始めて来た空を見つめてみる、灼熱の炎に照らされているかのような明るく美しい色に思わず見惚れながらもそんな明るさを反射して輝く海にも同様の美しさを感じる。そんな美しさが、学園での生活でやや荒れているカミツレの心を癒す。思わず顔を伏せながら呟いた、夕日が目に染みるからではない。

 

「……カチドキ、これで何回目だ……?」

『27戦0勝27敗です』

「そっか……そっかぁっ……」

 

この回数はカミツレのある人物との戦歴を表している、明確なまでに示されている自分と相手の実力の差に辟易してしまう。自分だって努力している、努力を積み重ねて少しずつ実力が研磨され大きくなっているのが自分の為だと分かっている筈なのに……大きく心に圧し掛かってくるのが分かる。

 

「近接攻撃を仕掛けながら全方位から「ストライク・ヴァンガード」で攻撃を仕掛けても攻めきれない。押し込められない……辛いな」

『正直言って戦うたびに強くなっていると実感出来ます。私もかなりの攻撃パターンを構築していたつもりですが……それを経験による直感で捌かれると言うのは中々来る物があります』

「何時になるんだろうな……真耶さんから勝ち星奪えるのは……?」

 

師である真耶との戦歴は凄まじいほどの惨敗。師である彼女から一度も勝ち星を得られていない、というのをカミツレは気にしていた。彼自身も実力は付いてきていると自惚れない確信を持っている、多くの事を教えられそれを物にしてきたという自信や「大将軍」へと進化出来た事でそれは把握出来る。今回は「大将軍」になってから初の真耶との模擬戦だった、善戦出来るいや勝てるという自信を持って挑んだのに……結果は惨敗だった。

 

『むぅぅぅっっ!!!!』

『甘いですよ、カミツレ君!』

 

教員仕様にカスタマイズされているラファールを相手にしているカミツレとカチドキ、性能面では圧倒的に「大将軍」が勝っている。出力、防御性能、攻撃力、機動力、運動性、様々な面が勝っている筈なのに戦いは終始真耶のペースだった。握られた「フォトンセイバー」を強く振るいながら押し込むように接近し続ける、それに合わせてカチドキが「ストライク・ヴァンガード」を操作して様々な角度から攻撃を打ち込んで行く。

 

『まだまだっ今度はそっちであっちから来る!』

『うおっ嘘だろ!?』

 

完全にカチドキによって制御されているBT兵器の攻撃軌道、それを完全に読み切ってそれを利用するように回避と誘導を同時に行いつつ、その仕上げとして身体をそらすとカミツレへの直撃コースへとなるように仕向けるというとんでもない対処をやり遂げた真耶。思わずそれに強く反応してしまって、大きく回避してしまった瞬間に真耶の怒涛の反撃が行われた。

 

『しまっ……!!』

 

接近している事が仇となった、真耶が比較的に苦手としている接近している状態ならば易々と射撃戦に持ち込む事は出来ないと思っていたが自惚れだった。ほぼ0距離からの全力斉射を立て続けに受け続け、接近していた事で『ディバイダー』による防御も間に合わなかった。『極ドライブ』を発動させる暇も与えない攻撃で全てのSEを削り取られてしまった。

 

『私の勝ちですねカミツレ君、まだまだ負けてあげませんよ♪』

『……畜生……』

 

心から悔しさが滲み出て来た、真耶に敗北したのは今回に限った事ではない。それは今までの戦歴が如実に語っている。それでも今度こそ行けるのではないかという淡い期待が胸の内に存在していた、成長し進化している相棒と自分なら……と心の何処かで勝利を信じ敗北するかもしれないという疑念を僅かたりとも持っていなかった。

 

「師匠の背中は未だに遠い、か……。分かっちゃいたけど、やっぱ凹むなぁ」

『分かりますよカミツレ。私も彼女に思考パターンを読まれていたなんて、信じられません』

「時に経験は機械の精密さを凌駕するって千冬さん言ってたけど……マジだったな」

『本気で人間やべぇなって思いました、そりゃ化け物を殺すのは人間だって言われるわけですよ』

「あれはあの人達が異常なだけだと思うぞ」

 

何にせよ自分達はまだまだ師匠に勝つ事が出来ない事を証明されてしまった、力の全てを完全に出し切ったわけではないがそれでも力の大部分を出しても通じないことが明らかになってしまった。自分のすべき事はもう決まっている……もっと努力する事だろう。強く頬を叩くと、気を取り直す。

 

「カチドキ、今回の試合のデータは保存してあるよな」

『当然。あんな悔しい思いをしたのですから』

「見直すぞ、次の勝負に繋げる為にな」

『当然です』

 

二人の気持ちは同じだった、それを確認しあうと屋上から立ち去って自室へと向かって行く。自分を成長させる為に、出来る限りを尽くす為に。

 

「あっカミツレさん!良かった会えましたっ♪」

「乱ちゃん?如何したんだい一体」

「えっとその……これから部屋に行って、その……あ、甘えて良いですか?」

 

上目遣いをしながら頬を赤らめ、身体をもぞもぞと軽く動かしている恋人に思わず言葉を失い掛けた。それを見てカチドキも察して2回震動した。今回は見送りにしようという合図に感謝の念を抱きつつ、乱を軽く抱き寄せる。

 

「当然、いいよ。何をして欲しい?」

「膝枕をしながら耳かきを……♡」

「男の膝枕は硬いだけだと思うけど……」

「わ、私もカミツレさんにしますからっ!!」

 

 




弟子よりも大きく成長する師匠。弟子からしたら超え甲斐があるのか
それとも止めて欲しいのか……どっちなのだろうか。
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