主にセシリアと束さんを。
それなのにヤンデレのヤの字もない……。
「やあカッくん、代表戦勝利おめでとう~!愛しの束さんがお祝いに来たよ~!!」
「これは嬉しいですね。有難うございます、それで今日は何が食べたいですか?」
「うーんカッくんのお任せメニューで!」
「はい承りました」
試合後、自室へと戻ってきたカミツレを待っていたのは束だった。自分と婚約関係にある事を発表してからは良く顔を見せるようになった彼女の対応にも慣れた物だが、最近は如何にも本格的な宇宙進出プロジェクトを考えているのかディスプレイに向かいながら難しい表情を作っていた。宇宙に行くためには何が必要か、そのために自分はどんな物を考えてどんな物を作ればいいのかと考えていたりする。
「うーん……それにしても特撮だと馬鹿にしてたけど……これ、結構ヒントになるの多いなぁ……むむむっ……そっか、デブリの対処の為のレーザー砲とかも必要だし燃料とかの問題もあるのか……」
「意外と参考になるでしょ。結構ヒントになったり閃きになったりするんですよ」
「……取り敢えずこのリパルサーリフトをマジで作りたい、ガチで今脳細胞がトップギア状態になってる……!」
食事を作り終えるまでの時間、適当に束はカミツレの机にあったソフトを覗いて見る事にした。中身は光の巨人こと、ウルトラマンシリーズである。思いがけない所で閃きを得る事が出来た束の表情は歓喜に震えながら、頭の中では電流が走りまくり計算式が次々と出来上がっていく。明らかに今の世界技術レベルでは再現不可能な筈の代物……しかし、そこは大天災篠ノ之 束。脳内では試作品の設計図が6割方まで書きあがっている。
「燃料がないっていうと、相転移エンジンとかですかね」
「相転移エンジン……!?そうか、その手があった……!!そうか、それならいろんな問題が解決する。問題はサイズは?いや内部機構は試作段階のあれを改良すれば……後は規模と制御システム面の構築と……」
「あ~あ、スイッチ入っちゃったよ」
『こうなったら暫くは帰ってきませんよ、最低でも1時間は』
「んじゃたっぷり時間を使って調理でもするか……」
アニメで見た事があるエンジンの名前を上げるとそれで天啓でも得たのか、という勢いで投影型のディスプレイを展開しながらキーボードを凄い勢いで叩いていく。手に装着されたグローブはその思考を読み取って指先から分裂するかのように、束の手の代わりに無数の指となってキーを叩いていく。僅かに漏れていく声は何処か狂気のような色を宿しながら、恍惚に染まった束から溢れ出していく。
「フフフフフフッ……アハハハハハッ……!!」
「……天啓得た時って凄いんだな」
『大体何処の科学者も天啓を得たらあんな事になりますよ』
「マジか……天才と狂気は紙一重って奴だな」
無論全ての科学者がそうなるわけではない事をご理解して頂きたい、この場合束が異常なだけである。取り敢えずカミツレは今回はカレーを作る事に決めたので、束が戻ってくるまでにしっかりと仕込みを行うのであった。そして全ての作業を終えて最後の煮込みを行っている間も現世復帰しないので、追加の具材を投下して煮詰めている時に漸く束が帰ってきた。
「いやぁ~もう大満足だねっ♪これを早く完成させてISに搭載して性能評価してみたいよ~♪」
「おやっ、終わったんですか?」
「うん、本当に充実した時間だったな~♪これでまた、宇宙に近づけた気がするよ」
「そりゃいいですね、何時か家族全員で宇宙か……改めて思うと壮大な夢ですね」
不意に窓から覗ける空を見つめて見る、広がっている空は黄昏に染まり始め輝いている。間もなくそんな輝きも星の光に移り変わっていく。束の夢は星が輝く海へ漕ぎ出して行く事。子供達と愛する夫と一緒に宇宙に行く事、その夢をかなえるために努力をし続ける。
「ホントだよねぇ……我ながら本当に、でっかい目標で、凄い夢だって思ってるよ。でもだからこそ叶えたいんだよね。夢って言うのは大きければ大きいほど叶えた時の感動も大きいからね」
「そうですね……夢、目標、素敵な響きだ」
「全くだね、カッくんは何かある?」
「そうですね……今までは生き延びたいからって必死になってましたからねぇ……」
目標……考えてみると明確な物なんてなかったかもしれない。特にイギリスに代表候補として認められて、恋人が出来てからは毎日が楽しかったり充実していたので、絶対にこれをやり遂げたいという物はなかった。しかし……今の自分はあると思う。
「ありますね……俺の夢」
「ほうほう、それってどんな夢?」
「それは……俺が好きな人達と平和に暮らしたいって事ですかね」
「ほほう……それはそれは良い夢だねぇ……!」
「まあそれだけじゃないんですけどね……もう一つは……」
手を上げ、空へと掲げる。力を込めて握り込むと同時に、太陽が海へと没して行く……。
「俺は……師匠達に勝ちたい……。心から、あの人達に勝ちたい……!!」
自分は師匠に一度も勝った事が無い、それは越えるべき壁が明確に強大であるという事の証明と強い気持ちが混在している。此処まで自分は強くなれたんだと言う所を見てほしいという気持ちもある。
「ふぅん……カッくんにも男の子っぽい夢あったんだね♪」
「ちょなんすかそれ……」
「だって、何時も攻められてる事多いから」
「攻めてる人が良くいいますね……」
束は謝りながらもカミツレの肩に頭を置く、こうすると心から落ち着く。カミツレを肌で感じる事が出来るからだ。
「……ねえカッくん、今日は泊るから一緒に寝ない……?久しぶりにさ……」
「良いですよ、一緒に抱きあって寝ましょうか」
「うん……かっくん、大好き」
「知ってますよ、大好き」