IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

179 / 341
第179話

シャルとの代表戦に勝利したカミツレ、2年の部の優勝を決めた瞬間であったが既に彼の心はそこには無かった。闘志に溢れた瞳が見据えているのは嘗て、たった一本の剣で世界の頂点へと昇りつめた最強の存在。それへの挑戦が確定した瞬間、意識は完全に其方へともって行かれていた。各学年の対抗戦優勝者は教員から選抜されたメンバーと戦う事になっている。教員は各学年の指導担当や担任をしている教員から選抜される……2年の対抗戦で優勝したカミツレが戦うのは、彼のクラスの担任でもある戦乙女、織斑 千冬。

 

「カミツレさん、ご武運を!」

「頑張ってきてくださいねっ!!」

 

セシリアと乱から応援のキスを受けながらそれに頷きつつもアリーナへと飛び立つ準備を早急に済ませる。指導は受けた事がある、だがそれだけ。千冬はあくまで指導をしてくれただけで一度も実力の片鱗を見せるような事は一切していない。故に実力の図りようがない、強いて言うのであればヨランドと同等かそれ以上の強さという事だけが確かであるという事。実力だけではない、経験の差も絶望的だ。

 

第一回の「モンド・グロッソ」での優勝、それ以降も無敗神話を積み上げる膨大な戦歴を築いている。ヨランドやアリーシャなどと言った圧倒的な実力を有している操縦者との戦いなどもあったろう、それらによって蓄積された圧倒的な経験値は千冬にあらゆる戦術の対処を反射レベルの速度で可能にしている。強さの差は最早次元違い、如何考えても勝てる訳ないと戦う前から誰もが分かっているほど。

 

「さて、行くか」

 

そんな思いを抱いている者達の事など完全に無視し、買い物にでも出掛けるかのように足取り軽く世界最強の女が待ち受けるアリーナへ、世界最強の刃を振るっても良いとされる領域へと、無造作に足を踏み入れた。千冬が静かに反応する。教員仕様の「打鉄」ではなく「黒鋼カスタム」に身を委ねている彼女は家に帰ってきたかのように自然と、ゆったりと入ってきた恋人に軽くて柔らかい笑みを向け、同時に力強く凛々しい剣が向けられた。

 

「来たか」

「来たよ、この時を俺は恐ろしいと感じたのに心待ちにしてた」

「奇遇だな。私もお前とのこの瞬間を楽しみにしていた」

 

言葉が共になる。待ち合わせをしていたかのように、優しく語りかけられた言葉は一瞬の内にほぐれあって抱きあった。互いの感触を味わいながらも次第に融けあって行く。

 

「思えば、二人っきりという事は部屋でしかなかったな」

「基本俺が部屋に行ってメシを作る、その延長で話すがデフォだったから当たり前。というかこれって二人っきりって言うのかな」

「言うだろう、街でデートをする恋人がいる。周囲に他の人間がいるのに二人っきりのデート、というだろう。それと同じ理屈だ」

「分かったような分からないような……」

 

共になって一緒に歩き出した、今二人にとってはこれが初めてのデートと同じような扱いになるのだろう。ただ、二人で向き合い互いの心が一つになればそこは、カミツレと千冬しかない空間同然へと変貌する。

 

「全くもって良い日だ、こんな日は美味い料理が食いたい物だ」

「んじゃこの後は気合入れて何か作ろうかな、兄貴から野菜来てるし」

「それは楽しみだ」

 

日常、広がっているのは正しくそれ。この空間も二人にとっては日常の延長でしかない。まだ婚約しかしていない筈だが、広がっているのは夫婦の日常の一幕のそれと同じ。昼下がりの居間で家事を終えた二人がテレビでも見ながら、夕食の事を語り合っているかのような光景。平和としか言いようがない。そんな中、そんな光景が遂に斬り伏せられた。

 

「さてと……試合後のお楽しみも出来た事だ。そろそろ始めようじゃないか……カミツレ」

「そうですね……千冬さん」

 

刹那、互いが纏う雰囲気が一変する。和やかだった室内が、瞬時に風によって揺らめく草原へと変わる。そこへと刀を携え、向かう二人の剣士へとなる。一点に向けられる意識と集中力、互いの全てへと向けられたそれは愛情故に出せる―――覇気。

 

「「……」」

 

それに対する無言のYESサインは向けられた剣、それだけ。伝わる互いの激流のような強い思いを受けつつも、それを越えて互いをぶつけ合いたいという思いが溢れ出す。時が止まったかのように静止した二人、息遣いすら木霊しそうな程に静寂な空間……互いの心臓を音を聞けるかのような静けさの中、二人はゆっくりと歩き出すような速度で距離を詰めていく。

 

「「……」」

 

一歩、一歩と縮まる距離。日々と共に深まっていた絆を示すかのような物、そして互いの身体が重なるほどの距離、ほぼ互いの距離が0となった時―――

 

「セイヤァァァァッッ!!!!」

「ハァッ!!」

 

―――互いの剣が衝突し、周囲へと衝撃を撒き散らした。一合、二合、三合。ぶつかり合っていく度に空気は揺れる、衝突する度に周囲へと驚きが伝染して行く。

 

「セイヤァァッ!!!」

「フンッ!!」

 

世界最強の女、千冬の一撃は重く鋭く、一瞬で迫る瞬速の太刀筋。それを紙一重で受けとめながらも反撃の一撃を繰り出していく。受け止める度に身体が悲鳴を上げるかのよう、保護機能とパワーアシストがあるというのに腕が痺れるような感覚に陥る。

 

「ッ!!」

 

加速して真空の刃を纏い、それをぶつける。が、彼女はそれをあっさりと受け止める所か全く加速せずに真空の刃を剣に纏わせて振るった。それはカミツレの一撃を完全に相殺した上で、彼を吹き飛ばす一撃となった。圧倒的なまでの実力の差に誰もが思った。今ある姿こそ、世界の頂点に立った千冬の力だと。

 

「ははっやっぱりすげぇや……流石、益々惚れちゃうよ」

 

―――そんな事、とっくに承知済み。ずっと過ごしてきて、色んな強さを知っている。千冬が強いのは当たり前。体勢を建て直したカミツレはそのまま、千冬へと向かい全力で剣を振り下ろすが受け止める。それでも彼は笑ったまま、再度の攻撃に転ずる。

 

「俺は、まだまだ全力を出し切ってない!!」

「ならば受け止めて見せよう、お前の全ての力をっ!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。