アリーナのバリアによって遮られ制限がある空の中心、そこから周囲へと撒き散らすかのごとく広がって行く凄まじい斬撃の嵐と衝撃波の群れ。ぶつかり合い続けている剣戟の雨と閃光、途切れる事のない攻防は周囲で見つめている観客達に驚きを与え、呼吸をする事さえ忘れさせようとする。
「……ぁぁぁぁっ!!」
「セイヤァァァッ……!!!」
撒き上がった土煙の中、微かに見えるのは斬撃の残り香の光のみ。ぶつかり合っては花火のように散って消えていくそれら。パッと煙を照らす明かりがあがったかと思えば即座に消えていく、一体何が起きているのか分からない、ただ分かるのは唯一つ―――
「セイヤァァッッ!!!」
「やぁぁっ!!」
―――杉山 カミツレは世界最強であった織斑 千冬に食らい付く事が出来ている、渡り合う事を可能としている。
刹那、土煙から飛び出してきたカミツレと千冬。一方は苦しげながらも未だに闘志に溢れる表情を浮かべ、一方は余裕と楽しさのある笑いを浮かべる。これだけでもどちらが優勢なのかが明白になる程。
「まだ行けるかカチドキ」
『機動には全く問題はありません、が……先程の攻防でBT兵器の全てが叩き落とされたのでこちら側の戦力は明らかに低下しています』
「対応能力が異常だぜ……これが経験の成せる技か……」
カミツレの技量は間違いなく高い部類に入る、周囲にいる代表候補生のレベルや技術が非常に高い故か感じにくいが……一般的な代表候補生と試合を行ったら間違いなくカミツレは相手を圧倒する事だろう。カチドキという相棒がいるのも影響しているが、彼自身の技量も高まっている。が、そんな彼とカチドキを一蹴出来てしまうほどに圧倒的な実力を有しているのが千冬である。
「フフフッ……成長しているな、私は嬉しいぞ」
砕け散ってしまったブレードを手放しながら新しい物を盾から引き抜いた千冬は酷くニコヤかに笑っている。恋人であるカミツレの実力の高さに喜びを感じつつ、此処まで心が楽しくなる試合が久しぶりなのもあるのだろう。彼女が彼を上回っている物はその殆ど、戦闘の経験に技量にISに対する理解度や数多くの技術をその身で受け、それらを超えて勝利してきているのだから当然とも言える。
『極ドライブは使用を控えておきましょう、恐らく意味がありません。彼女と貴方では経験が違い過ぎます』
「だろうな」
『極ドライブ』は使えば必ず勝てるという必殺技ではない。寧ろ戦術の幅を増やし、対応能力を飛躍的に向上させるだけ。カミツレの実力がダイレクトに作用する特殊能力で、それ単体ではロクに機能しない。思わず一夏の『零落白夜』が微妙に羨ましくなるが……あれもあれで使用者の技量を必要としたりするので、同じような物だろう。
「くそっ……突破口が見付からないってやべぇな……」
「さてとっ……今度は私から行くぞっ!!」
攻めてこないカミツレに変わって今度は千冬が攻めに転じてきた。迷ってる暇などないとライフルを持ってカミツレは連続でトリガーを引いていくが、それらを全て嘲笑うかのように回避されていく。教員仕様にカスタムがされているとはいえ、嘗ては自分が使っていた「勝鬨」のカスタム。武装は全て把握しているし戦い方も分かっている、それなのに……。
「此処まで当たらないのかよッ…!!」
『弾が飛んできてからの回避ではなく、銃口が向けられた瞬間に完全な回避行動に入ってます』
「クソッ!!これなら、避けられねえだろ!!」
一気に後方に飛び退くと「ディバイダー」を連結させてエネルギーを供給していく、充填が終了すると本来は一気に放出する所をそれぞれの発射口からランダムに打ち出せるようにセット、そのまま引き金を引いて弾幕を張るかのようにハモニカ砲を発射する。圧倒的な面への弾幕攻撃、盾を連結させた「ハモニカ砲」ならば銃口からの判断がしにくいと思ったのだろう。
「悪くはない、だが……それは既にヨランドの奴がやった事のある手法だっ!!」
千冬は両肩にあるシールドユニットを掴みそれを重ねるかのようにして投擲、そしてそこへ「瞬時加速」を行って稼がれたスピードを生かしてそのまま弾幕を文字通り、蹴り破るかのように前進して行く。重ねられた事で厚みが増したシールドは高出力の「ハモニカ砲」に耐えている。そして弾幕を突破した千冬は「ディバイダー」へとブレードを突き刺した。
「さあ如何する!!」
「こうする!!」
「ディバイダー」は真っ二つに裂けながら小規模の爆発をしていく、その背後では「トライドロン砲」を構えたカミツレがいた。既に発射体制が整ったそれのトリガーが引かれ、エネルギーが放射され千冬へと迫るが片手に保持されたブレード、それを渾身の力で振るうと放たれたエネルギーが―――完全に両断されてしまい、千冬の背後で地面に落ちた爆発を起こす。
「おいおい嘘だろ……?」
『ええっ……最高出力だったんですけど……』
「今のでブレードが駄目になったか……だがまだある」
そう言いながら最後の二本を抜刀した千冬はそのままクロスさせるかのように「大将軍」へと斬撃を浴びせかけた。一度ではなく、一息のうちに数回も連続して訪れる衝撃。それによって吹き飛ばされるカミツレは、圧倒的な力の差に呆れつつも……凛々しい千冬の姿に何処か見惚れていた。
「全く……本当に強いな千冬さんは」
「んっ……また砕けたか、やれやれ。久しぶりに本気で剣を振ってみたいのだがな」
ブレードを再び粉砕してしまった千冬のそんな言葉と同時に、カミツレのSEが0になった事を知らせるブザーが鳴り勝敗が喫した。
「私の勝ちだな、カミツレ」
「ええ。俺の、完敗です」