IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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一夏、悩む


第187話

間もなくに迫り始める学年別トーナメント。去年、即ちカミツレと一夏が入学した年は例年とは異なりより戦闘経験を積ませる目的でツーマンセルのタッグ戦に形式変更されていた。その年の新入生に第三世代型のテストモデルが多く、そこに来てクラス対抗戦における無人機の襲撃事件が重なった事を考慮し、早急に集団戦における自衛の手段を専用機をもつ候補生に学ばせる必要があったからとされている。が、今回からは例年通りの一対一のトーナメント形式となる。

 

「今年の見所ってやっぱり2年の先輩の戦いよね!!」

「そうそう、何と言っても激戦区だもんね!」

「去年はタッグトーナメント、でも今回はシングルだもんね。どうなるんだろう……」

 

1年や3年も決して注目度がないという訳ではない、しかしそれ以上に2年勢の出場する面子が飛び抜けていると言えてしまうのである。専用機保有者達が例年以上にいる上にその全員が漏れなく精鋭であるという点に尽きる、9名の専用機持ち達の激突が今から予想されており誰が頂点に立つのかという所に注目が置かれている。既に誰が優勝するのかという賭けまで秘密裏に行われているとか……。

 

「しかも、今回って各国代表の人たちまで来るって話でしょ、明らかにその2年達が自分の後釜に相応しいかどうかを見るためだよ絶対に」

「普通にありえる話だよね、先輩達の錬度って可笑しい所あるし」

 

ただのトーナメントではすまなくなるのではという予感をヒシヒシと感じる生徒達、そんな彼女の思いは正しいかのように何時も以上に鍛錬に勤しむ専用機持ち達。等しく思うのは相対するであろう相手に勝利する事、それしかない。純粋な思いが身体を突き動かし技術の向上などに磨きを掛けて行く。

 

「やれやれ随分と騒がしくなっているな」

「いやそりゃ騒ぎにもなるだろ、ある意味お祭りイベントだからな」

 

そんな生徒達のざわめきを呆れるように見つめる箒とある程度の理解を示す一夏、共に食事をしながら食堂内のどよめきにも気付いている。間もなくに迫ったトーナメント、今回のトーナメントが前年に自分達が行った物とは違いパートナーとのコンビネーションや作戦などではなく己の実力が最も試される事になる。恐らく2年の専用機持ちの中でも一番レベルの低い一夏は、やや緊張気味であった。

 

「大丈夫でですよ一夏さん!一夏さんだって凄い特訓してたじゃないですか!!」

 

そんな彼を励ますかのように同席している蘭は一夏の頑張りなどを理解している、そんな彼の努力は決して裏切らずに経験となって今の彼を支えているのは間違い無いと断言する。それは一夏も分かっている、カミツレやラウラ、シャルとも模擬戦などを何度も繰り返して自分の実力や作戦、どうやったら『零落白夜』を効率的に扱えるのかという点に絞って努力を続けてきた。

 

「だけど……問題なのは俺が弱いって事じゃない。俺ぐらいの強さなら勝てる奴らと如何戦うか、何だよなぁ……」

「だな。確かに一夏は間違いなく強くなっているが、強くなっているのは皆も同じだ。成長を考えると実力差が極端に縮まっているとも思えん」

「で、ですね……そうなるとやっぱり一夏さんが取るべきなのは……」

「ああ。『零落白夜』だ」

 

自分が弱いのは問題ではない、自分ぐらいならば倒せる相手がいるのが問題なのだ。その大きな差をうめる為には如何しても「白式」の切り札(ジョーカー)である『零落白夜』を切るしかない。が、そもそも「白式」が取れる手段は余りにも少ないので切り札を切ろうとするのは直ぐに見抜かれて警戒され、当てるのが非常に困難になる。

 

「今でこそマシになってるが、前などブレードのみだったからな」

「ホントそれな、今はホント楽だよ……まあ手段としては『零落』になるんだろうけど……これも問題点だらけだからなぁ……」

 

零落白夜を戦力として勘定する場合幾つかの事が浮上してくる事になる。まず戦力として考えるとその正に一撃必殺と言っても過言ではない破壊力を秘めた攻撃力、決定打になる事は間違い無いが威力がありすぎる故に相手に警戒される。効果範囲がブレードとほぼ同じであり相手に接近しなければ使えない、これはカミツレやセシリアと言った射撃兵装が充実している相手には使いにくい。そして、何よりこれは自らのSEを変換して使用する諸刃の剣という事。

 

「うわぁ……こうしてみると本当にクリアしないといけない問題が多いんですね」

「だがそれ以上な事がある」

「えっこれ以上に!?」

「そうなんだ、一番の問題は対戦相手がこれらの弱点を全て把握してて対処法を理解しているって事なんだ」

 

1年の時、一夏は鈴にこんな事を言われた事がある。

 

 

―――あのね…勝つには一に経験、二に技量、三に相手の力の調査、四に運がいるのよ。

 

 

これらを当て嵌めて考えると殆どの相手は自分以上の経験を積んでいる、カミツレは自ら真耶に師事したり師に恵まれている関係で非常に経験に恵まれているので容易く自分よりも上。技量は間違いなく自分が全員より格下、調査については出来ているが……それ以上に自分の手の内全てがバレているのが不味い。運については……まあ言う事はないだろう。

 

「やべぇ、勝てる気がしねぇ」

「……諦めるなと言いたい所だが、ぶっちゃけきついなこれは……」

「こ、こうなったら神頼みしましょう!!」

「マジでもうそれしかねえかもな」


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