IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第204話

遂に決勝まで昇り詰めたカミツレ。試合終了後、彼はピットに戻るとSEの補給など次の準備をリオノーラの好意に甘えて、彼女に任せた。そして静かにピットの壁に凭れ掛るように腰を降ろして上を向き、虚空へ向けて息を吐く。虚空に吐き出されたそれには疲労や不安などがあり、それらを全て吐き出すと身体を軽くしたかのように脱力する。身体中に満ち満ちていた全てが抜けて行くかのような感覚が突き抜けていく。

 

「はぁっ……しんどっ」

 

ぼそっと呟かれた言葉に思わずリオノーラはクスっと笑った、アレだけの激闘を演じて最新型のISを纏った強敵であるマドカを破った男の勝利後初めての言葉が何処か気の抜けたまぬけな言葉だったから。思わず笑ってしまった。あれだけの死闘といっても差し支えない戦いをした後の感想が至極単純な言葉だったのが何とも面白くてしょうがない。

 

「君もやっぱり面白いねぇ!!やっぱり二次移行を達成した搭乗者は何かしら面白い所を持っているのだね!」

「んなこと言われても知りませんよ、俺は別に面白い事いったつもりありませんし」

「だから良いんじゃないか!!だがそこが良い!!」

「訳わかんねぇ」

 

良く分からない言葉のやり取りを死ながらもリオノーラは手を休めない、先程のデータを照会しながら超高速で「大将軍」のプログラムの再調整を行っている。先程の戦いでも「カーム・ウェヌス」の調整がもっと確り行えていたらもっと良い戦いが出来ていた筈、時間的な余裕がなかったから致し方ないと言われたらそこまでだが自分がそれを出来ていれば良いだけの話だったのだ。それが技術者として非常に悔しい、時間と言うたった一つの制約のせいでマドカには不完全な状態での試合を強要してしまったのだから。だからせめてそれを次に生かすために、カミツレの「大将軍」を完璧にしておきたかった。ただの我侭だが、それでも彼女の意地だった。

 

「(ぶっちゃけ、カチドキがそこら辺はやってくれるから必要ないんだけど……言い出せないよな。折角の厚意なんだからちゃんと貰っとこうかな)」

 

自分の相棒に一言、

 

「今回の戦闘で取れたデータを使って、機体の再調整をしてくれ」

 

と言えばカチドキは普通にそれを了承してあっという間にそれを行ってしまうだろう。コア人格というだけではなくリオノーラよりも遥かに「大将軍」の事を熟知している上にいざとなったら束にコア・ネットワークで連絡して協力を仰ぐ事さえも出来るのだから。今は兎に角、イギリス一の大天才とも呼ばれるリオノーラに任せておくとしよう。

 

「さてと、次はいよいよセシリアとの戦いだね」

「気が早くないですかね。まだラウラっていう超強敵が待ってるんですよ」

「いや私が思うにボーデヴィッヒはセシリアに敗北するだろうな、賭けても良い」

 

ハッキリとした口調で強気でそう断言するリオノーラ、確かに自分もどっちに賭けるかと言われたら真っ先にセシリアを取るがそれでもラウラは十分すぎる程に強い。落ち付いた精神から繰り出される研磨された技は途轍もない威力を生む上に彼女の専用機も第三世代中でも上位に入る程に性能が良い。それにタイマンでは最強と言っても言いすぎではないぐらいに強力な武装まで積んでいる。

 

「理由、聞いてもいいですか」

「では一つずつ紐解いていこうか、何簡単な事だよ。まず根拠一、ボーデヴィッヒのISの切り札とも言える「AIC」はレーザーを主軸とする「ブルー・ティアーズ」との相性はハッキリ言って最悪だ。あれは実弾系にこそ効くが、エネルギー系には効果が薄いし何よりレーザーと実弾では速度が段違いだ。幾ら圧倒的な集中力を持っていたとしてもレーザーを静止させるなんて事は出来ないさ」

 

「AIC」の弱点として上げられるのは集中力を要する事、レーザーや複数同時攻撃などには効果が薄くなってしまう。それに関しては「ブルー・ティアーズ」はそれらを満たしている。BT兵器による全方位攻撃では流石の切り札でも捌き切る事は出来ないし、セシリアが使用するライフルもリオノーラが本国から持って来た「大将軍」の「シューティングスター」のデータを基にして作られた新型のライフルに持ち替えられている。当然Eパック式も完備している。

 

「根拠その二、彼女のISは織斑 一夏との戦闘で相当深いダメージを負っている。装甲は簡単に変えられるがISの武装は難しい面がある。各国のISはその国の規格が採用されている、ライフルの弾位は学園にある物で代用する事は出来るがワンオフな武装の場合は予備パーツの完備は難しくなる。私が作ったEパックとかな。彼女のISが最もダメージを受けたのは「ワイヤーブレード」だ、それを簡単に確保出来るかな?あったとしても時間が掛かる、完全に元通りは難しいだろうな」

 

確かにそうだ、専用機持ちには予備装甲や弾薬の補給は本国から送られてくる物を学園が預かる事になっている。だが、完全に武器が駄目になるまでになってしまうと予備の物との交換になるしその場合は細かいデータの調整やらで時間も掛かってしまう。

 

「そして根拠その三、これは君も分かっている筈だよミスター・カミツレ」

「……俺もですか?」

「何、初歩的なことだよカミツレ君―――彼女はとても強い上に君の婚約者(フィアンセ)だからだよ。だからこそ、君との決勝戦には絶対にあがってくる」

 

そんな事を言うリオノーラにカミツレは思わず口を開けて呆然とする、それは根拠になるのだろうかとも思ったが確かにセシリアならあがってくるだろうという確信めいた思いが自分の中にある。それは彼女の力を良く知っているからこそだろう。

 

この後、行われたセシリア対ラウラの試合。リオノーラの予測通り、ラウラのISには「ワイヤーブレード」が3本付けられていた。予備の物を付けたという事だろう、そしてその結果―――決勝へとあがったのはセシリアだった。




妻「なんだか、いよいよって感じがしますね」

私「俺もなんか緊張して来たよ、カミツレ対セシリア……」

妻「あれですかね、SEEDのドラグーン合戦みたいな事になるんでしょうかね」

私「あれ並に書けとか私の腕前が死ぬぞ」

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