IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第205話

静かに、瞳を開く。一気に世界が広がって行く、360度という人間の視覚的範囲は有り得ないがISを纏っている今としてはそれが当たり前になっている。少々暗いピットの中で完全な調整が終了した「大将軍」をその身に纏いながら意識に蓋をするように冥想するかのように集中していた、後数分までに迫っている決勝戦。その戦いに挑むには万全の状態で挑み、そして戦いたい。何せ……彼女との戦いが、自分の始まりなのだから。遂に決勝まで突き進んだトーナメント、その頂点を決める対決が始まろうとしている。そして、それを促すかのように既に発進口に佇んでいたカミツレに発進を許可するランプが灯る。静かに息を吐いて、思いっきり吸って叫ぶ。

 

「勝鬨・大将軍、杉山 カミツレ……行くぞぉっ!!!」

 

込められた気迫と言葉、同時に火花を散らすようにしながらアリーナへの道を付き進む。暗闇を抜けて光の先にはあの時と同じように、青い装甲が特徴的なIS…ブルー・ティアーズを纏ったセシリアがライフルを保持しながら待ち構え自分の姿を見ると笑顔を見せた。

 

「御待ちしておりましたわカミツレさん。僅かな時間さえまるで永劫の時のようでした」

「俺もだよ、でもレディを待たせるのは減点だったな。悪かった」

「いえ御気になさらず、待っている時間さえ愛おしく思えるほどでしたので」

 

これから決勝が行われるような雰囲気ではない、そこにあるのは完全な日常の風景。緊張感と言った物はまるでなかった、試合開始のブザーが鳴り響くが互いは握っているライフルのトリガーにさえ指を掛けない。

 

「思えば1年のあの時から、カミツレさんと私の関係は始まったのですわね」

「そうだな……俺の運命を分けた試合、生か死しか待ってなかった俺に君は希望と光をくれた事を今でも感謝してるよ」

「ふふふっそれを勝ち取ったのはカミツレさんの力ですわよ?」

「かもしれないけど、その力を育ててくれたのは君だった筈だけどね」

 

会話は何時までも続いていくかのような物だった、だが―――途切れた。

 

「さてとではミスタ、始めますか。失礼に当たると思いますので加減は致しませんわ」

代表候補生()にそう言って頂けるとは光栄の極みっという奴ですね、こちらも全力でぶつからせて頂きます」

 

そして、ある瞬間を迎えた。あの時と全く同じ会話だった。それが交わされた時、全く同時に互いにライフルが向けられ、刹那の静寂の後、互いが構えているライフルの銃口が向けられ引き金が引かれた。互いのライフルは同じ「シューティングスター」型、故に到達するのも全く同じ速度。ライフルが放たれたと同時にお互いは同じように身体を動かす、セシリアは回避、カミツレは回避と同時にシールドの防御で確実に。

 

「セシリア!!」

「カミツレさん!!」

「セシリア!!」

「カミツレさん!!」

「セシリアァァァッッ!!」

「カミツレさんッッッ!!」

「「いざ、勝負ッッ!!!」」

 

同時に一気に距離を取りつつも同時に相手の動きを先読みした偏差射撃が向けられていく、それらをギリギリの所で回避しながらもカミツレは「稲妻軌道動作」に緩急良く行われるストップ&ゴーを組み合わせた物を行って凄まじい機動を行いながらセシリアの周囲を飛び回って行く。それでも彼女の正確無比な射撃は正確に自分の移動先を見切っており時折飛来するレーザーに当たりそうになる。

 

「……ッ!!」

 

セシリアも激しい軌道を描きながらもその最中でカミツレの軌道計算に頭をフル回転させていた、高機動にカーブに緩急良く行われ気付かれにくいストップ&ゴーが行われようとそれすら計算に入れて射撃を行えば対処出来る。しかし、気付けば途中から計算などしなくても相手が何処に行くのかさえ分かるような気がして、機動に集中しながらライフルを撃っている。

 

「相変わらず、正確だなっ……!!」

『ランダムパターンを混ぜて、パターンを見切られないようにして居る筈ですが……』

「流石セシリアだ、俺がどんな行動をするかさえお見通しって訳か!!」

 

それならばと相手のトリガーが引かれた瞬間に合わせるように「ディバイダー」を脚へと移動させ、引かれた瞬間にそれを蹴りながら脚部からスラスターの放出を行ってバク転するかのように方向を転換すると一気に「瞬時加速」を掛ける。放たれてくるそれを片方の「ディバイダー」で受け止めながら無理矢理突破するようにしながらブレードを振るが、それが受け止められる。

 

「……やっぱりそう簡単には行かないよなぁっ!!」

「ええ、行かせませんわっ!!」

 

ライフルを片手に、もう片方の手に新しく装備されたレイピアを保持したセシリアは両方を使ってブレードを受け止めていた。以前の「スターライトMKⅢ」では出来なかったが、銃身自体が非常に頑強な「シューティングスター」ならば可能となっているこの芸当、そしてセシリアはそれを弾き返すと鋭い一突きを「大将軍」の左肩へと炸裂させる。

 

「なろがぁっ!!」

「キャッ!!?」

 

攻撃を受けた、それでも一切引かずに脚をセシリアの身体に絡ませるとそのまま大回転をして一気にそのままセシリアを地面へと投げ飛ばす。それに対応し切れずに地面へと落ちるセシリア、しかし舞い上がった土煙の中か光の矢が突き破る。遂にセシリアは「ブルー・ティアーズ」を発動させる、それに合わせるかのようにカミツレも「ストライク・ヴァンガード」を稼動させる。

 

「私は負けませんわっ!!スタートアップ!!!」

 

先ほどまでの主人を守る番犬が主からの命を受け敵を狩る獰猛でありながら躾がされた猟犬へと姿を変貌させる、以前の物よりも遥かに鋭い軌道を描きながら向かってくるそれと共にセシリアもライフルとレイピアを構えて突撃してくる。4基の砲塔がセシリアの意を受け、それに呼応するように素早く弧を描くように空気を裂く。全方位から放たれていくレーザーをカチドキのサポートやハイパーセンサーを活用して回避して行くが、次の瞬間、驚く事が起きた。

 

「甘いですわよッ!!」

『カミツレッ!!』

「マジかっ!!?」

 

回避した筈のレーザーが枝分かれするかのように分裂してそのまま全てが自分に向かって飛んできている、最早レーザーではなくホーミングミサイルかなにかではないのかと言いたくなるような追尾に驚きしか出てこない。それらを正確にカチドキが「ヴァンガード」で打ち抜く事でそれを相殺するが……カミツレは思わず汗が出てきた。

 

「あれって……」

『間違いありませんね。「BT偏光制御射撃」を確実に制御下に置いています』

 

「BT偏光制御射撃」とは操縦者の適正がA以上で、BT兵器稼働率が最高状態にある時に使用可能な能力。射出されるビームそれ自体を精神感応制御によって自在に操ることが出来る。カミツレは適正がBである為に使用出来ず、カチドキはデータが不足しているので出来ず、そのためにプログラムを作成中だった。が、目の前の相手はそれをやってのけた、しかもただ操るだけではなくレーザーを分裂させるという行為まで可能にしている。

 

「スゲェなセシリア……だけど、余計に燃えてきたぜっ……!!!」

『奇遇ですね私もです。全力で行きます』

「行くぞセシリアァ!!!」

 

向かってくるセシリアのレイピアを受け止めながら、カミツレとカチドキも反撃を開始する。再び「ブルー・ティアーズ」による射撃が行われ襲い掛かってくる。自分に迫ってくる自在に変化してくるそれを「ソード・ヴァンガード」で打ち消しながらも他の「ヴァンガード」で反撃に移る。互いの自律機動砲台がお互いとお互いの主を狙って放たれる光の矢、それらは周囲を駆け巡って行き無数のレーザーを射交わしていく。その光景は光の網が投げられているかのよう、掛かれば瞬時に命が刈り取れかねない、美しくも敗北を齎す致命的なまでに恐ろしい網。その光景はその試合を見つめる全ての人間を魅了し、没頭させるまでに美しかった。

 

そして、彼らは何れ見る事になる。そんな美しい戦いを征する更に美しい者を……。

 

To be continued……。




私「いやぁ……色んな作品のこう言うのを見て勉強したけど、やっぱり全然だなぁ」

妻「正直、こういうのを文章で表せって言うのは凄い大変ですものねぇ……」

私「ホントホント……」

妻「特に、貴方みたいな無計画者には難しいですわよね♪」

私「……否定できないのがなんとも……」

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