IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第210話 特別編:その3

「あっきれたぜ……こっちのこれでさえ自分の考えが甘いって思って千冬さんに相談を持ちかける事を本気で考えて、こいつなりに全力且つ本気で考えてたのに……はぁっ……」

「やめてくれよ、結局俺は何もしてないって。それにその話を蒸し返すのやめてくれ、今思うあの時の俺ってば最悪すぎてもう嫌だ……っつうかこれって言うなこれって!!」

「まあまあいっ君、そう思えるのは君が成長している事の証明でもあるんだから気にしない気にしない」

 

目の前の別世界の一夏、織斑の対応、それは途中までは此方側と同じだがそこまで。それ以降何もせずにただ時間を過ごしているだけという事実に呆れた声すら出てこない。という事はこちら側のシャルロットは未だデュノア社からの呪縛を完全に脱しておらず目を背けているに等しい状態、全く持って偉い違いだ。

 

「な、なんだよどう言う事だよ!?そっちは何をやったんだよ!?」

「言った所でなぁ……無駄じゃねぇ?だってヨランドさんいないんだから無理だろ」

「だな。あれはヨランドさんの全面協力があってこそだ、こちら側でそれをやろうとしても無意味だ諦めろ。これ以上は何も言わねぇ、変に希望を持たせたくないからな。悪いな」

「う、うん分かった……気になるけど、そのヨランドさんっていう人が代表じゃないんだから多分出来ないんだよね、えっと……杉山さん」

「そう言う事だ、理解が早くて助かる。そこの不満足そうな奴にも言ってくれ」

 

どうやら世界が違っても彼女の聡明さは違っていないらしい、そこは感謝しておこう。織斑が聞いた方が良いとしつこく言うが、聞き出したとしても実践不可能ならば意味がないと諭されて渋々口を塞いだ。それを見て何やら既視感があるのか一夏を見るカミツレと勘弁してくれと額に手をやっている一夏を微笑ましく見ている束。

 

「にしてもビック10の一角のあの人がいないのかよ……マジかぁ……マジかぁ……」

「カミツレマジで大丈夫か、顔色悪くなってるぞ」

「ああ……この世界は俺を殺しに来ているらしい、世界が俺を拒んでいる……」

「お前は何処の世界の破壊者だよ、鳴滝呼ぶぞ」

「通りすがりのIS操縦者だ、覚えておけ」

「おのれディケイドォォォォ!!!!ってまだまだ余裕綽々じゃねぇか」

「たりめぇだ、ヨランドさんの地獄の特訓メニューに比べれば全然だ」

 

軽口をぶつけあっている二人、そんな一夏とカミツレの姿を織斑はどこか羨ましそうに見つめている。此方側には一夏一人のみ、学園に同じ男子がいると言う事が酷く羨ましく感じられた。同じ悩みを共有して一緒にメシを喰える関係が恨めしくも思えて来る。

 

「んじゃ私も一ついいか」

「何だよ、ボーデヴィッヒ」

「単刀直入に言うが、そちらの杉山はどのぐらい強いのだ」

 

ラウラが気になったのはカミツレの実力の程だった、織斑の実力から一夏の実力は大体予想できると踏んでいるのともう一人の男性操縦者の腕前はどれほどなのだろうかという純粋な興味うえの質問だった、しかしそれは向こう側の世界のほぼ全員が気になっていた事だった。どれ程の力を持っているのか、非常に興味が湧いたが鈴が此処で鼻で笑いながら言う。

 

「でもどうせ大した事は無いんでしょ、一夏でさえアタシ達にまともに勝てないんだから」

「ちょ、ちょっと鈴そんなの杉山さんに失礼だって……」

「でもそうですわね、二次移行を完遂させている一夏さんよりも強いなんて考えにくいですわ」

「セ、セシリアまで……す、すいません杉山さん」

 

鈴とセシリアの言い方を変わって謝るシャルの姿に、余り大差が無い事を理解して思わず笑みが零れる。だがしかし、分かっていてもセシリアにそう言われるのはかなり辛い。自分の一番とも言っても良い程の理解者であった彼女に。

 

「二次移行って、そっちの俺はんな事までなってるのか」

「えっそっちの俺はなってないのか!?」

「なってない、というかそう簡単になってたまるかよ」

「えっじゃあ「銀の福音」は如何したんだよ!!?」

「束さんが何とかした」

「は~い何とかしました」

 

手を上げて言う束、それに一同は愕然とする。寧ろ実行犯として一番疑わしい存在だった束、そんな彼女が福音を止めたという事実は驚きしか齎さなかった。そんな反応を見て束はこちら側の自分の行いを想像したのかげんなりとした表情を浮かべる。

 

「で、では「紅椿」!?向こうの私は「紅椿」を持っていないのですか!?」

「紅椿?」

「あ~ほら、旅館でさもしも駄目だった時はち~ちゃんに新型のISを使ってもらってとか言ってたじゃない?その新型だよ。と言っても試作実験機的な側面が強い機体だけどね、性能は高いけど。でもなんでそれを箒ちゃんが持ってるのさ、渡す訳無いじゃん。代表候補生でもないのに、欲しがってもいなかったしね」

 

それを受けた向こうの箒、篠ノ之は愕然とする。向こう側の自分は力を欲さなかったという事になる、自分は織斑の傍にいる為の力を欲したというのにどういう事なのだろうか……とそんな思案する彼女を放っておいてカミツレは取り合えず答える事にする。

 

「さあな、師匠にはまだまだ甘いと怒られるけどな。一夏に束さん、如何思う?」

「えっ俺達が言うのか?」

「俺は如何にも自分の評価をかなり低く付けるらしいくてな、前にも怒られたばっかりだ」

「あ~そう言えば怒られてたな。そうだな……普通に考えて規格外じゃね?」

「一般的な代表候補生よりも遥かに強いね」

 

それを言われてその場の全員が目を見開いた。目の前に長髪程度しか特徴が無く平凡な男が並に代表候補生以上にとんでもなく強いという評価をされてる、しかもその評価を下しているのはあの別世界とはいえあの篠ノ之 束である。それが十分すぎるだけの説得力を秘めている。

 

「それ言いすぎじゃねぇか?」

「言いすぎだったらなんであんなに千冬姉とやり合えるんですかねぇ」

「1年の時点で「個別連続瞬時加速」と「稲妻軌道動作」を出来る人材が普通いないよ」

「それは大体ヨランドさんのせいだ」

「その扱きに着いていけてるのも大分可笑しいから、慣れとかそういうレベルじゃない」

「束さんもそう思うよカッ君」

「解せぬ……」

 

次々と明かされていくカミツレという男の凄まじさと異常さ、僅かな言葉のやり取りの間にもとんでもないワードや情報が秘められている。

 

「そ、そんなに強いのかよ……カミツレは……!?」

「おい勝手に名前で呼ぶんじゃねぇ。てめぇとは何の関係もねぇんだよ」

「な、なんだよ。そっちの俺は普通に呼んでるじゃないか」

「それはそれ、これはこれだ。てめぇとこれは全くの別人だ」

「だからこれ言うんじゃねぇよ!!」

「悔しかったら俺に一度でも勝ってみろ、俺との対戦で全戦全敗の一夏さんよ」

「くそぉ、事実だから言い返せねぇ……!!」

 

などと話を続けていると、向こう側の篠ノ之達は納得いかなそうな表情を浮かべ、遂にそれを口に出した。

 

「信じられん!!一夏がお前のような、平凡そうな奴に負けているなど有り得ん!!!」

「そうですわ、大体世界が違うのですから其方の一夏さんが弱いだけという事もありえますわ!!」

「そ、そうよね!!だって二次移行してないんだからね!」

「それだったら僕達もかなり弱い事になるはずだけど、割と一夏に勝ってるよね」

「「「それとこれとは話が別!!!」」」

「……なんか怒られたよ」

「ド、ドンマイだシャル」

 

と次々と勝手な事を吐き出して行く少女達を見るカミツレと一夏の表情はどんどん深く落ち込んでいく。世界が違うだけで同じ人物、いや正確には違うのだろうがそれでも此処まで違ってきているという事実に何も言えなくなってくる。カミツレは深い失望と空しさを―――そして一夏は

 

「まあまあ落ち着けって皆……俺だって皆に勝てない事だって凄いあるんだからさ。それに相性とかもあるんだからしょうがないだろ」

「だ、だが一夏……」

「一夏さん……ですが此処はハッキリとさせておいた方が」

「そうよ止めないでよ」

「良いんだよ」

「「「むぅっ……」」」

「あれなんで赤くなるんだ?」

「「「煩い!!」」」

 

目の前で繰り広げられている光景に酷く腹が立った、何も理解していなさそうに能天気にしている自分と同じ存在に。まるでカミツレの努力を理解せずにマイペースに過ごしてきた自分を見せ付けられているかの様な気分になる、カミツレがどれだけの努力と苦しさを飲み込んで来たのかも理解せずに頭ごなしに否定する目の前の光景は不愉快な事この上ない。

 

それに、なんだあれは。こちら側の箒も明確な好意を持っており、それを向けられているというのにそれ以外の女性にも好意を向けられているのに全く気付いてさえいないように見える。今の光景を見ているだけでもあれが過去の自分だという事を深く実感し、あれではアプローチに気付いていないのも理解する。そして同時に自分が過去にしていた事がどれほどまでに相手の思いを踏み躙っているのかを理解して、自己嫌悪をしてしまう。同時に目の前の自分が嫌になってきた。そんな光景に束が一際大きな溜息を吐いた。

 

「はぁっ……呆れたな、この世界って本当に馬鹿しかないのかな」

「何を言いたい、束」

「単純なことだよ、狭い視野でしか物事を語らずにその中の事実でしか物事を考えられないお馬鹿さん達が目の前にいる事に呆れてるんだよ。全く……はぁアホらし」

「束、お前随分とそいつに肩入れしているな」

 

話を聞いてると随分とあちらの束はカミツレに惚れ込んでいるように見える、唯でさえ自分の気に入った人物以外は有象無象としか見ない束が名前を呼ぶという事がありえないに等しいのに……まるで守るかのような発言を繰り返す束にあちらの千冬は不思議に思った。

 

「そりゃね、束さんの本当の理解者だからね」

「理解者、だと……?」

「うん、そして―――束さんの旦那様だからね」

『……えっ?』

 

爆弾投下、思わずカミツレと一夏は益々面倒になるなぁと揃って溜息を吐くのであった。


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