「だ、旦那だと!!?どういう事だ!!?」
「言葉通りの意味だよ、何行き遅れになってそういう言葉の意味さえ解らなくなったの?」
「ね、姉さんとその男が、結婚しているということなのか!!?」
「正確には婚約関係だけどね。まだカッ君は成人してないし」
『えっ~!!?』
驚愕に目を見開きながら応接室中に響き渡る声にカミツレと一夏は顔をしかめつつ何で言うのかなぁとため息を吐く。これでまた面倒な事になってしまった、束に咎めるような視線を向けてみるが本人はごめんごめんと本当に反省しているのか疑わしい表情をするだけ。そんな中、篠ノ之が机を叩きながら抗議をするかのように大声を張り上げながら問った。
「何故です!!?何故姉さんがこんな男と!!?」
「逆に聞くけど何がだめなのかな、束さんは束さんで君は君だよ。私の恋路をどうこう言われる筋合いなんてないね」
「しかし、ではそちらの私は承知していると言うのですか!!?」
「普通に承知してんぞ、普通に義兄さんって呼ぶもんな」
箒は信じられないと言いたげな表情を作って椅子に倒れこむように座る、では目の前のこの男が別世界では自分の義理の兄になるというのか。まったく持って信じられない、そもそもあの姉が他人と関わりを持つことすら信じられないのにそれを通り越して婚約するなんてことはもっと信じられない。
「理解者とも言っていたな、それは如何いう事だ」
「それはここで言ったとしても意味ないね、此処にこの世界の束さんがいれば別だろうけど……まあもうすぐ来るだろうけど」
「なにっ?」
「(あ~カチドキがあれ以降静かなのってそういう事か……)」
この場にこちら側の束が来ると明らかに面倒な事になる、下手をすればカミツレを解剖するとか言い出しかねないのでカチドキに頼んで此方側のコア・ネットワークを通じて束に対しての妨害工作と脅しを掛けている。と言ってもあくまで来る時間を遅らせる程度の事しか出来なかったらしいが……今此方に向かっているらしい。そもそも同じコアナンバーの反応が増えているのに、束が来ないなんて事はありえないのだから。
「それにね、カッ君と婚約しているのは束さんだけじゃないよ」
「な、何ですって!!?な、なんてことをっ……!?」
「ふ、不潔だぞ!!」
「なぁ~にカマトトぶってるんだか……本来女でしか動かせない筈のISを男が動かしてる、そんな存在は世界中が欲しがるのは当然。それならそういう事になるのは目に見えてる筈、そんな事も解らないの?」
それを言われると箒達はカミツレがハーレムを構築していることに対して一瞬引き気味になるが、束の言葉に何も言えなくなった。織斑は何も解っていなさそうにしているが、それを見て一夏は酷く呆れる。昔の自分とカミツレの立場が一緒だと思い込んでいた頃の自分を見ているかのようだ。
「それにね、カッ君といっ君じゃ前提条件が違ってくるんだよ」
「どういう、意味なのでしょうか……?」
「もしや、教官らの存在……?」
「こっちの子兎はまだまともっぽいね。いっ君は織斑 千冬の弟、そしてその織斑 千冬は束さんと大きく繋がっている。それに比べてカッ君は普通の一般家庭の出、さて問題だ。この二人、どっちが安全だろうね」
「えっどっちも同じじゃないのか?だってIS学園は完全に治外法権で……」
と暢気に答える織斑に、一夏は机を強く叩いた。此処までの事で彼にも酷いストレスが溜まってきてしまっているのか異様に力が込められている。
「黙れお前はもう口を開くんじゃねぇよ。カミツレの苦労も恐怖も何も知らないやつが、能天気な事をのたまうんじゃねぇよ!!!過去の自分を見てるみてぇで腹が立つ!!!!」
「な、何でだよ……!?だ、だってシャルだってそれで大丈夫な訳で……」
「黙れっつったのが聞こえなかったのかっ……!!!!!」
今にも目の前の自分を殺しそうな程に怒りを滲ませた一夏の怒声に織斑は声を引っ込めた。向こう側の千冬や篠ノ之達も見た事もないような一夏の怒り方に言葉が出なくなった。そんな一夏を諌めるようにカミツレは茶を飲みながら声を出す。
「俺は入学直後、セシリアと一夏とのクラス代表選抜戦に出た」
「そこは変わらんのか」
「俺はそこでセシリアと引き分けた、だが敗北した場合は俺は即座に研究所に送られる算段になっていた」
『なっ!!?』
全員が目を見開いてカミツレを見た。セシリアと引き分けたと言うことも驚きだったがそれよりも即座に研究所に送られるという判断が下されていた事に驚きが隠せなかった。仮に負けていたとすれば自分は男性もISに乗る為、ISの研究という大義名分の影で不当な人体実験や解剖などもされていたかもしれない。そんな事もありえたかもしれない。
「俺に後ろ盾はない、だから常に実績をあげる事を要求されていた。お前らにわかるか、一度もISを動かした事もない奴が入学直後にエリートの代表候補生と戦って負けたら即座に研究所に送られるかもしれなかった奴の気持ちが」
『……』
何も言えない事だろう、当時のカミツレに付き纏っていたのは言い表せないほどの恐怖と絶望。それを覆す為にどれ程の努力を積み、真耶の教えに全身全霊を掛けて取り組んだ事さえも理解出来ない。そしてそんな引き分けたとしてもまだまだ死の恐怖は付き纏い続ける、一度切り抜けたとしても何時また死が迫るかも解らない状況でカミツレは駆け抜け続けていた。脇目も振らずただただ前に。
「そして俺はセシリアからイギリスの代表候補生の推薦を受けた、俺はそれを喜んで受けた」
「わ、わたくしが……そんな……」
「俺の目の前にいるお前とは似ても似つかない素晴らしい人さ。俺の全てを理解してくれた素晴らしい女性だ、まあそんな事は今言っても意味がないな。お前らに言ったとしても意味の欠片もないからな」
「それでもカッ君は狙われる、それから逃れるのは大きな後ろ盾を得るしかない。それが国の後ろ盾と強力な人物の後ろ盾さ」
「……それが、お前が婚約した理由か」
「YESでもありNOでもあるとだけ言っておくよ」
カミツレが今いる立場は色んな人に助けられ、教えられて、支えられて手に入れた物。後ろ盾となっているそれも同様にカミツレの事を本当に思っている人達が力になりたいと思い、そして彼を好きになったからこそなっている。そこに虚偽の欠片などない。
「それにね、ち~ちゃん。君だって立派なカッ君の後ろ盾になってるんだからね」
「私が、だと……?信じられんな」
「それはこっちの台詞だよ。あっちのち~ちゃんを知っている身としてはね」
「全くだよ。今の千冬姉はストレスも欠片も感じてないように伸び伸びしてるもんな、それもこれもカミツレのお陰だけど」
「ストレスの原因の一端だったお前が言うと説得力が違うな」
「いやマジあの時は軽率で馬鹿でした……」
一体どんな事になっているのか酷く気になるような言い方に酷く興味が引かれるが、いつの間にから此方側を無視してカミツレ達は自分たちだけで話を始めてしまった。
「お、おい私はどうなっているんだそっちの世界だと!!?」
「旦那様見つけて超惚気てる」
「ちっ千冬姉が相手を見つけたぁぁああああああ!!!!??う、嘘だろぉぉぉおおおお!!!!??」
『し、信じられない!!?』
思わず大声を上げる織斑とそれに同意するかのように声を張り上げる箒達に思わず千冬は顔を顰める、こいつらは後で締めると心の中で誓いながらも自分がまさか相手を見つけるなんて思いもしなかった。一体どんな相手なんだと思いつつも、先ほどの後ろ盾の話を思い出してカミツレを見てまさかっと内心で思い始める。
「その相手は、一体誰なんだ……」
「言っても無理だよ、こっちのち~ちゃんじゃ見初められないよ。だってカッ君だもん」
『えっ~!!!!???』
「だぁかぁらぁ……なんで余計な事ばっかり言うんですか束さん……」
「だってこういう時のち~ちゃんってさっさと答え言わないと暴力で訴えてくるから」
と更なる混沌が辺りを包み込んでいく中で、更なる混沌が舞い込んで来る。鍵を掛けてある筈の応接室の扉が開いてそこから此方側の束が入ってきたのである。
「ねっ姉さん!!?い、いや私たちの知っている姉さんか!?」
「そうだよ箒ちゃん、まさかこんな事になってるなんて……ねえそっちの私」
「何かな、こっちの私」
二人の束が向き直った、不思議と緊張感が満ちて行き空間が重くなっていくかのようになっていく。口を開いた此方側の束はどこか羨望を込めて瞳で言った。
「本当なの、理解者を得られたって……?」
「本当の事だよ、カッ君はち~ちゃんですら至れなかった真の意味での私の理解者だよ」
「……そんな人が本当にいるなんてね……心から羨ましいよ。ねぇ、№274」
『何でしょうか、そちら側の博士』
唐突に響いてくる声に驚く一同だが、それらを全て無視して問いかけを続ける。
「君は本当に幸せ……?全てを賭けてそう言えるかな?杉山 カミツレと言う男の相棒になれて、幸せ?」
『心から幸せです。カミツレは私の唯一無二、最善最適、史上最高の相棒で私たちのお父様です』
「そっか、そっかぁっ……君は幸せなんだ、それを聞けただけも救われた気がするよ……杉山君、だっけ」
「ええっ」
此方側の束はカミツレに向き直ると座りこみながら目線を合わせて、力なく笑いながら言った。
「君みたいな人が居て、きっとそっちのISは幸せなんだろうね。私が言えることじゃないけど、皆を宜しくね。とっても良い子達だから」
「解ってるつもりですよ、俺はもう467のコアの父親ですから」
そう答えられるとホッとしたように溜息を吐いて束は続けるようにいった、出来る事ならば君達が飛ぶ所を見てみたいと。そしてそれは―――IS同士の戦いで見せる事となった。カミツレとカチドキの仲の良さを見せるには一番手っ取り早いのと先程からまるで親の仇でも見るかのように睨み付けて来る織斑をいい加減に黙らせたかったからである。
「待ってくれよカミツレ、まずは俺がそいつとやらせてくれ」
「構わないぞ」
「サンキュな。おい俺の大事な兄貴と戦いたいんだったらまずは俺を超えてみろ」
「どけよ、俺!!!!」
「いやだね」