IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

213 / 341
第213話 特別編:その6

「お疲れさん。如何だった進化した相手は」

「何が進化だよ、あれ迷走しまくってるだけだぞ。何で荷電粒子砲なんだよ馬鹿かよ」

「うんそれ束さんも思ってた」

「実は私も」

「「イエーイやっぱり束さんたちってば仲良し子良し~♪」」

 

戻ってきた一夏に労いの言葉を掛けるが肝心の一夏は全く疲れている様子を見せていない、それ程に織斑との戦いは感じる物は無かったという事だろう。気分としては遥かに劣っている過去の幻影でも相手にしているかのようなもの、様々な物を積み重ねてきた現在()過去()になんて負ける事はない。

 

「全体的に性能は上回ってる、燃費も劣悪化してたけどな。今の段階でぶっちゃけスピードなんて十分なぐらいなのにそれを増やすのはまだありだと思うぜ、うん。高速機動近接型としてはまだ解る選択肢、でも大出力の荷電粒子砲は無いだろ」

「それは俺も思うわ。威力だけで言ったらハモニカよりも上だろあれ?」

「だな。威力で言ったらISの中でも上から数えたほうが早いんじゃないかな、でもその分とんでもない大飯食らいだ」

 

戦った織斑に対してボロクソにいう一夏だが、それ位に酷かったとも言える。事実「白式・雪羅」は唯でさえ効率的な運用を心がける必要があるのに更に大量のエネルギーを必要とするのでより一層効率的な運用をしないと長時間の稼動など不可能、全力稼動などしたらあっという間にSEを使い切るのは明白。一夏でさえ、燃費を良くする為にスラスターの出力に制限を掛けて必要になったらそれを解除する形式にして燃費を良くしようとしている程に「白式」は効率が悪い。それに荷電粒子砲やら色々盛り合わせたらそりゃあっという間にSEを使い切る。

 

「改めてみると「雪羅」酷いなぁ……あれは国家代表でもぶっちゃけ持て余しそう。クローとシールドが「零落白夜」じゃなくて普通の奴で、荷電粒子砲が低出力だったらまだ良かったのに……」

「現段階で使いこなそうとしたら相当きついなぁ……カッ君はあれ使える自信ある?」

「ぶっちゃけないです。多目的ってのは一つの物が色んな物を持っている為に完全に使いこなす為には技術と経験、効率いい使い方が必要です、俺が最初「ラファール」じゃなくて「打鉄」を専用機に選んだのと同じような感じですよ」

「だよねぇ~」

 

そうこう言っている間に一夏を見つめている篠ノ之達の視線が気になってきた、信じられないような物を見ているかのような感情を蓄えながら怒りを起こしているようにも見える。そんな視線をスルーしながらカミツレは立ち上がるとストレッチをし始める、次は束さんの要望通りに自分の番だからだ。そんな事をしていると織斑がピット内へと戻ってきた、如何にも落ち込んでいるのか顔を伏せている。

 

「一夏大丈夫か!?」

「一夏さんお怪我はありませんか!?あちらが本当に別世界の一夏さんなんて思えませんわ、なんて粗暴な……」

「信じられない腕前よ、でも気にすること無いわよ。アンタだってあのぐらい直ぐに追いつくわよ!!」

「そ、そうだよな……俺に出来たんだから俺にだってあの位になる事位……!!」

 

篠ノ之達からの言葉を受けて織斑は徐々に元気を取り戻して行った、あれほど自分との差を明確にした筈なのにあんな事が言える辺り打ち込みが足りなかったかと一夏は舌打ちするが違うと言う。そもそも深く真剣に聞こうとしていなかった、向こうからすれば自分の癖に自分を認めない可笑しな奴、そんな奴よりもずっと一緒にいて戦ってきた彼女らの言葉の方が信頼できる上に心地良いのだ。辛い方よりも心地よい方を取るのは当然、苦しい方を選択するのは強い意思がなければ出来ない物だ。

 

「カミツレ、お前さえ良けりゃ―――」

「気持ちだけにしておく、ありがとな……でも―――今度は俺の番だ」

 

瞳の中に炎を燃やしながら鋭くカミツレは立ち上がる、一夏も次はカミツレが彼女らと戦うのは察していた。目の前であんな事を言っているのは違う世界とは言えセシリアもいる、そんな流石にやりづらいだろうから変わろうと思ったのだがカミツレに遠慮されてしまった。自分が彼女らとの決着を付ける、それが束からの願いでもある。

 

「ざまあないな、俺と戦うと言っておきながらその程度か。一夏の何分の一だお前」

「くっ……!!黙れよ、直ぐに俺だってあの位―――」

「黙れ、お前程度にあいつがしてきた努力が理解出来る訳がない」

 

一夏の目標であり倒したい相手であるライバルであるカミツレ、一夏の目標として度々ぶつかり合っているからこそ把握している一夏の重ね続けている努力。何故負けたのか何がいけなかったのか、それを負けた後分析しながらそこを改善する為には如何したら良いのかと師に教えを請い必死に努力し続ける一夏の努力を直ぐにあの位と言う織斑が許せない。

 

「何よ一夏だって一夏なのよ!!あの位直ぐになれるに決まってるわよ!!!」

「……お前がそれを言うのかよ鈴、呆れたな……。努力の必要性とその為にはどれだけの苦労しなきゃいけないのか、お前は解ってると思ってたのにな……残念だよ」

「な、何よどういう意味よ」

 

自分たちの世界の鈴は麒麟児と言われる程の才能を持っていた、だがそれだけではなく彼女は努力の天才でもあった。それ故に彼女は僅かな時間で中国の国家代表候補生の座を掴みとった、その筈なのにこちらでは違うのだろうか……。余りにも違う世界の差にカミツレは思わず深い溜息を吐いてしまう。深い失望を覚えながらも同時に怒りさえも沸いてきた。

 

「面倒だ、お前ら纏めて束になって掛かってこい」

 

「か~君呼んだ?」

「こっちの私、違うから違うから」

「やっぱり束さんは束さんだったか……」

 

 

「あれが異世界のIS……」

「あの人はイギリスの代表候補と言っておりましたからイギリス製でしょう……」

「ふんっ直ぐに倒してやるわよあんなアタシ達を舐め腐ってる奴なんて!!」

「なんか、凄い不安だよ僕……」

「奇遇だな。私もだ……奴からは危険な物を感じて致し方ない」

 

先に準備を終えてアリーナで待機しているカミツレは漸くやってきた5機のISを見て欠伸を漏らした。特にISの変化もないが篠ノ之が纏っている物は見た事が無い、あれが例の此方の箒の専用機である「紅椿」というISのようだ。一応以前束にデータを見せて貰った事があるのでそれと同じであれば、対処は出来るのだが……身体が自然と強張って臨戦体勢になっている。矢張り元の世界の皆と戦っているからだろう。

 

自分の世界の基準で言うのであれば、5人を強さで簡単に並べるとラウラ=鈴≧セシリア=シャル>箒、このような感じだろう。実際は個々に持っている操縦技術などを盛り込んで判断するので一概にもこれが絶対的な順位とも言えないが概ね間違っていない。だがあくまで元の世界の話、この世界はもしかしたら違った意味で強いかもしれない。警戒しておくに越した事はない。

 

「イギリスって事はBT兵器ある事を考慮した方がいいかも知れんな」

「だとしてもわたくし並みの適正があるとも考えにくいですわ。ゆえにオミットしている可能性も高いですわ」

「アンタですら苦労してるからね、でもフレキシブル出来るアンタ以上に凄いなんてありえないもんね」

「全くだ。私たちの力を見せ付けてやる……」

「凄い不安なんだよ……一夏に認められてるんだから最低でもあの一夏以上に強いって事を考えた方が……」

 

と話し合っているとブザーが鳴り響いて試合開始の合図が成された。同時にセシリアがライフルのトリガーを引いて先制攻撃を仕掛ける。が、それらは「ディバイダー」の自動防御によって防がれる。ラウラが顔を僅かに顰めながらレールカノンから意識を反らしているのが見える辺り、咄嗟に合わせようとしていたらしいがそれは無に終わる。

 

「行くわよ箒!!」

「ああ行くぞ鈴!!!」

「援護いたしますわ!!」

「ああもうこうなったらしょうがないか!!ラウラ、援護お願いね!!僕は中距離から援護する!!」

「任されよう!!」

 

一気に此方へと向かってくる鈴と箒、その手にブレードを持って切り掛かってくる。それに合わせようと中距離からライフルで此方を狙っているシャルと遠距離からのスナイパーのセシリアと砲手のラウラ、役割分担としては悪くない。

 

「はぁっ!!」

 

同時に踏み込んで来る箒と鈴の一撃を簡単に回避するとライフルを呼び出しながら高速機動を開始する。それらを狙い打とうと次々とセシリアとシャルが狙い打ってくる、それに合わせるかのように鈴も衝撃砲を稼動させて放ってくるが、それらを「稲妻軌道動作」を織り交ぜながら相手に自分の機動を読ませないようにしながら回避していくとあからさまなほどにセシリアと鈴がうろたえていた。

 

「な、何なのですかあの動きは!!?「稲妻軌道動作」なんて普通簡単に出来るような物じゃありませんわ!!?さ、先が全く読めないっ……!!」

「凄いぬるぬる動いて、こっちの狙いが先読みされてるみたいじゃないのよあれ!!?」

 

それらにカミツレは思わず溜息を吐いてしまった、がその直後に自分の機動を完全に読み切っているかのような砲撃が飛来して来た。それを回避しながら視線を向けてみると砲撃はラウラの物だった、二人の攻撃の情報を処理し逆に二人の攻撃を回避する機動を逆に計算、二人を観測に利用して狙い打った一撃。

 

「駄目かっ……!!明らかに私たちよりも格上の相手だな!!」

「何言ってんの勝つのよ!!アタシらを舐めた事を、絶対に後悔させてやるんだから!!」

「ああそうだ!!私たちを舐めるなぁぁぁぁっっ!!!」

 

と再び向かってくる二人、それらに意識を向けようとした時に鋭い射線の弾丸が幾つも飛来して行動を封じるように自分を足止めする。同時にラウラも砲撃を再開し完全にカミツレの動きを止めに掛かる、それを行ったのはシャルだった。少しでも二人の負担を減らそうとして自分の動きを殺しに掛かった。そしていよいよと迫ってきた二人の刃、それらが命中しようとした時―――カミツレの姿が掻き消えた。

 

「き、消えた!!?」

「ど、何処に行ったのよ!!?」

 

「―――意識が流れてるぞ」

 

カミツレが消え去った事で対峙していた皆の意識がブレ、うろたえた。そこを見逃すほどカミツレは生温い扱きを受けていなかった。周辺からワイヤーが飛来し箒と鈴の二人を拘束すると一気に回転して二人をぐるぐる巻きにする。

 

「な、何だこれは!?ワイヤーだと!!?」

「何よあれBT兵器なの!?」

 

と騒いでる間にもその周囲には赤い渦のような物が生まれていた。それは超高速で回転している「ディバイダー」が巻き起こしたサークル、それを真上から見つめているカミツレは足に刃を接続すると一気に降下してそこへと飛び込んでいく。咄嗟にシャルが気づいてワイヤーへと発砲するがワイヤーを発射した「ヴァンガード」が器用に回避して行く。

 

「ま、まずい二人とも危ない!!」

「もう、遅いっ!!!」

ヒッサーツ!FULL THROTTLE!! SPEED!!

「セイヤァァアア!!!!」

 

手首のスナップを行いながら飛び込むと拘束されている箒と鈴へと蹴りを浴びせていく、次々と回転して行く「ディバイダー」を蹴って方向を転換して行きながら中央の二人へと攻撃を加えていく。そして徐々に加速して行く遂には紅い閃光になる程に速度が高まったとき、一気に二人を蹴り砕いた。

 

「「きゃあああああっっ!!!」」

 

強化スピードロップを受けた箒と鈴は地面へと墜落しながらも苦しげにうめいている。だが既にSEは枯渇しており敗退している。あっという間に二人を落としてしまったカミツレに対してラウラ、シャル、セシリアは驚きを隠しきれなかった。だがカミツレは驚く三人に容赦などしない、機体の周囲に「ヴァンガード」を展開し万端の攻撃態勢を整えた。合計9基のBT兵器にセシリアは目を見開いて驚愕した。

 

「9……9基ですって……!?あ、ありえませんわ……わたくしでもそんな数のコントロールは……!!」

「つまりセシリア以上の適正に数を持った格上と言うことか……厄介なことこの上ないな!!」

「しかもBT兵器って性質上、一対多向きだからこの状況って滅茶苦茶やばいよね」

 

冷静に状況を分析しながら劣勢をはっきりと認識して苦々しい顔を作るラウラ、自分以上の数を従えていることに驚愕し言葉を失い掛けているセシリア、そして状況のやばさを再認識して如何しようと思っているシャル。それらを見下ろしながらカミツレは見たくもない物から目を反らすようにライフルを構える。

 

「カチドキ、終わらせるぞ」

『了解です』


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。