IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第214話 特別編:その7

「カチドキ、終わらせるぞ」

『了解です』

 

カミツレの言葉を受けてカチドキは「ヴァンガード」の操作を開始し、攻撃を開始する。セシリアの4基という限界を容易く超えている数と飛来して切り裂こうとして来る「ソード・ヴァンガード」は容赦する事なく相手を切り裂かんと向かっていく。それに合わせるようにライフルを握っているカミツレは狙い撃ちされぬように移動しながらの射撃を行っていくが、それがセシリアを更に絶叫させるような元となった。

 

「そ、そんなこれだけの数を動かしながら自分も攻撃参加しながら移動をっ!!?そんな、わたくしでもそんな事出来ませんわっ!!?わたくしを全てにおいて上回っていると言うのですか!?」

「くそしかも狙いが鋭い上に正確、しかもこちらの反応を見越した上での射撃を行ってきている……!!」

「うわぁあっとっ!!しかも、撃ち落そうとしても凄いビュンビュン避けてく!?セシリアでもこんなに避けないのに!!」

 

驚愕しながらも必死に回避を行っているセシリア、自分よりも遥かに上の存在に驚愕しているが実際に稼動させているのかカミツレではなくその相棒であるカチドキ。だがそれを知っているのは一夏に束達のみ、カチドキは此方の束の質問に答えたが彼らはそれらがISのコアの声だと認識出来ていないのでカチドキと言う存在に気づけずにいる。故にカミツレがコントロールしているように思えている。

 

「わたくし、だって負けません、わたくしにだって意地があるのです!!!」

 

とセシリアも自身のBT兵器である「ティアーズ」を展開して攻撃を開始するが放たれていくレーザーは何も捉える事も無くただ回避されていく。焦りと動揺故か使える筈のフレキシブルを発動させる事も出来ずに、ただただレーザーは直進していく。加えて動かし方も酷く荒く雑な物になっている、それを見たカミツレは失望したかのような視線を向けながら指揮者のように空いている腕を振るった。それに従うかのように「ヴァンガード」は各方向から弾丸を「ティアーズ」へと叩きこんで撃墜してしまう。その様は酷く呆気なかった。

 

「そ、そんなっ……わたくしの「ブルー・ティアーズ」がこんなにあっさりっ……!!?」

「やっぱり、違うな。希望を持った俺が悪いんだろうけど、結構辛いもんだな……」

 

漏れてしまった失望の声と共に最後の頼みの綱でもあったミサイル型の「ティアーズ」が「ソード・ヴァンガード」によって貫かれる。これでセシリアに残されたのはライフルとブレードのみ、だが残った射撃武器のライフルもカミツレの一射によって貫かれた。もう、彼女は剣を持って戦うしか選択が残されていない。それをカバーするようにラウラとシャルが盾になるかのように躍り出るが、カミツレの瞳は酷い失望に覆われていた。

 

「セシリア、大丈夫っな訳無いかっ!!」

「たった一瞬で武装を刈り取るとは……くそっまるで教官を相手にしているかのような気分だ!!」

「僕も同感、何なの杉山さんって。まるで国家代表を相手にしてる気分だよ」

「わ、わたくしが、わたくしが……」

 

自分の持っていた物を刈られたセシリアはショックを受けていた、確かに以前自分よりも強くBT兵器を自分以上に使いこなしていた者と戦った。それでも自分でも超えられる、立ち向かえるとさえ思っていたのに今目の前の男に勝てるビジョンどころか対抗出来る光景すら思い浮かばなかった。圧倒的に格上な存在、立ち向かう事すら間違いだったのではないかと思える存在に震えてきてしまった。今まで感じた事が無かった無力感と絶望にも似た感覚は確かにセシリアを蝕んだ。

 

「―――如何でもいいが後方不注意だ」

「っ!!セシリア後ろだっ!!」

「ちぃっ!!!」

 

素早く反応したラウラは警告を発するが遅かった。回り込んだ子機が放った一射、それはセシリアへと向けられた。それから庇おうとシャルはセシリアへと飛びつくようにするがそれでも遅かった。それは確かにセシリアを捉えた、そして同時に飛び込んできた「ソード・ヴァンガード」がその背中に刺さるかのように突撃して一気にSEを削り取ってしまい0にしてしまった。

 

「もう、私たちしか残らないとは……」

「ラウラ、彼強すぎるよ。ぶっちゃけ勝てる気がしない」

「奇遇だな私もだ」

 

瞳を曇らせたままのカミツレはそのまま一切の手心なしにラウラとシャルへと襲い掛かっていく。全方位からの攻撃と敢て残されている抜け道へと差し込まれる「ソード・ヴァンガード」。カミツレの心の曇りを感じ取ったカチドキが一切の容赦をする事無く攻撃を加えていく。

 

「上下駄目だ予想が追いつかん!!」

「ラウラやばいもうSEが残ってない!!」

「生憎だが私もだ!!」

 

二人は全神経を集中させて耐え抜こうとするが、最後はカミツレの無慈悲の連結された「ディバイダー」のハモニカ砲を受けて敢え無く倒れてしまった。勝利したカミツレだが、心は更に曇り気分は落ち込んだままピットへと戻って行った。戻ると一夏と束達が出迎え、自分の知っている彼女が優しく労いの笑顔を向けてくれた。

 

「お疲れ様」

「……有難うございます」

 

その言葉を受けて、カミツレに笑顔が戻る。同時に一夏も肩を叩いて苦労を労った、自分よりも色んな意味で精神的なダメージが多かった事だろう。それを察するかのように黙って肩を叩く一夏の心遣いも有難く感じる。そして此方の束は納得したような笑みを向けてくる。

 

「如何でした、俺とカチドキは」

「うん最高だったね。本当に君みたいな理解者がいるそっちの束さんが羨ましいよ」

「えっへん!」

「いや束さんが胸を張るのは可笑しい」

 

と突っ込みを入れると思わず笑い声が出た。此方側に来て始めての笑いかもしれない。そして暫しの間、自分とカチドキが普段どんな感じで相棒をやっているのかを質問され、それを答えている間に篠ノ之達がビットへと戻ってきた。その表情に納得が行かないような物と怒り、ある意味の納得、喪失感、様々な物を抱えながら。それらを見て束は怒りの表情を向けてきているもう一人の妹と鈴に目を向ける。

 

「何ブチ切れてんの、弱いのが強いのに負けるのは当たり前じゃん」

「ぐっ……!!そちらの姉さん、そいつのISは貴方が改造したのではないのか!?セシリアでも出来ないことを何故あんなに簡単に出来る!!?」

「あ~そういう事言うのね……」

 

自分たちの敗北に納得行っていないのか篠ノ之は顔を赤くしながら険しくさせた顔のまま言う、それに同調するように鈴も首を縦に振るっている。この世界の彼女らを自分たちの世界の彼女らに見せたら本当にどうなるのだろうか、実に気になってきたが束は取り敢えず答える事にした。

 

「生憎束さんは一切関与してない。カッ君の専用機は純イギリス産、確かにデータを取らせて貰った事はあるけど改造した事はないね。だってする必要ないもん」

「何故です!?」

「簡単だよ―――カッ君がそれだけの努力を重ねてきたんだよ」

「ど、努力……!?そんな物で片付けられるほどの物ではないでしょうに!!」

「それが片付けられちゃうんだよなぁこれが」

 

カミツレは最初こそ一夏と同じく紛う事無き初心者だった、しかし彼が必死に自身を研磨し続けた。努力を積み重ね、教えを請い、技術を学んでそれらを物にする為の努力を惜しまなかった。だからこそそれだけの強さを物にした。そしてそれはフランス代表のヨランドが認める程の物になり、彼女からの教えが更にそれを押し上げ、カチドキの覚醒を呼び起こす結果に繋がった。確かにカチドキが操作を行っているのでそれはカミツレの力ではないのかもしれない、だが彼が努力しなければカチドキの覚醒も無かった。故に、努力があったから強くなれたと言い張れる。

 

「というかさ、カッ君がどんな思いで努力してきたかも解らないくせに舐めた事言わないでくれる?」

「し、しかし……!!!」

「次変な事言ったら―――」

「いいですよ束さん、それ以上言わなくても」

 

殺気にも似た威圧感を滲ませていた束をカミツレが抑えた、それに不満げな表情を浮かべながら頬を膨らませてる束だが子供を叱るかのように軽く額を押されると笑いながら了承した。

 

「言ったとしても意味がない、此処は俺たちの世界じゃない。俺と一夏の努力は元の世界のみんなが知ってくれている」

「だな」

「ん~まあカッ君といっ君がそれでいいなら、まっいっか」

 

そんな様子を見せ付けられた織斑たちは歯軋りしながらも目の前にいる二人の強さを実感しているが故に何も言えなくなった。明らかに違った強さと全く違った強さを持った二人が何処か眩しく見える、それを恨めしげに見つめたが気にも留めない二人。そしてそこへ千冬が管制室からやってきた、彼女もやや表情が優れていない。

 

「……本当に、強いのだな。お前達は」

「そりゃ努力したからなぁ……ああ、思い出すだけで寒気してきた……。ヨランドさんの地獄を……」

「お前あの程度で地獄とか舐めてんの?俺はあれをずっとやってきたんだぞ、よし元の世界に戻ったら俺がそのメニューを味わわせてやる」

「本当に勘弁してください兄貴!!」

「兄貴って言うなって何回言わせるのかなぁ君ぃ……?よし決めた、お前絶対に泣かす」

 

などと言った事をやっている二人を千冬は何処か虚ろな目で見つめている、その瞳は一体何を映しているのかは解らないが酷く力が無い事は確かである。そんな時であった、束が腕に付けている時計から音が溢れた。束はボタンを押すと時計が変形して通信機のようになっていく。

 

「はいは~い」

『おい、束……カミツレの部屋に置かれている装置が起動しているぞ。何がどうなっている?今もその装置で連絡しているんだが……』

『それにツェレがいないのです、何か知りませんか?』

「おおっち~ちゃんにヨっちゃん!!ちょうど良かったよ―――ねぇ、もう一つの世界を見たくない?」

『『はっ?』』




まだまだ嵐は収まらない。というか束が自重しない。

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