「成程な……束、お前まだ問題を作って、いい加減にしろと言ったよな」
「今回に関しては完全な事故だよ~……だって動力源入れてなかったのに起動するとか思わないでしょ」
「普通に考えればガソリンがないのに車が動くような物です物ね」
呆れ顔の千冬が束を追求するかのように言葉を重ねている間にヨランドもそれに対して今回はしょうがないと納得する。そして同時に自分達に向けられている見知った顔の複雑な視線に違和感を強く覚える。
「しかし並行世界とはなぁ……未だに信じられんな」
「全くですわね、こんな世界が……」
「「まさか、カミツレ/ツェレがいないなんて……!!!」」
「あっそこなの千冬姉にヨランドさん」
それ以外に何があるんだよ強く言う断言する二人に一夏は乾いた笑いを浮かべながら隣の義兄に何処か同情めいた視線を送る。確かに彼と彼女らの間には強い絆と愛情があるのだろうか、よくそれが強すぎるのではないかと思うことが多々ある。そして一夏は思わず自分の姉とこちらの姉を比較してみた、何故そんな事をしたかと言えば理由は無くなんとなくの行動であった。
「本当に、私なのか……本当に……!?」
「何だ鏡を見た事が無いのか、私だって毎朝見ているぞ」
「やっぱり、なんか違うんだな」
矢張り自分の世界と此方の世界では明確な違いがある。まず表情、此方側の千冬は何処か常に気張っているかのような印象を受けるが矢張り自分の姉は確りと切り替えが出来ている印象を受ける。そして纏っている雰囲気がまるで違う、そして何より……肌の艶が全く違う。それは向こう側の篠ノ之達も気づいているのか千冬の肌のきれいさに驚きを覚えている。これも杉山ファーム製の新鮮野菜とストレスの無さのお陰なのだろうか。
「しかし何だその顔は、まだ軍の教官でもやってるつもりか。そんなので確りとした指導が出来ているのか?」
「私に抜かりなど無い。そんな事よりだ、婚約していると言うのは本当なのか……その、男と」
「その男ではない、カミツレだ。ああ事実だ」
そう言いながらカミツレの背後に回りながらその首周りに手を回しながら抱きしめながら何処か勝ち誇ったような視線を送る。それを見て向こうの千冬は現実逃避でもするかのように視線を困らせた。正直束からの話を聞いても自分が一夏の同級生に惚れるなんてありえないし、まず婚約するなんてありえないと思い続けていた。そもそも自分には結婚意欲など無かった筈なのに……それが本当に婚約しているのが信じれらない。それは織斑も同じなのか、それともカミツレとイチャイチャしているのが単純に見ていられなかったのか声を張り上げた。
「そっちの世界の千冬姉!!何でそんな奴と一緒にいるんだよ!?」
「あ"あ"っ?ああそうか、お前は此方側の一夏か。道理でふざけた事を抜かしていると思った」
「ち、千冬姉……?」
「馴れ馴れしいぞ、仮にも別世界だろうに。同じ世界の私と一緒などにするな大馬鹿者」
と冷たくあしらいながらも千冬は冷たい視線を織斑に投げ掛け続けている、一夏は素直に自分とカミツレの事を祝福してくれたどころかその場で箒との交際関係を告白してくれたと言うのに……どうやら此方側ではそういう事にはなっていないらしい。一夏の周辺に固まっている篠ノ之達を見てそれが良く分かる、そしてそれは自分と同じようにカミツレを愛しているセシリアも同様なのを見て、この世界がカミツレにとってきつい物だったこともヨランドと共に察した。
「私はカミツレの優しさ、心配り、暖かさ、あらゆる物に惚れた。それだけの話だ、お前らなどに語ったとしても無意味でしかないがな。今の私は心の奥底から幸せだ、お前のやっているのは私の幸せの否定だけではなく私たちの愛の否定だ。それをするならば……潰すぞ餓鬼」
「ち、ふゆ、姉……!?」
「大人気ありませんわよ千冬、見た所彼らは酷く未熟且つ未発達。そんな子供に大人の世界の愛を語ったとしても無意味で理解されない物ですわ」
そう言いながらもヨランドの表情にも怒りが僅かに滲んでいる、彼女も何も知らずに自分たちを否定しているに等しい織斑に対して苛立ちを覚えてしまっている。そして同時に自分へと注がれている視線にも気づく、カミツレから耳打ちをされて自分が代表ではない事を聞かされたそれに納得する。確かにそれならば同じくフランスの代表候補生のシャルが何も言ってこないのも頷ける。
「と、というかアンタは何なんだよっ……さっきから偉そうに……!!!」
「これは私とした事が自己紹介もしていなかった事を謝罪いたしますわ、では改めまして。私はフランスの国家代表を務めておりますヨランド・ルブランと申しますわ。どうぞお見知りおきを……いえ、貴方方にならば忘れられたとしても気にもなりませんから覚えなくてもよろしいですわよ」
「フランスの代表……あの人が、別の世界の……」
矢張り、此方側の世界のシャルが知っている代表とは全く別の人物。しかし彼女が纏っている王者のオーラは此方側の代表よりも遥かに強いという感覚がする。
「それで一夏、お前此方とは戦ったのか?」
「俺はこっちの俺とだけね、カミツレは俺以外の箒達5人と」
「それで如何でしたの此方の腕前は」
と問いかけてみるが二人は溜息交じりに首を横に振りながら肩をすくめた。
「ぶっちゃけた話、こっちの俺は凄い弱い。俺でさえ完封出来る位には。二次移行してるけど、その結果白式の燃費の悪さに拍車を掛けてて更に上級者向けにしている」
「俺はあれらと戦いましたけど……正直な話、白ける位に弱いですよ。ラウラとシャルはまあマシでしたね、結構俺の攻撃を見切ってましたし。でもそれ以外は駄目駄目で、みんなそれぞれ持ってた筈の技巧がありません」
「そんなに、か……そうだな。おい其方の凰、お前「超速零速」は使えるか」
「な、何なんですかそれって……「最速低速」と如何違うんですか」
「……ここまで、違うのですか」
それを聞いて千冬とヨランドは思わず愕然としてしまった。鈴の切り札であり彼女の究極の技術とも言うべき「超速零速」を使えない、いや知らないと言う事実と二人の物言いが自分たちの世界とこの世界のレベルの差を物語っている。これではセシリア最大の長所である並列思考すらも期待出来ないと思いつつ問うて見ると
「へ、並列的に思考をするなんて芸当、普通はマスターできませんわ!!特殊な訓練を受けなければ出来ないことですわ!!」
「……なんて差だ」
このような言葉が返ってきた、これだけ酷ければ白けるのも致し方ない。
「おいヨランド、お前こいつらを少し鍛えてやったら如何だ」
「冗談言わないで頂けますか千冬、彼らに私が教える事なんて一つもありませんわ。何も理解せずに理解しようともしない、端から学ぶ気0な人達を教えるなど嫌です」
「まあそうだろうな」
「それに……此方側を鍛えても大して面白くなさそうですもの」
そう言われたメンバーは驚愕した、それほどまでに彼らの世界の自分たちは強いのかと。そして一堂は興味を失ったかのように自分たちだけで話を始めてしまった。
「にしてもそっちのち~ちゃん綺麗だね~。肌の艶が桁違いだよ」
「だろぉ?これもカミツレの愛のお陰だな」
「うわぁお目の前で惚気られたよち~ちゃんに。何この激レア体験」
「それで束さん、俺たち元の世界にちゃんと戻れるんでしょうね」
「大丈夫だよ。もう向こうの装置とリンクさせ終わってるから何時でも帰れるよ」
「さらっと言ってるけど、これって世界の壁越えて通信出来てるって事だから超技術だよな」
「全くですわね」
「さてと―――んじゃ俺とやるかよ、織斑」
「やるに決まってるだろ……俺はお前を認めない!!!」