IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第224話 特別編2:その5

「うううっ……次の訓練の時にカミツレ君の顔を見れる自信が無いですぅ~……」

 

自室にて顔を必死に手を覆いながら悶絶している真耶、先程アリーナから逃亡のするかのように走って自分の部屋へと駆け込んだ。そこで部屋の隅に座りこんでしまっていた、今まで師として弟子というカミツレと触れ合ってきた。何時もそうだった、休み中にあったとしてもそれは普段からある師弟関係の延長線上として彼のケアも師である自分の仕事であると思って一緒に買い物をしたり、ご飯を食べたりもしていた。だが―――今ではそんな事出来ない。

 

『―――それじゃあまずは貴方のキスでいただいちゃいますね♪』

『んもう、せっかちさんで欲張りさんなんですから真耶さんは♪』

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」

 

先程妄想してしまった自分とカミツレの姿、それが如何にも頭の中から消し去る事が出来ない。一軒家の中で仕事を終えて待っていてくれた彼、そして疲れた自分を癒すように向けられる笑顔と優しい気遣いと言葉と自分を理解しきっているかのようなやり取り……それは自分が夢見た理想の夫婦の姿であった。女尊男卑な社会だからこそ素敵な男性と出会って幸せな家庭を築く、という事に対して抱く夢の大きさは次第に大きくなっていく。

 

しかし、IS学園の教師となってからはそれらの経歴や矢張りISに関わっているという事から男性はやや距離を置くようになっていたし、一度参加してみた合コンでは全く相手にされなかった。世間の男性からはISに関わる女性は少なからず女尊男卑思想があるという考えがある為か、矢張り慎重になっているのだと理解出来た、自分にはそんな事は無いがこれはISの性質故の弊害という物だろう。

 

「ううううっっ……」

 

なんとか頭から広がってしまった光景を振り払おうとするが、如何にもそれが全く出来ない。自分と此処まで真っ直ぐ向き合ってくれた男性は家族を除けばカミツレが初めてだからである。それを忘れようと頭の中で自分の理想の男性のモンタージュを作ってそれを振り払おうと思案する。

 

「身長は、別にそこまで無くてもいいかな。性格は出来る事なら優しくて一緒にいて笑い合える人、年齢は、気にならないかな。それでいて家庭的で一緒にお料理とかして、休日は買い物とか一緒に外出してくれてて……でもちゃんと私に頼ってくれる人で、一緒に歩いていける人……」

 

と次々と自分の理想としていく男性像を上げていく、数分もするとモンタージュは完成した。カミツレの事を改めてちゃんと弟子として見る為にそんな素敵な男性と巡り合うようにしようと決心するのだが改めて自分の男性像を直視してみると……如何にも既に会った事があるような気がしてならなかった。それは―――

 

「ってカミツレ君じゃないですか嫌だぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」

 

如何足掻いても出来上がったモンタージュはカミツレであった。自分の上げていた理想を全て体現しているのはカミツレであったのである、というよりも何時の間にかカミツレを理想の男性像にしてしまっていた。一番接して来た男性だからか、それとも元々カミツレが理想だったからか、兎に角弟子である彼と再び確りと接する為のモンタージュが全くもって逆効果になってしまった。

 

「ぁぁぁぁっっっ……もう如何しゅればいいんですかぁぁぁっっ……」

 

半泣きになりながらも傍にあったクッションを抱えながらそれに顔を埋めて悶絶する、まさか弟子に対してこんな感情を抱いてしまうなんて―――考えた事も無かった。確かに好きな漫画にはコーチと選手のラブストーリーもあったがそれを投影した事も無かった、弟子がいなかったのもあるがまさかそんな状況になるなんて想像だにもしなかった。

 

「うううっ……」

 

涙目になっている理由は他にもあった、それは実家から最近の近況を聞く電話が来た事だった。教師生活は順調だったり色々と楽しい事があるなど報告する傍らでどうやら両親は自分が将来確り結婚出来るのかを心配して来ていた。確かにそろそろその辺りも視野に入れておいた方が良いのかも知れないが、両親は勝手にお見合いの準備をしておこうか、などと勝手な事を言うので思わず怒ってしまった。自分には大切な弟子がいて、彼を立派にするまで自分はそんな物に現を抜かす気など無いと言い切ってしまった。が両親は何を思ったのか、カミツレに気があるんだな?という風に解釈をしてしまった。その時は何を馬鹿な事を言っているんだと思って切ってしまったが、これでは両親を笑えない……。

 

悶絶しながらベットに移ってなんとか落ち着こうとするが全く落ち着かない、寧ろより明確にカミツレの事が浮かんでしまって足をバタバタさせながらより顔を真っ赤にする。落ち着けなくなってきた時に、扉をノックする音が室内に響いてきた。

 

「だっ誰ですか……?」

「真耶先生、俺です」

「キャ、キャシュレキュン!!?」

 

最早噛み噛みで確りと喋る事すら出来ないほどに混乱してしまっている真耶は如何すれば良いのか困ってしまう。今顔が真っ赤状態で出る事なんて出来ないし、でも出ないとカミツレに対して失礼だしとあわあわと口にしながら右往左往していると続けてカミツレから言葉が飛んでくる。

 

「なんか、身体の調子とか悪いんですか。それなら無理言って訓練をお願いしちゃってすいませんでした。お見舞いの品って訳じゃないですけど、先生にご馳走するつもりだった料理を用意してきたのでドアの前に置いておきますのでお腹がすいた時にでも食べてくださいね。身体にも良いように栄養のバランスも万全ですので、それじゃあ失礼します。お大事になさってください」

 

留守だったときの為に郵便物などを置いておくと、室内へ自動的に入ってくる入り口へと何かを置くとカミツレは去って行ってしまった。真耶はどこか罪悪感を覚えつつも居なくなった事を確認しながら、置かれた物を確認するとそれはパック分けされている料理の数々だった。どれもまだ暖かく、作り立てである事が伺える。

 

「カミツレ君……」

 

思えば時間もかなり経過しているらしく夕飯時になっていた、アリーナから何も食べていなかったからか料理の暖かさに思わず喉が鳴ってしまう。今までカミツレの料理の美味しさを堪能してきてからだろう、兎も角お腹もすいた事だし、カミツレの好意に素直に感謝しつつそれを戴くことにした。

 

「いただき、ます……」

 

箸でそれらを口に運んでいく、どれもまだ暖かくて噛む度に美味しさと暖かさが染み出してくる。それらはゆっくりと胃袋へと落ちていくのだがそれもまた優しくて、食べる度に元気が沸いてくるかのような暖かさがある、まるで久しぶりに帰った実家で母に作って貰ったお袋の味を食べているかのような感覚だ。そして思わず涙が零れてきてしまう。

 

「あれ、如何して、何も辛くないのに―――美味しくて嬉しいのに涙が……」

 

涙をぬぐっても次々と溢れてくる物を抑え切れない、眼鏡を外して必死に掌で抑えるようにしても止まらない。まるで抑えていた気持ちが溢れているような……やっぱり自分はカミツレとの過ごして来た日々が堪らなく好きだったんだ、一緒に努力してご飯を食べて笑い合うのが堪らなく好きだった。そしてそれは彼を何時の間にか好いていたのも影響していたのかもしれない。そしてそれはもう認めるしかない事実であって真実だった。

 

「そうか私カミツレ君の事、好きなんだ……そうなんだ今まで全然分からなかった……」

 

思わず納得の言葉が出ると心がすっと軽くなったような気がした、そういえば彼にも言った事があった。切り替えが大切だと、何時までも訓練のつもりでいると心労が溜まって行くから切り替えを上手くやるのか上達の秘訣だと。

 

「私も、それが出来ないんじゃ、師匠失格ですよね…」

 

弟子に言った事が自分で出来ない、それは酷く情けないし恥ずかしい。カミツレの事は好き、だけどそれを師弟関係に持ち込まない。そうすれば良いんだ、この気持ちを肯定しながら自分は彼の事を思っても良い。そう思うと一気に心が軽く鳴ると同時に更にお腹が鳴ってしまった。思わず笑うとセットしてあった炊飯器からご飯を出して元気良くいただきますと言う。

 

「よし食べるぞ~!!カミツレ君のご飯ですもんね♪」

 

「ヘックシュン!!ううっ風邪でも引いたかな……?真耶先生、もしかして風邪だったのかな……?」

「束、これはもしかするな」

「うんもしかするね。これはこれは楽しみだ」

『私の、ドライブ、アーマーが……』 




というわけで特別編その2は終わりです!!短かったかな。
いや原作編が余りにも長すぎたんだ、寧ろこの位だろう普通は。
さてと次回は如何しようかな、後一、二回特別編やったら本編に行ってみようかな……予定は未定!!
別編についての募集は活動報告にて行っております。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=197099&uid=11127

上からどうぞご覧になってください。

さてさて次回はどんな番外編になるのかな、乞うご期待!!

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