『ねぇお姉ちゃん、噂の杉山 カミツレってどんな人だった!?』
「第一印象は普通の奴、変わり映えもしない一般人ってのが素直な感想」
朝、鈴は自室にて髪のセットをしながら耳に付けてた通信デバイスを起動させながら通信を行っていた。通信相手は自分の従妹である『凰 乱音』台湾の代表候補を務めており、年下で中等科。自分以上の天才だが自分以上に感情的になり易く、普段から挑発的な口調で喋る上に短気。それゆえか挑発していたのに挑発され返され、それに乗ってしまう事が多々ある。為に鈴本人は常にイラついている。しかしそんな乱が、珍しく殊勝というか、大人しい喋り方で聞いてくる事があった。それはカミツレの事であった。
『分かってないなーそこがいいんじゃない!!気取らず主張せずなあんな感じ!!最高じゃん!』
「なんか、あいつもそんな事言ってたわね……平凡と言われる事は嬉しいって」
『うわぁお私ってばもしかして、相性バッチグー!?』
「古いわよアンタ」
梳かされて行く髪を鏡で見ながら、カミツレの事を考える。最初こそそんな事を考えていた、しかし一夏以上に注目していた。カミツレの初めての試合は各国の生徒が独自のルートで入手しており、それが各国に流されており、カミツレもかなりの注目を集めるようになっている。ISを稼動させてから僅か2週間の筈の男が、イギリスの代表候補生と引き分けた。それはある意味、千冬の弟であるという肩書きを背負っている一夏以上に注目される材料となっている。
『私、あの試合毎日見てるんだから!あーもう、なんで私はお姉ちゃんと同い年じゃないのよぉ!!!』
「アタシに当たるなっての……何、アンタカミツレに惚れてるの?」
『勿論!!』
自身満々に大声で返らせ溜息が出た、もう少し声を落として欲しいものだ。ハッキリ言ってうるさい、控えめに言っても喧しい。
『自らの価値を証明する為に必死に努力し、相手を研究して、作戦を練って戦いを挑む姿勢!そして相手が急成長し、追い込まれ敗北寸前になったとして、最後まで諦めずに獣のような咆哮を上げながら前へと、前へと進み続けるあのお姿……あぁなんて素晴らしい……!!』
「…ベタ褒めね、というか自分の価値の証明ってそれアンタの想像でしょ。勝手にそれを押し付けるのはどうかと思うわよ」
戦い方を見て惚れているのは理解できる。しかしその影響でカミツレの内面を勝手に語るのは少し許せなかった。確りと会話したわけでもなく、友人関係でもあるわけではないが彼とは縁がある。対抗戦に乱入して来たIS、それを仕留める際に彼と自分は相手の体勢を崩す役目を行った。その際のカミツレの動きは機体の特性、装備、技術をフルに使って自分に付いてきていた。『超速零速』を使っていた自分に必死に喰らい付き、最終的に見事な太刀筋でスラスターを破壊した上で一夏へのフォローとして、斬り上げで体勢を完全に崩す事までやってのけた。あれで初心者と言うのだから悪い冗談にしか聞こえない。故に鈴はカミツレには好感を感じている。そんな彼の心象まで勝手に語るのはいただけないと言うと、乱は舌を鳴らしながら分かっていないという。声だけなので見えないが、したり顔をしているのまで見えた。
『お姉ちゃん分かってないなぁ、人の行動には
「……アンタって偶に、本当に偶に核心突くような事を言うわよねぇ……」
『これでも人を見る目には自信あるもの♪』
漸く髪のセットが完了するのと同時にそんな声が聞こえてくる。何だかんだ言いつつも乱の言葉は核心を突いている気がする。それだけ彼の戦い方や努力の仕方には鬼気迫った物がある。それはきっと全てを理解した上で、覆さんと努力する意志があるからなのだろう。
『兎に角私はそう思う!絶対に間違い無い!!』
「ハイハイ分かりましたっと」
『あっそうだ、お姉ちゃんって例の織斑 一夏と会えたの?』
髪を梳かす櫛が止まる、乱は自分と一夏の事を知っている。一夏の事を追いかけようと考えていた事も、政府が代表候補生を学園へと送るのに選ばれたのを喜んだのも、知っている。自分が、一夏に恋心を持っていた事も分かっている。何やら声が意地悪そうな物になっている事から、からかうつもりで言っているのだろうかというのが分かる。しかし鈴は冷めた声で別にと返すと、乱は困惑したような声を上げた。
『あ、あれ!?お姉ちゃんなんか冷めてるけど如何したの!?』
「……別に。あいつの事、如何でも良くなっただけよ」
『マジで何があったの!?』
言うべきだろうか、いや面倒だから止めておこう。自分の中での恋心は無くなりかけていた。対抗戦でのやり取りや言動でもう呆れ返ってしまった。状況判断も禄に出来ない、無駄に我を通そうとする、何も理解していない、それらが原因で鈴の中での一夏に対する評価は一気に冷え込んでいた。昔に抱いた恋の炎も凍り付いてしまった。
「んじゃそう言う事で」
『あっちょっとお姉ちゃん!?』
適当な返答を返して通話を切る。こうでもしないと乱の話は延々と続いてしまう、自分はこれから朝食を食べに行くのだからそれを邪魔しないで欲しい。
「もう、何も感じない。あいつとは、これまでね」
静かな決別を誓った鈴はそのまま部屋を出て行く。きっともう彼に会ったとしても何も感じられない。きっとそうなのだろう、と確信を持ってそう思う。そのまま食堂へと向かって行くとその途中、カミツレに出くわした。
「おはよっカミツレ」
「おはよう、凰」
「鈴でいいわよ、その方が落ち着くわ」
「ああ分かった。どうだ一緒に飯食わないか?」
「いいわよ。ついでにさ、一緒に操縦談義でもしないかしら」
「いいなそれ」