「こ、これはまた……衝撃的な」
「で、ですわね……」
「カミツレさん、なんです、よね……?」
「それはこのウサギに言って下さい……」
「ニャハハハハッ♪」
激昂カミツレの怒号によって呼びつけられた束は常に笑みを浮かべながら、取り敢えず普段着ている制服を纏っているカミツレを膝に乗せながら抱きしめている。そして取り敢えず千冬、セシリア、乱を束の名前で呼び出して事情を説明する事となった。束からカミツレが女になったという衝撃的な言葉で呼び付けられた3人が見たのは不機嫌そうに眉を顰めている褐色の美少女の姿であった。
「んで如何して、えっとそのカミツレさんにそんな事を……?」
とセシリアは不機嫌そうにしている愛しの人が変化した彼女を見つめながらも、その元凶となった束へと言葉の矢を向ける。それには二人も同意で如何してこんな事をしたのか酷く気になった、生憎この場の全員にはそちら系の趣味は一切無いのでハッキリ言って需要がない。
「いやさ、最近TSするアニメとかラノベ増えてたからさ、それをカッ君にやったらどうなるのかなぁって」
「「そんな理由で!!?」」
「よし束、頬を出せ。私の全力全開の一撃でお前を粉砕する」
「わぁ~待って待って!!?冗談、冗談だってばさ!!?他にも理由はあるから!!!?そしてさらっとカッ君も後ろから抑えないでよ!!?あっちょっと待って、カッ君の豊満なバスツが当たってる。カッ君のだと考えると絶妙に興奮をっ……」
「千冬さんやっちゃってください」
「任せろ」
「わぁタンマタンマタンマ!!?イッツジョーク!!タバネリアンジョークデース!?だからやめてぇぇぇぇ!ぐはっ!!!??」
と千冬の本気の一撃を受けた束の口から魂が抜け掛けていたが、千冬が束の腹部に無言の腹パンを加えると一瞬で魂が身体に戻って行ったので続きが話された。
「え、えっとね……カッ君ってば今では世界から超注目される存在っしょ?ずっと前にカッ君が平凡だと言われた事は自分が普通で会った事を思い出させてくれて嬉しいって言ってたって乱ちゃんが言ってたのよ」
「あっそれってお姉ちゃんが言ってた奴……」
「うん。だからさ、それにちょっと責任を感じちゃってさ。だからカッ君には少しでも普通な事を感じて欲しくてさ、これなら普通の変装よりも確実にバレにくいと思ってこういう事をしたのよ」
「……だからって何で態々俺がTSしなきゃいけないんですかねぇ……」
と怪訝そうな瞳を束に向けるカミツレだが、肝心の束は悪気があるのか無いのか分からない無邪気な笑いを浮かべ続けているのでこれ以上何を言っても無意味だと察して溜息混じりに肩を竦める。確かに今の自分の姿は世界中に広まっている『杉山 カミツレ』というIS操縦者という者とはかけ離れている、性別も肌の色も目の色も、髪の色もあらゆる物が異なっている。今の自分がカミツレだとバレる心配は恐らくない事だろう。だから―――この姿ならISと関わる前と全く同じように過ごす事が出来る、そう束は思ったのだろう。
「それでねカッ君―――」
「いや俺は元の姿に戻りますよ」
「―――やっぱり解っちゃった?」
「分かりますよ、これでも俺は貴方の婚約者なんですからね」
そう言って微笑むカミツレの表情は今の見た目も相まって聖母のよう、いや女神のようにも見える。セシリアと乱は何を言っているのか分からないのか首を傾げるが千冬もそれを理解した。そして嬉しそうに笑った。
「兎に角俺は戻れるでしょうね」
「うん確りとね。一応臨床実験もしてるからね」
「一応聞いて置くが誰でやったんだ?」
「そうですわ、このような物をどうやって……」
「というか良く作れましたね」
「んっ―――本当に聞きたい……?」
「「怖いのでやめておきます」」
「よし聞いた私が悪かった」
一瞬、束の顔に影が掛かった上でとんでもなく恐ろしい魔王が背後で星を砕きそうな一撃を構えているのが見えたので追及をやめるのであった。まあ確かにこんな物の臨床実験なんて余り聞きたい物ではないだろう。
「期間的に言えば今日いっぱいかな、伸ばして欲しいなら延ばすけど」
「結構です」
「そりゃ残念」
と言いつつもやっぱり束も元の姿のカミツレの方がいいのだろうと3人そろって思うのであった。
「んで束さん、なんで俺の姿ってこんなにも変わってるんですか?」
「あ~それはカッ君だって分からないようにする為の工夫だね。肌は身体、髪は技量、目は精神力。それぞれの強さが反映されるように設定してあるからね」
「なんですか、その俺が屍を越えて行きそうな感じの反映の仕方は」
と話をしている間に思わずセシリアは気になった。先程からカミツレの胸は彼が小さく身体を動かす度に酷く揺れているのが制服の上からでも分かる、自分並に大きい胸とはいえあそこまで大きく揺れるだろうか……箒並だったら分かるのだが、流石に揺れすぎな気もする。と此処でとある事が思い至った。
「あの、カミツレさんその申し上げにくいのですが……下着などは如何なさっているのですか?」
「普通のだよ、俺が今まで着てたの。というか女性物の下着付けてたらそれはそれでやばいと思うよ」
「そ、それはそうですが……先程から胸が余りにも揺れすぎていますわ。それではくすぐったい上に痛いのでは?」
「ああうん、まあ……でもまあ今日一日っていうんなら我慢するし……」
というが、それは女性としての生活を全くした事がないカミツレの言葉だった。が、女性としてはカミツレよりずっと長く生きている4人からすればそれがどれだけきつい事なのかは良く分かっている事。
「おい束、お前なら今のカミツレのバストサイズどころかスリーサイズ分かるだろう」
「そりゃ勿論。今のカッ君は上から88、59、86だね。因みにカッ君はTSした影響で縮んでて身長は163だよ」
「どんだけ分かってるんですか……」
「では私の下着をお貸しすればいけますわね、いえどうせならカミツレさんをメイクアップいたしましょう!!折角同じ女性になったのですから、同性で無ければ出来ないことを!!!」
「それはいいな」
「ちょっと興奮しちゃいますね」
「えっちょっと!!?いいいいやぁぁぁああああ!!!!???」
この後、カミツレはセシリアが持ってきた下着に強制的に着替えさせられた上に様々な服を着せられる羽目になった。そして、千冬が何処からか女子用の制服を調達して来てそれらを着せられて学園内を歩く事にもなってしまった……。
「如何して、こうなった……!?」
「さあ次は此方ですわ真名さん」
「さあさあ行きましょう!!」
尚、その際には別の名前を名乗る事になった。カミツレの親族でイギリスでISの開発協力をしているカミツレの従姉、杉山 真名と名乗る事になったという。
「束、お前何故カミツレにあんな事をした?唯、あいつが女だったらというのを見たかった訳ではあるまい」
「まあち~ちゃんには分かっちゃうよね。うんそうだよ、私はカッ君が望むなら―――あのままの姿で別の人生を歩めるようにして上げられるようにしてあげるつもりだったよ。でもカッ君は私たちと一緒にいてくれる事を望んだ、嬉しい限りだよね!!!」
「全くだ。流石私たちが惚れた男だ」