IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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その5スタート!

カミツレの帰省編!!!


第235話 特別編5:その1

―――杉山 カミツレが自身専用となるIS『勝鬨・蒼銀』を受領して間も無い頃、夏休みへと入った頃の事。IS学園の教師であり、彼の師であり最大の理解者でもあった真耶が尽力した事で数ヶ月ぶりにもなる帰省が許可された、これはその時の物語である。

 

『条件その一。帰省期間は1週間、安全面などを考慮した結果の日数決定であるので了承する事。条件その二。杉山 カミツレは帰省中、毎日IS学園へと連絡を取り報告を行う事。一度でも損なわれた場合強制送還となる。条件その三。実家での生活を思いっきり楽しむ事、これは絶対の条件!』

「真耶先生……本当に有難う御座います」

 

とIS学園から出た車の中で景色を眺めながら、自分が帰省する為に尽力してくれた師匠への感謝を浮かべつつも内心でわくわくしている想いに胸を躍らせ、自分が産まれ育った故郷へと走っている車の中でカミツレ。一夏は元々住んでいた家がIS学園と同じ県内にあるので帰省は簡単だが、県外となるカミツレにとっては難しい上に自分の特性上安全の確保やらが大変なので家に帰る事自体が非常に困難なのである。

 

「カミツレ、間も無く駅に着くぞ。降りる準備をしておけよ」

「はい分かりました、それにしてもすいません千冬さん。ご迷惑おかけします」

「何、普段から美味い料理を食わせてもらっているんだから。この程度気にするな。それにこれはお前を帰省させる条件の内でもあるんだ」

 

車を運転しているのは担任でもある千冬、しかも念の為にと教員カスタム仕様の「打鉄」を待機状態にさせながら装備している。千冬が送っているのもカミツレを帰省させる条件でもあり、彼の実家から最寄の駅には家まで連れて行く者と護衛を交代する事になっている。

 

「それにしても、久しぶりのご家族との再会だ。嬉しいのではないか?」

「当然ですよ。俺がどんなに祈っても会えなかった兄貴達に会えるんですから嬉しいですよ……」

「だな。っと着いたぞ」

 

と千冬は駅内部の駐車場に車を止めると自分だけ外に出るとタイミングよく隣に止まってきた車から出てきた者と身分証明と書類の確認を確認するとサインを渡してカミツレに降りて良いと指示する。此処からは彼らがカミツレを家に送る役目となる。

 

「千冬さん、本当に有難うございました。一応料理は作り置きを冷蔵庫とかに入れてあるので温めたりして食べてくださいね。念の為多めに作ってはおきましたけど、食べすぎは駄目ですよ」

「分かっているさカミツレ、量を守って楽しんで食べるつもりさ」

 

と何処か単身赴任に行く夫と妻のようなやり取りに護衛を交代した者達は何処か笑いを浮かべている、千冬は心行くまで楽しんでくるといいが、連絡は忘れるなよっと伝えるとそのまま車を運転して去っていく。カミツレは手を振って千冬を見送ると乗る車から一人の男が顔を出してこちらを見てきた。それはセシリアの親戚でもあり、帰省の為に護衛の協力などを申し出てくれたリチャード・ウォルコットだった。

 

「やぁカミツレ君、君はあのミス・千冬とも仲がよいんだね」

「お久しぶりですリチャードさん、唯の教師と生徒の関係ですよ」

「唯の生徒と教師から冷蔵庫の作り置き云々の話は出てこないと思うんだが……」

「部活に持ってくる差し入れみたいなもんですよ」

 

といった話をしながらもカミツレは入ってきた車に乗り込むと、そのまま車は発進して複数の車がその周りを自然とガードしながらカミツレの実家へと進んでいく。イギリスの代表候補生になったとはいえまだ各国が諦めているとは言い切れない、故に世界的に大きな名前と影響力を持つ大貴族であるリチャードが護衛に力を貸す事で周囲に手出しをさせない為の示威行動も踏まえている。

 

「ご家族がお待ちかねだよ、特にお母様とお兄さんが首を長くしてお待ちしているよ」

「まあ母さんは分かりますね、会ってみて結構大変だったんじゃないですか?」

「いやぁいいお母様じゃないか、あそこまで自分の家族に対する愛を開放しつつ惚気るなんてそう簡単には出来ないよ。あれほどまでに愛されていて本当に羨ましいとさえ思えたよ、まあ凄いパワフルだったのは事実だけどね」

「か、母さんったら……もう少し自重してくれよ……」

 

と頭を抱えつつも口角が上がっているのをリチャードは見逃しておらず、自分の家族が何も変わっていないことに対する安心感をおぼえている事を察した。そしてご家族の生活には何も変化は無いと教えるとカミツレはより一層安心したような溜息を吐くのであった。

 

「イギリス政府からと家からも護衛を兼ねてファームの手伝いに人員を出しているから安心してくれていいよ」

「えっそんな事まで!?」

「何々、我が国に来てくれるんだこの位当たり前という奴さ。それに皆さん本当によくしてくれてね、仕事だから当たり前なのにご飯まで用意してくれるし皆喜んでいるよ。君の所の野菜は本当に美味しくてね、逆にそれ目当てに護衛任務を継続したいという者まで居てビックリした位さ」

「マジですか……」

「歯ごたえと香り、味の濃厚さとか色々堪らないらしいよ」

 

イギリスの方々まで虜にする「俺達の杉山ファーム」の野菜、流石は祖父が独自に考え出した農法と兄達の丹精込めた育て方を受けた野菜たちというべきなのだろう。地元だとちょっとした有名ブランドのような物で地元の市場に出せばあっという間に売り切れる程には人気なのだが、まさか海外にまで受け入れられるのは予想外だった。

 

「それでね、杉山ファームの野菜をイギリス本土でも売り出す算段をかずみん君と今日も相談する予定なのさ」

「……マジですか」

「マジさ。それに何れはイギリスに移住するかもしれないからその際の土地も確保済みさ」

「というかリチャードさんまでその呼び方なんですか……」

「一応一海君ご本人から許可は貰っているよ?」

 

そういう問題では無いんだけどなぁと思っていると車が停車する、話に夢中になっている間にどうやら到着したようだ。車を降りると周囲には見慣れた風景と大きな土地に広がっている畑、それらに隣接している2階建ての大きな一戸建て。紛れも無い自分の家だ、久しく見るそれに浸っていると玄関の扉が開いてそこから母が顔を出し、自分の姿を見ると同時に涙を流しながら自分に飛び付くように抱き着いてきた。

 

「カミツレェェェェェッッッ……会いたかったわよぉ……!!」

「母、さん……母さん、母さん母さん母さん……!!!」

 

母の温もりに包まれた途端に、嬉しさと心地よさが身体を包み込んでいく。それと同時に涙が溢れ出して行き抱き付いて来る母に縋るかのように自分も抱き締め返しながら、母を呼び続けながら号泣してしまった。そして肩を叩かれるのに気づいて顔を上げるとそこには、涙ぐんでいるかずみんがサムズアップをして自分を見つめてくれていた。

 

「お帰り、カミツレ」

「ただ、いま兄貴……!!」

 

この日、カミツレはIS学園に入学してから初めて帰宅する事が出来た。今まで当たり前だった事がどれだけ幸せだったのかを噛み締めながら母の温もりを精一杯に感じようとしていた。


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