IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第236話 特別編5:その2

「本当にもう、会いたかったのよカミツレ……毎日毎日、本当に心配で……」

「それは俺だって同じさ……母さん達に何かあったらって考えたら、もう不安でしょうがなかった……でも俺なんかじゃ何も出来ないから……」

「良いのよ私達の事なんか、ごめんねごめんね……何もしてあげられなくて……お母さん達、家族失格よ……傍にいて、貴方を支えてあげる事さえも出来なかった……」

「そんな事っ―――そんな事あるわけ、ないだろっ……馬鹿」

 

漸く帰ってくることが出来たカミツレが家族と真っ先に分かち合ったのは互いの無事による安心感だった、互いに何も出来ずに募って行く不安は酷く重苦しかった。それから開放された事による安心感は互いに凄まじかった、親として子を守れずに歯痒く辛くて厳しい現実と向き合うことしかさせてあげられなかった事。自分のせいで家族に大きな負担を強いてしまった後悔、だがそれも互いに顔を会わせた瞬間に溶解して行き言葉が胸に届いていく。大粒の涙を流しながら喜ぶ二人の肩を叩いたかずみんは自身も涙ぐみながらも、リチャードらに礼を言いながら二人を家の中に入るように促す。

 

「とにかく入れよ、変な事なんて考えずにゆっくりしていけよ……」

「兄貴、うん、うん……」

「そうよね、そうよね……さっいきましょうカミツレ……」

 

母に連れられて家の中へと入っていくカミツレ、そんな弟を見送りながらかずみんは此処まで連れて来てくれたリチャードたちに改めて礼を言いながら彼らも家の中に入ってくれと促して、何時ものように話をしようという。

 

「それじゃあカミツレ、直ぐご飯作っちゃうから待っててね!!腕によりを掛けて作るから、待ってるのよっ!!」

「うん、俺は部屋に行ってるから」

 

そう言って駆け出していく母を見送るとカミツレは2階へと上がって行く、自分の部屋があった2階。最早階段を上がる感覚にすら懐かしさと嬉しさを感じてしまっている自分がいる。それほどまでに家にいるという事が懐かしく思えている、この家から離れてまだ数ヶ月しか経っていない筈なのに数年が経過しているような気までする。階段を上がっていくと扉に「カミツレの部屋」と書かれた母、愛理お手製のプレートが掛けられていた。そうだ、こんな物もあったなっと思いながら握り慣れたドアノブを開けて中へと入った。

 

「ぁぁっ……」

 

部屋を空けられた途端に飛び込んでくる猛烈な懐かしさ、学園の部屋に比べたら酷く貧相で平凡な内装の部屋。壁一面に敷き詰められている本棚には漫画やライトノベルやらが詰まっている、畳まれている折畳みベットに掛けられている布団は確りと洗濯されているのか少しパリッとしていた。愛用の椅子は座って見ると出る前と同じくギシギシと少し調子悪そうな音を立てるが、それさえ愛おしく思える。何もかわっていない部屋、強いて言うなれば毎日掃除が行われているかのように清潔にされている。

 

「そうだ、此処が俺の部屋なんだ……。懐かしいなぁ……」

 

まるで異次元から帰還でもしたかのような気分を体感しながら、ベットを広げてその上に腰掛ける。昔はこうやって漫画を読んて笑ったりしたりをよくしていた。本当に懐かしいと思える。だがもうそんな生活には戻れない、という事も同時に強く実感してしまう。ISの操縦者となってしまった以上自分にもう一般人として生活なんて出来ない。じんわりと汗もかいてきたので気分でも変えようと窓を開けようとするが、咄嗟に伸びた手が縮む。

 

「開けない方が、いいよな……」

 

自分の事を考えると何処から他国が狙っているのか分からない。リチャードとイギリスから護衛の人間が派遣されてこの周辺は常にパトロールと調査が毎日行われているという話だが、態々自分から危険を呼び込むような行動をする必要も無い、エアコンのリモコンに手が伸びて電源を付ける。溜息を吐きながら思わず荷物として持ってきた参考書でも使って勉強でもしようかと思う辺り、本当に変わってしまったんだなっと同時に自分がもう元には戻れない事をさらに強く実感する。

 

「でも帰って来れて良かったなぁ……」

 

本来行く筈だった高校、そこに合格し人生の中でも最も楽しいと言われている高校生活に胸を躍らせてどんな風な学生生活を送るのかとドキドキしていたあの時、だがそんな想いは一夏がISを動かした事で全国で行われた適性確認テストで打ち砕かれた。そして流れるがままにIS学園への入学……。辛い事ばっかりだったけれども、今此処に居れる事がとんでもない奇跡のようにも思えてくる。

 

『此処がカミツレの部屋、ですか。貴方らしい部屋ですね』

「カチドキ、お前……俺らしいってどんな部屋だよ」

『貴方らしいと言うことです』

「意味分からん」

 

と今まで声を潜めていた相棒から声が漏れだした、今までは家族との時間だったので彼曰く気を遣って黙っていたらしいが今は二人しか居ないので声を出したとの事。

 

『カミツレ、貴方のお母様は本当に良い人なのですね。あそこまで本音を隠さずに子供を愛せるという母親は滅多に居ない筈です』

「……まあな」

『こういう言い方はあれですか、女尊男卑が蔓延している昨今では子供を喜んで売るような屑親がいるのも事実ですから。私達としても貴方の母親はお母様以外で初めて見るケースの母に思えます』

 

仮に他の家庭にカミツレのようなケースが産まれた場合どうなるのだろうか、出来ればどのような事は考えたくも無い。そう思うと本当に自分の母は愛理で良かったと心から思える、そんな風に思っていると階段をバタバタと掛け上げって来る音が聞こえてくる。扉が勢いよく開け放たれるとそこからは愛理がエプロンを付けたまま駆け寄ってきて抱き付いてくる。

 

「カミツレご飯出来たわよ!!」

「うわぁっ!?ちょ、ちょっと母さんくすぐったいって!!?」

「いいじゃない久しぶりに親子の触れ合いなんだから~♪」

 

と頬にキスまでして愛しい息子に頬擦りする愛理に一瞬困ってしまうカミツレだが、母にとってそうしたいのだなと察した。腕の中に確かに自分がいると言う実感が欲しくて堪らないんだと思うとそっと母を抱き締め返す。

 

「大丈夫だよ母さん、俺は此処にいるから。久しぶりに母さんのご飯だなんて嬉しいよ」

「ええ、愛情いっぱい込めて作ったわよ♪さあさあ行きましょう!!」

 

と手を引っ張ってリビングへと連れて行かれるカミツレだが、何処か幸せを感じそれを噛み締めながら母の後に続いていった。

 

『カミツレ、やっぱり貴方のお母様は素敵な方ですよ』

「ああ、そうだな……」

「あらっ何か言った?」

「いや、やっぱり母さんは可愛くて美人だなって」

「いやんもう♪」


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