IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第239話 特別編5:その5

「ふぅぅぅっ~……良い湯だったぜ……」

「おっ爺ちゃん出てきたか、酒の準備は出来てるぜ」

「こっちも後少しで終わるよ」

 

風呂から上がってきた白鯨を出迎えるかのようにリビングにはかずみんと愛理がお酒などの準備を終えて待っていた、二人に待たせたなと言いつつも腰を落ち着けると三人揃って大きなジョッキになみなみとビールを注いでいく。白鯨は注がれていくビールを見るだけで口角を上げて行く、流石は酒は薬と豪語するだけの事はある。

 

「さてと、それじゃあ―――」

「そろそろ―――」

「やるか―――」

「「「乾杯!!」」」

 

ぶつけ合ったジョッキから零れる泡、それらを消すかのように一気にビールを喉奥へと流し込んで行く。良く冷えたビールが喉を流れている感覚、ビールを気持ちよく喉を鳴らしながら飲む感触が堪らない。三人同時に飲み干してくぅぅぅっと声を上げる。千冬やナターシャと同じ、いやそれ以上の酒豪にとってはジョッキいっぱい程度のビールなど水と同じなのかもしれない。

 

「それで爺ちゃん、今日の会合は如何だったんだよ。今は勝、修也、聖吉が行ってる筈だけどよ」

「普段と何も変わりはしねぇよ、今からにでもカミツレに日本の代表候補生になるように言ってくれ。そうしてくれれば幾らでも金は出すし条件は幾らでも飲む……勝手なもんだ、てめぇらが見捨てたカミツレを今更なんとか取り入れようとしても遅せぇんだはなったれの小僧共が……」

「全く……前なんて私の言葉なんて完全に無視してたくせに勝手な人達ね」

 

愛理の言葉に思わずかずみんも強く同意する。カミツレがISを動かせると分かった時、政府はカミツレを拉致同然に自分達から引き離そうとした。中には自分達に売れと言ってくる連中まで居た、その時こそ白鯨は本気でキレた瞬間だった。相手を殺そうとするような勢いで殴りかかろうとしたがそれではいけないと止めたのはそのカミツレの表情だった、幾らなんでも相手を殺してでも止めたとして孫は喜んでくれるのかと思ってしまい踏み止まり精一杯の交渉に望んだが全て払い除けられた。不甲斐ない自分達を恨んでくれてもいいのに―――

 

『俺なら大丈夫だよ、十分嬉しいよ。それなら俺がやるよ、俺が自分で自分の価値を証明してやるさ』

 

あの時ほど、自分達の不甲斐なさを悔いた日もなかった。守ってあげるべき筈のカミツレ、彼に自分の事は自分で何とかするようにとしか言うしかなかった……。せめて自分達に出来るのは応援の言葉を送る程度しかなかった。そしてカミツレはIS学園へと出向き、自分達は大切な家族の安全を祈り続けるしかなかった。それから愛理は悪夢に魘されるようになり、かずみんは必死に弟の無事を近くの神社で毎日3回祈願し続け、白鯨はあいつならやると言いつつも内心では不安で溜まらなく酒を飲んで紛らわし、家の神棚で祈願するしかなかった。

 

「あいつはあいつの手で未来を勝ち取った、それはもう誰にも邪魔されるもんじゃねぇ」

 

それらの想いが叶ったのか、学園入学から少しするとカミツレから連絡が来てイギリスから代表候補生の推薦を受けたという話が来てバックにイギリスが着く事が分かり、歓喜した。これでもう大丈夫だ、カミツレは本当に自分の力で未来を勝ち取ったのだと。あの日ほど酒を飲んで喜んで、皆で泣いた日もなかった。

 

「もう決まった事を一々口々言ってくる小僧共なんざ、無視すれば良い。その為にリチャードとかも手を回してくれてるんだろう」

「ああ。イギリスに行く手筈はもう整ってるし、向こうの政府との話も付いてる。もう幾ら日本政府が何かしようとしても無駄さ、極秘らしいけど俺達の護衛にISまで付けてくれてるらしいぜ。日本政府の暴走の抑制目的で」

「すっごいわねぇ……それってカミツレが凄い期待されてるって事じゃない?」

「流石は俺の孫だ……」

 

実際はISを用いて襲撃しようとしても、既にISコアはカミツレを父親と認めているので攻撃しようとしても強制停止するので意味はなかったりする。そんな事は知らずに嬉しそうに笑いながらビールを新たにジョッキに注いでいく。国一つにそこまでさせる、本来はそこまでの男になれるだけの素質があったという事だ。しかしそれを喜ぶべきなのかは分からなかった。

 

「お待たせ~ツマミ出来たよ」

「おっ待ってました!!」

「キャア~待ってたわよカミツレ♪」

「おおっ来たか……酒にはやっぱりツマミがねぇとな」

 

おぼんに乗せられてやってきたのは皿に盛られていた愛理の大好物でもあるツマミであった。新鮮でまだ生きているテナガタコの足を小さくカットしてそれらを自家製のキムチに和えて揉んだ物、新鮮である証拠にまだまだ足が動いているタコキムチ。

 

「おっタコキムチか、母さん好きだねぇ」

「だって美味しいんだもん♪」

「んじゃ食おうぜ」

 

と言いながらタコキムチへと箸を伸ばして口にする。自家製の白菜で仕込んでおいたキムチと生きていたタコの足、足はまだ動いている為か口の中で踊っている。噛み締めると良い歯ごたえと共に旨みが飛び出してキムチの辛味と甘みと酸味、それらと混ざり合って一つの濃厚な美味さへと変わっていく。

 

「ほうっ……こりゃいいな」

「んんっ~やっぱり最高タコキムチィィィ♪」

「おおっ口中で踊って面白いなやっぱり、これが美味いんだよなぁ」

 

と嬉しそうに顔を綻ばせている面々、そして口の中に味が残っているうちにビールを入れると更に美味しく感じられる。これこそツマミがビールを、ビールがツマミを引きたてあっていく最高のベストマッチである。

 

「こりゃ良いな、俺はタコは刺身ばっかりだったがキムチと一緒なのも悪く無い」

「でしょ~!!カミツレお代わり~!!」

「おいもう食べたのかよ母さん!?それじゃあツマミの意味ねぇだろ?」

「まあ母さんらしいよ、はいはい今持って来るよ」

 

そう言ってお代わりを持って来る為にウキウキしている愛理から皿を預かってキッチンへと向かって行くカミツレ、そんな孫を見送っていた白鯨だが何やらよい香りがしているのに気づいてそちらを見てみる。するとフライパンの方から香ってくるのに気づく。

 

「おいカミツレ、この香りは何だ?」

「あっ分かった?タコの刺身の他にもちょっとある物にも挑戦して見てるんだ」

「ほうっ面白いじゃねぇか、それも持ってこい」

「後少しで出来るから持って行くよ、ついでに刺身も出るよ~」

 

と戻ってきたカミツレが持ってきたツマミ達、それらと共に酒がどんどん進んでいく。タコの刺身も味が濃厚な上に良い歯応え、酒が進むのもカミツレが注いでくれているいるかもしれない。そんな中、キッチンへと向かったカミツレは出来上がったそれを大きな器へと盛ってそれと盛ってきた。

 

「おおっ良い香りじゃねぇか!!!おいカミツレこれなんだ!?」

「アヒージョっていうスペインのオイル煮だよ、学園にいる時に教えて貰ったんだよ」

「良い香りね~でもアヒージョって確かアンチョビいるわよね、うちにはない筈だけどどうやって作ったの?」

「代わりに塩辛を使って見たんだよ、結構いけるんだよ」

「塩辛か、その発想はなかったな」

 

茹でられたタコだけではなく一緒にジャガイモなども加わっていて一層ツマミに向いている。にんにくとオリーブオイルの香りが程よく食欲を刺激して行く、早速かずみんと愛理が手を伸ばして食べて見る。濃厚な味のタコが茹でられてよく良い歯応えになりそこへオリーブとにんにくの風味、それらを辛さがピリリと締めて非常に良い塩梅になっている。

 

「こりゃ美味いな!!!ビールに合うぜ!!!」

「う~ん良いお味♪これはワインもいいわねぇ~ねえワインも頂戴~♪」

「あいよ、何ワイン?」

「赤でお願い♪」

 

とワインを要求する愛理を他所に白鯨もそれを口に運んでみる。少し身が締りすぎている感じがあるこのマダコは確かにこんな調理がピッタリだろう、味もとても良く美味。だが白鯨は一切顔を緩ませなかった、かずみんは和食系が好きな祖父には口に合わなかったのだろうかと思いながらも美味いという。カミツレは白鯨の反応に少しビクビクしながらも言葉を待った。箸を置きながら静かに言う。

 

「迷ってるな、カミツレ」

「……ッ」

「味に迷いが出来てる、何か悩み事があんだろ」

「……如何して分かったの?」

「おめぇの爺を何年やってると思ってんだ、孫の作った料理に出てる感情(もん)ぐらい読み取れて当たり前だアホンダラ。だけどいい迷い方をしてるな」

 

そう言う祖父に勝てないなぁと言いながら座りこんだカミツレ、白鯨はそのまま孫の言葉を待たないまま言葉を続ける。

 

「お前はこう思ってる。確かに自分は未来を掴んだ、イギリスの代表候補生って未来をな。だがそれで俺達に多大な迷惑を掛けちまってると思ってる。だけど同時に自分は今進んでる道に全くの後悔をしてねぇ。その狭間で苦しんでるって所だろ、おめぇは真面目だからな」

「……うん。俺さ、セシリアの申し出を受けて全く後悔してない、でもそれで皆に迷惑を掛けちゃってる。母さん達だけじゃない、ファームで働いてる皆やこの辺りの人達にも……」

 

そう言いながら顔に影を作るカミツレ、そんな孫に白鯨は成程なと言いながらアホンダラ、クソ真面目かっと悩みを切り捨てるかのように吹き飛ばした。呆気に取られたような顔をしたカミツレだがそんな顔を見た祖父は笑った。

 

「俺らがお前のやった事で迷惑に思ってると思ってんのか、迷惑なんてこれっぽっちも考えた事もねぇよ。家族ってのは常に迷惑を掛けあって、それでも支えあって一緒に笑って、全てを共有するもんだ。お前の苦しみは俺達の苦しみだ、お前の喜びは家族の喜びだ。それはファームの連中もここらの全員の総意だ。じゃなきゃここら全員で政府の小僧に怒鳴りはしねぇよ」

「お、お爺ちゃん……」

「そうよカミツレ。貴方の事で迷惑だなんて考えたこと無いわよ?寧ろ、嬉しさでいっぱいなんだから」

「ったくくだらない事で悩むんじゃねぇよ、お前の兄貴はそんな事で怒ったりしねぇよ」

 

そう言って肩を叩いてやる愛理とかずみんにカミツレは思わず、少し涙ぐんでしまった。そんな孫を見て笑って言う。

 

「カミツレ、お前はもう立派にやってる。その事を誇れ、そして自分らしく生きればいいんだ。自分らしく生きて自分らしくどぉんと胸を張って生きりゃいい。それが漢の生きる道だ」

「……分かった、もう考えるのはやめた。好き勝手に、俺らしく生きるよ」

「その意気だ、流石は俺の孫だっ……!!」

 

そう言うと白鯨は豪快に笑った、それにつられる様にカミツレも笑うのであった。

 

「強いて言うならそうだな……曾孫は急ぐ事はねぇぞ、のんびり待たせて貰う」

「ちょっお、お爺ちゃん!!?」

「はははっそうだそれもあったな!!カミツレの場合、多重婚だから子供多くなるだろうからな!!いやぁこれでも俺にも甥っ子か姪っ子が出来る日も遠くねぇな!!」

「何言ってるのよ早い方が良いに決まってるじゃない!!カミツレ~早くお祖母ちゃんって呼ばれた~い♪」

「ええええええええっっ!!!?」

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