IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第24話

「やっぱりアタシはハヅキ社製のが良いと思うけどなぁ」

「え~そう?デザインだけって感じしない?」

「私はミューレイ社のスマートモデルかな、見た目も性能も良いし」

「あ~やっぱり来たかミューレイ社、でも高いのよねあれ」

 

鈴との朝食もそこそこに教室へと足を運んだカミツレを待っていたのは、教室にて楽しそうに会話をする女子達の楽しげな声と此方に向けて笑顔を振りまくセシリアだった。本日は日直らしいのでいつもより早めに教室へと足を運び日誌のチェックや日程を確認している。そんな事を思いながら席に着くとぐったりと席に倒れこむようにしている一夏が目に入った。一夏は最近千冬とのマンツーマンの補習授業に何時もあんな調子である。相当キツいのか休み時間は疲労困憊と言った様子だが、以前千冬に聞いた話では基本を少しハイペースで教え込んでいるだけとの事らしい。以前教え込んだ基本のレベルではまだまだ未熟すぎるとの事。

 

「おい一夏、確りしろ。そもそもお前が参考書を捨てずに済めば、こんな苦労などしなかったんだぞ」

「そ、そんな事言ったって……覚える事多すぎて、パンクしそうだ……」

「私でも何とかなっているんだ。私以下のお前でも何とかなるに決まっている」

「それ、慰めているようで俺の事、馬鹿にしてるだろ……」

 

そんな一夏をフォローするように傍に居るのが箒、あの意識離脱中の号泣告白未遂以来何か変わったのか、彼女の態度は少し柔らかくなっているような気がする。言葉自体に棘があるのは、本人からすればあの時の一夏への仕返しなのか、照れ隠しなのかは分からないが兎に角一夏に協力しているのは事実だ。後は奴が箒の気持ちに気付くだけなのだが……それが習得難易度Sクラスの操縦技術以上に難しいから、箒からしたら笑えない話である。そのような事などさっさと忘却して、日課の予習と復習を始めると箒が自分の事を言いながら一夏に言う。

 

「お前がだらしない姿を晒している間に、杉山は自主的にあんなにやっているんだぞ。お前も負けじとやれ」

「カ、カミツレと一緒にするなよ……あいつは千冬姉の地獄の補習受けて無いんだぞ…」

「最初から確りしていたから千冬さんの補習を受けていないんだ、一緒にするなど失礼だ。それに杉山は初日から、自主的に自習をしているんだ。散々説教されてから補習を受けた奴が何か言えると思うのか」

「ぐ、ぐぅぅっ……」

「(仰る通り)」

 

と内心で箒に同意しつつもっと言ってやれと毒づきつつペンを動かし続ける。きっとこれからは一夏のセーフティとして機能してくれる事だろうと期待しつつペンを動かしていたが、目の前に真耶が笑顔で立っていた。もうSHRなので一旦ペンを置いて欲しいという事だった。余りにも集中しすぎてしまったようで気恥ずかしくなった。そして千冬が入室し、SHRがスタートする。

 

「皆おはよう、さて本日からは本格的な実践訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用する為各自、怪我などをせん為にも、気を引き締めるように。各人注文したISスーツが届くまでは学校指定の物を使って貰うのでそのつもりでいるように。まあ個人のを使っても構わんが、授業中は出来るだけ統一する為学校指定の物を使うようにしてくれ。忘れた者は代わりに学校指定の水着で代用して貰うが、それも無かったら……下着しかあるまいな、だから忘れるなよ。因みに忘れた奴は風紀違反で説教だからな」

 

これでクラス全員の心が忘れないようにしようと合致した瞬間でもあった、下着でいる事も嫌だが何よりも千冬に説教をされるなんて冗談ではない。それが何よりも嫌なのだ。どんな言葉よりも効果があるもの、それは千冬の説教であると説教をされたばかりの一夏はそんな事を考えていたが、千冬から心を見透かされたかのような鋭い視線に目を逸らす。

 

「さてとこの位で良いか。では……っとしまった。伝える事があったな、山田先生」

「えっと皆さんにお知らせがあります。なんと転校生を紹介します、それも2名もです!」

「「「「えええええええっ!?」」」」

「さあどうぞ!」

 

女子は何より情報に飢えているもの、そんな彼女らが独自に形成しているネットワークの情報は耳聡い。それなのにそれを潜り抜けた転校生という存在は皆を興奮させる物だった。しかしこのクラスに二人、しかも鈴と同じような転校生……また国から送りこまれた代表候補生という事になる。いよいよ露骨になって来た国の行動に、身の危険を感じる。これは、早い所イギリスからの要請を送って貰うしかないとまでカミツレは考える。そんな危険回避の為の思考を他所に、教室に転校生の二人が入ってくる。―――その転校生らを見てざわめきが停止した、何故なら一人が男子の制服を着ているのだから。

 

「シャルル・デュノアです、フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

それなりに長い金髪の髪を後ろで、縛っているかのような髪型と中性的な顔つきに人懐っこそうな笑み。それを浮かべているシャルルは一礼をするが、驚きに満ちているせいか、静まり返っている教室で一人が思わず呟いた。

 

「お、男…?」

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞きまして転入を―――」

 

丁寧に返事を返すシャルルの返答を最後まで待つ事無く、教室内にソニックウェーブが広まった。発信源はクラスの女子達である。

 

「男!男子!!3人目の男子!!!」

「美形だァああああ!!!守ってあげたくなる系の!!しかもうちのクラスだぁぁぁ!!!!」

「生きてて良かったぁぁあああ!!!いやったぁぁぁぁ!!!」

 

阿鼻叫喚とはこのような状況の事を言うのだろうとカミツレは思った。これ程までにこの言葉がマッチする状況には初めて遭遇するがこれ程までに凄まじいとは思わなかった。一夏も一夏でやや嬉しそうな視線を送っている、こんな状況で少しでも同性の生徒が増える事が嬉しいのだろうが、カミツレは怪訝そうな視線をセシリアから送られ、それに頷いた。

 

「(三人目……明らかに怪しすぎるだろ、仮に三人目が現れたとしたら確実に大ニュースになる。それとも過去二回の事があるから秘密裏に……?でもセシリアにも連絡は無かったみたいだし、どうなってるんだ……)」

 

素直に喜ばず怪しむ事から始めている、此処が普通の元女子校の一般高校、クラス内には男子と女子の割合が1対9ぐらいの状況での男子の転校生と考えると喜ぶ所。しかし此処は全世界からの視線を集めるIS学園、そんな事はありえない。確実に何かある、警戒を念頭に置きつつ、無意識に待機状態の勝鬨(ドッグタグ)を触れる。この時はそこまで考えを至らせていなかったが、心の何処かで理解していたのかもしれない。

 

加えて言うのであれば、あれが男とはとても思えない。見た目に関しても中性的、といえば聞こえは良いが男装をした美少女。と言われたほうが納得がいく見た目と高い声、本当に男なのか疑う要素で一杯である。続いて隣の眼帯を付けた銀髪の少女の番となった、彼女を見て抱いた印象は「強い」その一言であった。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「ハッ教官」

「ハァ……何度言わせる、織斑先生と呼べ」

 

ややうんざりとした表情から放たれた言葉、千冬とかなり縁があるように思える。銀髪の少女は一歩前に出ながら腕を後ろに組んだまま、鋭い瞳でただ一言簡潔に述べた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

とだけ。あまりにも簡潔すぎるそれに、先程まで大騒ぎしていた女子達も困惑したように黙りこんでいる。改めて声を聞いて思う、彼女は本当に強いと。言葉に含まれる覇気のような物を感じ取ったカミツレは、自然と考えてしまった。真耶との訓練を続けて早二ヶ月ほど、身体もトレーニングの効果からか引き締まりやや腹筋も割れてきた頃。正確ではないが相手の強さを計れるようになっていた、強いか弱いか程度だが、それでも分かるだけの経験を積んできたという事になるのだろうと解釈をしている。そんな中、ラウラはツカツカと一夏の元へと歩いて行った。

 

「……お前が教官の弟か」

「お、おう。そうだけど……」

 

暢気していた一夏も流石にラウラの纏っているオーラに威圧されたのか、ややどもりながら見つめてくるラウラをみる。傍からみて明らかにラウラが押していると分かる。自分の実力を完全に把握した上での得ている自信が、オーラとなって溢れ出ているのだろう。真の強者にしか出来ないオーラに完全に押されている一夏を見てラウラは鼻を鳴らしてから言った。

 

「私は貴様を認めん、お前があの人の弟であるなどとな」

「ハッ―――えっ?」

 

いきなりの事に困惑した一夏は、それに反応出来なかった。そしてラウラはすたすたと歩き今度はカミツレの元へとやってきた。

 

「杉山 カミツレだな」

「……そうだが」

 

一夏の時と同じように、オーラで押すかのようにしてくるラウラ。それに負けじと真正面から見つめ返すカミツレ。過去に千冬が代わりに訓練を見てくれた時に一度だけと称して千冬と打ち合いをしたが、その時の威圧感に比べれば楽な物だった。流石に肌を日本刀で突き刺すような威圧感を放つ千冬と比べるのはいけないとは思うが、兎に角カミツレは気押されずに見つめ返す。刹那の静寂、ラウラは口元に笑みを浮かべると成程と呟きながらそっと、手を差し出した。

 

「如何やら、報告以上の男のようだな。ラウラ・ボーデヴィッヒだ、迷惑を掛けたな」

「ああ全くだ……それとクラスの皆にも言えよ?」

「ああ、確かに失礼だったな」

 

カミツレとの握手をするとラウラは振り返り、先ほどは失礼したと詫びながらどんな挨拶をして良いのか分からなかった。質問があるなら応えるから、聞きに来て欲しいと答えてから空いている席へと向かって行った。思わず肩から力が抜け、ちらりと千冬の方を見ると彼女はバレないように胃を抑えていた。如何やらこのIS学園に平穏というのは訪れる事はないらしい。


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