IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第240話 特別編5:その6

「んじゃそろそろ行ってくるか……」

「あれっもう行くの?随分早くない?」

「今日も政府の小僧が来やがるんだ、いっちょ今日もストレス解消代わりに怒鳴りつけてやる」

 

と朝食の席で味噌汁を飲み干した白鯨は近くにあった鞄を担ぎながら出掛ける準備を始めていた。どうやら今日も日本政府から人間が来るらしく、交渉という名の罵倒会合が始まろうとしている。最初こそ本当にしつこいと思っていたが最近では文句や愚痴などを込めて怒鳴る事でストレスの解消代わりにしているという。それを受ける政府の人間も災難だが、それはカミツレを研究所送りにしようとした元政府関係者に文句を言って貰いたい。

 

「いっその事、俺が着いて行ってガツンと言おうか?流石にしつこ過ぎるし」

「何気にすんな。お前はまだ戻ったら苦労する事になるんだから今のうちに身体を休めておけ、どうせこの帰省中しかゆっくり出来ないんだ。後こっちになんかきやがったら一海、リチャードの奴に連絡しろよ。なんかあったらお前がぶっ飛ばせ」

「分かってるって爺ちゃん、俺だって無駄に農作業で身体を鍛える訳じゃないんだからさ」

 

やや物騒な話をしながらも白鯨は孫の身体に気を遣いながらそのまま出掛けて行った、途中で気を付けてと声を掛けると白鯨は、まだお前に心配されるほど衰えちゃいねぇよっと腕を上げて返しながら会合に向かっていくのであった。白鯨の年齢的に腰が曲がっていたりしていても可笑しく無いのに、若い頃から鍛え続けていたことも影響してか未だに屈強な身体を維持し続けている。カミツレは白鯨ならギネスに乗る位楽勝なんじゃないかと思いながら戻って朝食の続きをするのであった。

 

「カミツレ今日は如何するんだ?」

「う~ん……出来る事ならこの辺りを散歩したいけど、警備の事とか考えるとやめといた方が良いと思うから大人しく部屋にいるさ」

「そっか、久しぶりに帰って来たのにその辺り歩けないってのもいやな話だな」

「しょうがねぇよ。寧ろこうして帰省出来た事だって相当無茶な事なんだから、この程度の事は許容しないと」

 

安全が保障されているIS学園とその周辺地域なら兎も角、此処ではそれがなく何時他国からの介入や強襲が行われるのかも分からない。そんな場所に行く事自体が彼の身を危うくしてしまう事に繋がってしまう事で本来は許可されないはずだった、が、真耶を始めとし、ヨランド、リチャード、千冬、そしてイギリス政府からの申し入れが出され、かなりの条件付でなんとか許可されたのである。今回の護衛も全責任をリチャードとイギリス政府が負う形となっている。故にカミツレも下手に動かないようにしている。

 

「まあそりゃそうだよな……リチャードの旦那とかは気にしなくていいとか行ってくれたけど、俺達の為にやってくれてるんだからな。下手に動かないのが一番か……」

「それなら農作業とかも含まれるんじゃねって少し思ったわ今」

「作業は良いんだよ、旦那が自ら選出したメンバーと一緒に耕してんだ。すげぇんだぜ、米俵を4つ纏めて担いで走れるんだぜ全員」

「それマジですげぇ。お爺ちゃんはもっと凄いけど」

「爺ちゃんと比較すんな」

 

そんなこんなで仕事中のかずみんの安全も万全という事が分かって一安心、最後に昨日の残りのタコの刺身を平らげるとカミツレは食器を愛理の所に持って行き一緒に洗って行く。そしてそれらが終わるとかずみんは外で待っていた三羽烏と共に農作業へと出発して行き、それらを見送るとリビングでTVを付けながら新聞に目を通して番組を確認しながら最近の情勢に付いて見ていく。

 

「(なんか、平和だなぁ……)」

 

学園に行くまで平然と味わっていたはずの平穏な日々、今ではそれを手にする為に努力しているのだから人生分からないものだ。今こうして味わっている平和も自分の努力と誰かの助けがなければ楽しめない……本当に変わってしまったと思いながら新聞を読み進めて行く中で、TVが妙に騒がしくなって来た。

 

『今回のテーマは何故杉山 カミツレ君は日本ではなくイギリスの代表候補生になったのか!?という物です。今現在話題沸騰中の杉山 カミツレ君ですが彼はイギリスの代表候補になる事を表明しており、それは雑誌「インフィニット・ストライプス」でも本人が認めており、イギリス政府も事実だと公表を―――』

「……母さん?」

 

付けられていたTVでは天気予報をやっていたがその時間も過ぎて、ニュースでは様々なタレントを集めた討論的な内容に変わっていた。その議題はカミツレの事だった、今までこういう事には目を向けてこなかったから見てみようかと思っていたのだが、愛理がそれを消した。

 

「好きなように言わせておいて貴方はそれを無視すればいいの、貴方は貴方が進む未来を行くの。流言飛語なんて言わせておけばいい、私達が真実を知っているんだから」

「……うん、そうだね母さん」

 

愛理はカミツレの隣に腰掛けながらそっと愛する息子を抱き締める。IS学園に行ってから心配で堪らず悪夢ばかり見ていた、でも今は違う。愛する我が子が腕の中にいる……それだけで愛理は幸せだった。

 

「カミツレ……暫くこうさせてね……甘えん坊なお母さんを、許して頂戴ね……」

「母さんが甘えん坊なのは昔から知ってるさ、大丈夫好きにしていいよ」

「ありがとう……」

 

愛理はそのまま深くカミツレを抱きしめたまま、目を閉じて愛する我が子の体温をいっぱいに感じていた。胸にわいてくる安心感と心地よさ、それらが愛理を解かしていくよう。カミツレが新聞を読み終わる頃には愛理は穏やかな寝息を立てながら眠りに付いていた。それを見て溜息を吐きつつも母を寝かせてあげながら母の頭を膝の上に置いてあげる。

 

「こうした方が、母さんは寝易いだろうな」

「んんっ~……えへへへっもう食べられないっ~……♪」

「なんつぅ古典的な寝言……」




尚、TVの中でカミツレを裏切り者、売国奴、イギリスに尻尾を振った愚かな男と侮辱した女尊男卑派のタレントが数名いたのだが、その日中に所属事務所が潰れるという怪奇が起きるのだが、それはまた別の話。

「不思議な事もあるよねぇ、なにか―――天災(・・)にでも巻き込まれたのかなぁ(棒)」
『いやぁ本当に物騒ですよねお母様(笑)』

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