「全員揃っているな」
千冬の号令が下ると共に静寂が辺りを支配する。静かに向けられる眼差しの圧力に耐えられる者はそうはない、一部の人間は楽勝で耐えてウィンクを返すぐらい楽勝だろうが……兎に角千冬の言葉と共に先程まで喋っていた生徒達が静まり返った。静けさが目立つほどの物に千冬はよしっと小さく言葉と零しながら改めて言葉を作り直す。
「これより2学年全員は校外学習へと出発する、諸君らは去年も体験しているだろうが全員がIS学園としての自覚を持って行動を心がけるように留意するように。これより1組から順に埠頭に停泊している船へと乗り込み目的地へと向かっていく、くれぐれも粗相を起こしてくれるなよ」
「では1組から早速出発して頂戴、キビキビお願いね」
とナターシャの言葉を受けて先頭に立っていたクラス代表であるカミツレが真耶の先導の後に続いて歩き出していく。グラウンドから海岸線へと続く道へと入って行き、早朝のランニングコースでもある埠頭へと入っていくと巨大な船が停泊していた。超大型の客船とも言うべき船はまるで豪華な客船のような出で立ちをしている。そしてそこから伸びているタラップを伝って客船へと次々と乗り込んでいく、順調に全員が乗り込んで行き、2学年全員が乗り込んだのが確認されるとタラップが格納されていく。
「よし、全員まもなくこの船は出航する。目的地に着くまで数時間の船旅という事になるが、基本的には自由行動とする。各自割り当てられた部屋で荷物を下ろして好きに過ごして構わんが面倒だけは起こすなよ」
『分かりましたっ!!!』
「よし良い返事だ。さてと……では―――」
千冬が解散と言おうとした時の事であった、低く唸りを上げるかのような汽笛がなった。巨大な船だけあってかなり立派な汽笛なのだが……途中から妙にリズムを取るになり、最後にはカエルの歌のメロディになっていた。思わず全員がなんだこれ……と思っている中、アナウンスが響いた。
『えっ~本日は大型客船"因幡の白兎"へのご乗船、真に有難うございます。当船はこれより出航致します、数時間の穏やかな海の旅をご存分にお楽しみにください。尚、途中で嵐に遭遇したら全力で突っ切るのでご安心くださいね♪』
「安心出来ねぇだろそれ!!?そこは避けろよ!!?」
と思わずツッコミを入れる一夏、だがまあ言いたい事は分かるし普通なら避けるべき物だろうと思うのも無理はない。だがこの船の開発者というか持ち主の事を知っている者達はまあこの船なら大丈夫だろうと、という謎の安心感と信頼によって普通に突っ切れるだろうと思うのであった。そうこう言っているうちに船は出航し、大海原へと繰り出して行くのであった。
「なんか俺凄い不安だぞ……本当にこの船大丈夫なのか?というか、そんな船で行く実習先も確りした場所なんだよな……?」
「そこら辺は大丈夫だろ。千冬さんとかが確りチェックした上で決めてるんだから」
「ま、まあそりゃそうだろうけどよ……ああもういいや、考えるの辞めるわ」
と出航した船の大ホールから自分達へと割り当てられた部屋へと移動しているカミツレと一夏、途中本当にこの船というよりもこれから行く先に対する不安を募らせるが、まあその不安はある意味で的中しているのだから性質が悪い。カミツレは束の事を信頼しているので別段心配していない。尚、目的地がまともであるという心配はもう胃に悪いので考えないようにした。
「なぁカミツレ、この船の探検に行かないか?」
「やめとけ。お前のことだから迷子になって助けを求めるまでがテンプレだ、俺はそんな面倒引き受けたくねぇ」
「ひっでぇっ……」
と言っている間にお互いに部屋に到着したのか中へと入っていく。カミツレも一夏も完全な個人用個室で完璧なセキュリティが施されており、許可がなければ本人達以外が中に入る事すら不可能。そのセキュリティはコア・ネットワークによって管理されているので、クラッキングして突破なんて事は不可能。何せ超級のAIが約500人で管理しているのだから……。荷物を下ろしながらベットに腰掛けるとカミツレは一息ついた。
「カチドキ、この船も束さん製なんだよな」
『当然。メイドインお母様です、新開発されたメインリアクターと相転移エンジンの併用で動いています。加えてPICと反重力装置が試験的に搭載されております』
「おい待て、この船んな物積んでるのか」
『はい。故にいざという時は飛行も可能になっております、SEも装備されておりますのでアナウンスの通り嵐を突っ切る事も造作ありません』
カチドキの説明に思わず言葉を失ってしまった。つまりこの船はスクリューで動いている訳ではなく、海面から浮いたまま航行を行っているという事らしい。なのでよっぽどな事がなければ周囲の環境の影響により遅延なんて事はありえないとの事。
「この船も……普通に全世界が喉から手を伸ばすレベルでやばい技術の結晶って訳か……」
『YES.他にも様々な機能を搭載していますが、まあそれはお披露目する事はないでしょうね』
「そうしてくれ……」
束の婚約者としてはこれからはこんな風に出てくるであろうオーバーテクノロジーの秘匿やらに奔走しなければいけない日が来るのだろうかと思わず考えてしまうカミツレであった。
「お~いカミツレすげぇこの船!!映画館にゲームセンター、ボーリング場にネットルームにマッサージルームとかまで完備してんぞなんだこの船!!?」
「……なんだろう、驚きたいと思っても驚けない自分がいるぞ」
『お気持ちお察しします』
私「これもう船じゃねぇだろ」
妻「大丈夫ですわ、どこぞの大天使には温泉があるんですから」
私「規模が違いすぎるわ!!!張り切りすぎだろあの大天災!!?」
束「張り切っちゃった♪」