IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第29話

「織斑先生、俺への用って……また弟子になれとかですか?」

「おっ真面目に考えてくれたか」

「……」

「だから、そんな目をするのは止めろ……最早定番のギャグだろう」

 

ラウラからの衝撃的なカミングアウトを受けたカミツレは、頭を悩ませながら学園生活を送っていた。あの翌日、ラウラがスカウトについての事を詳細に記載した書面を渡してきた事で、更に頭を悩ませる事となっている。これに大きく反発というか、反応したのはセシリアである。非公式ではあるが、既にカミツレにアクションを起こしている身としては許せる物ではなく、近日中にイギリスから正式なスカウトが来ると言われた。そんな日々を送っていた土曜日、千冬に呼び出しを受け、千冬の教員室を訪れた。

 

「用と言ってもそこまでの事ではない。以前事情聴取の時、学園長より褒賞が送られるという話をしただろ」

「ああ、ありましたね。完全に忘れてましたよ、期待して待ってるって言ってたのに」

「それで私から渡すように頼まれてな……それを今日、お前に渡す事になった」

「いよいよですか」

 

期待しててくれと、学園長直々と言われてはいたが一体何が貰えるのだろうか……。余り重い物は勘弁願いたいのだが……。千冬は部屋の隅にある金庫に鍵とPASSを入力し、中から幾つかのファイルを取り出し、再び座る。そして、ファイルからまずは封筒を取り出しそれを差し出した。

 

「まずはこれだ、開けてみろ」

「はっはい。では遠慮なく……」

 

学園で無料配布されている封筒よりも、何処か豪華そうな印象を受ける封筒。少々緊張した面持ちで封を開けてみると、中に入っていたのはなんと小切手であった。しかもそこに書かれた金額は…100万であった。

 

「こ、小切手ぇぇ!!?しかも、100万んんんっっ!!?いやいやいや、なんでこんな大金!?」

「何を言う。お前は自らの危険があるのにも関わらず、アリーナに突入し撃破に貢献した。それに寄って多くの命が、危険から救われたのだぞ。私から見れば少なすぎるぞ。まあ学園の予算も限度があるだろうから、余り無理は言えんか……」

 

千冬は100万という額に随分と不満そうであった。実際はもっと渡すべきなのだろうが、アリーナの修繕や各種警備強化、システムの再構築などで資金が飛んでしまっているのでこの金額らしい。小市民であったカミツレにとっては、5万で十分すぎる大金なのに、その20倍という金が自分の物になる。それだけで頭が痛くなってくる。一体何に使えば……取り合えず、実家に70は送金するとしよう。

 

「まあ、自分を労って豪勢な料理でも食えばいい。お前は普段から努力している、そのご褒美として何かを買ってもいいだろう」

「ハァ……まあ適当に考えておきます。後、料理の方は自分で作った方が美味いので」

「確かにな、お前から貰った料理は実に美味かった。あの翌日は、胃の調子が良かったぞ」

 

千冬も千冬でカミツレの料理の腕を理解しているのか、彼の言葉に同意を示す。彼の料理は味よし、健康によしな料理。自分に差し入れてくれた白菜とジャガイモと豆腐の炒め物、トマトのチーズ焼きは実に美味、しかも荒れた胃でも優しく受け止められたよい料理であった。又作って欲しいとお願いする千冬に、カミツレは勿論と返す。

 

「そして次だが…カミツレ、お前に対して専用機の開発が決定された」

「専用機って……俺にはカチドキがいますよ?」

「いや、お前の勝鬨は、言い難いのだが……織斑の方が価値があると判断されてしまったからで、な…」

 

千冬は本当に言い難そうにしながら口を開く、入学当初のあの時は一夏の方が重要だという評価が大きく、カミツレは直にでも研究所に送るべきだ、そんな意見が政府から多くあったのは事実。それを露骨に表現したのが、一夏に与えられた白式と、カミツレに与えられた勝鬨なのである。第三世代と第二世代という大きな世代の差は向けられている物の差でもあった。しかし、それを覆したのがカミツレの必死の努力であった。

 

「だが、お前は必死に努力して来た。真耶に弟子入りし、自分の身を守る為に……そしてその努力の末に、オルコットと引き分ける大戦果を上げた。そして対抗戦では、あの活躍だ」

「随分と、政府は掌返しが早いですね」

「私もそう思う。そして、日本政府はオルコットとの対決でお前が負けた場合、研究所へと送るつもりだったらしい……しかも、私はそれに安心感を……!!」

 

それを言い放った千冬は、思わず目の前のテーブルへと拳を振り下ろしてしまった。政府への怒りも確かにあったが、同時に弟ではなくて良かったという安心を得てしまった自分が、途轍もなく嫌になった。何故、そんな簡単に目の前の少年を、理不尽に人生を狂わされた少年を見捨てられる考えを持ったのか。心から自分が嫌いになりそうだった…自分という存在や束と知り会えている、たったそれだけの違いしかない少年を……。

 

「千冬さん…もう、良いですよ。政府は何時だって勝手な物ですよ、それがまた勝手にやったってだけです。だから、千冬さんも自分を責めないでください。家族を守りたいと思うのは当然ですよ」

「……ああ、すまない本当に、ありがとう…お前は優しいな……」

「お爺ちゃんが言ってましたから。『葛藤し苦しむ人には優しさを差し向け、立ち上がる手伝いをしてあげなさい』って」

「立派な御爺様だな……すまない、話が大分それてしまった」

 

何処か心に刺さっていた楔が消えたからか、晴れやかな顔を向けた千冬は資料を取り出しながら口を開く。

 

「それで今更、お前に対する専用機開発を決定した日本政府だがな……これには世界各国から、反対の声が多くてな」

「えっ?」

「既に日本は一夏のISを開発している。だから、お前のISは此方で作らせろという声が多かったのだ」

「えっと、それで俺に如何しろと……?」

「うむ。それで各国で色々言いあったらしいのだが……お前に決めて欲しいとの事だ」

「つまり丸投げ?」

「……そう言う事になるな」

 

言葉を失ったというよりも呆れて何も言えなくなったのか、カミツレは頭を抱えてしまった。

 

「まあ困る気持ちも分かるが……専用機を製作して貰えるのだから、悪くはないと思うが」

「ええっ…今だって困る事抱えてるのに、また、追加ですか…勘弁してくださいよ、織斑先生……」

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