「げ、げふぅ……ぜ、全部食べ切ってやったぜ……」
「こっちに来てから作業量増えて食う量増えたはずなのに……は、腹がはち切れそうだぜ……」
テーブルに前のめりに倒れ込んだカミツレとかずみんの兄弟、その周辺には高く積み上げられている皿があった。その近くには同じように満腹な状態でいるセシリアらのカミツレの婚約者達が居る、唯一千冬だけはまともなそうな表情をしているのだがそれでもアレだけの量を食べた自分を内心で褒めていた。当然一夏もカミツレと同じように倒れ伏していたが、内心ではレシピやらを絶対に教わろうと決心を固めている辺り流石主夫である。
「ど、どれも絶品でしたので食べるのは苦ではありませんでしたわ……で、ですが」
「そ、そうね……本当に美味しかった物ね、でもあの量は流石に……もう何も入らないわアタシ……」
受け取っていたお茶を少しずつ飲んでいるセシリアは普段どうりの優雅さを出そうとしているが表情からは料理の量やそれらを食べ切った自分の状態から来る物でやや汗が滲み出していた。代表候補生という事もあって二人はそれなりに運動もすればISの訓練などで体力を多く消費する立場にあるので、一般的な同年代に比べれば食べる方ではあるのだがそんな彼女らすら圧倒する愛理の作った料理の量は正しく圧倒的であったのである。
「やれやれ…愛理さんにも困ったものだな。学園に来たときも多少なりとも自由な方だと思っていたがまさか此処までだとは思わなかった」
「俺は知ってたけど、流石にこれはやばい……暫くマジで動けねぇよこれ……」
「私もだな、ここまで満腹になる経験など中々出来んぞ」
千冬は千冬である程度マシな顔をしているがそれでも汗がにじみ出ている辺り、無理をして食べたというところだろう。あんなに嬉しそうな表情で拵えた愛理の料理を残すという選択肢をとれずに流されるままに食べていた、ある意味で恐ろしさを感じるというところだろうか。
「さてと……母さんは作業中の連中に飯を届けに行った事だし皆は如何するよ。俺は腹ごなしに出てくるけど」
「わりぃけど暫くは動ける気がしねぇからのんびりさせて貰うわ……」
「そっか、まあのんびりしてろや。皆もゆっくりしててくれよな」
そう言って重くなった身体を持ち上げるとそのままリビングから出て行ていくかずみん、きっと兄の事だからあんな事を言いながら作業の再開をしに行くのだろう。
「さてと……俺らはマジで如何しようか」
「取り敢えず身体を動かすこと以外で頼むぜ……冗談抜きで身体がおっもい……」
そういう一夏の言葉に大体皆同意見だった。愛理が作った料理の量は満漢全席を越えるほどの量だった、それらを食べるのはかなりきつかったのだから動けなくなるのも無理はないだろう。
「そ、それにしても愛理さんは本当にカミツレさんを愛されている方なのですね」
「そうだな。アレほどまでの笑顔と嬉しそうな顔を私達が居るのにも関わらず向ける程で頬ずりしながら抱きつくレベルだからな」
「ありゃ一種の依存なんじゃないかって微妙に不安になってますけどね俺は」
恐らく普通の親ばかを完全に凌駕しているだろう愛理の愛情にカミツレも多少なりとも困っている。幼い頃はアレが普通だと思っていたので友達を家に招いた時も普通に抱き着いてきた母、友達の家に行った時には友達の母親はそんな事していなかったのでもしかして不仲なのかと心配して兄と祖父に相談して漸く母の愛情がある意味で過剰であると知った少年時代がカミツレにあったりする。
「まあ覚悟しとけ一夏、その内てめぇにもあれが向けられるようになるから」
「それは喜んどいて良いのか、それとも少し遠慮したいと思っておいた方が良いのか」
「両方だろ」
ですよね~……と若干力なさげに答える一夏に周囲から軽い笑いが漏れるのだが、正式にカミツレと結婚したときには恐らく自分達にもそれが向けられるのだろうなと思うと余り笑えないような気がしてならない婚約者の皆様であった。因みに束はこれに既に適応している、流石である。
「だがまあ、喜んで良いと思うぞ一夏。私達が母と呼べる人になってくれるのだからな、その気持ちには素直に甘えさせて貰おうではないか」
「まあそうだけどさ……ぶっちゃけ千冬姉は甘えられるんのかよ愛理さんっつうか母さんに」
「……すまんカミツレ、これから甘えさせて貰う練習をさせてくれ」
「何時も隙あれば甘えてくる人が何言ってんすか」
と思わず真顔で答えてしまうカミツレに千冬はセシリアと乱から鋭い視線を投げ掛けられてしまって思わず目を反らすのであったが、そこへ一夏とマドカからの追い討ちの視線を受けて小さくなって縮こまるのであった。今の彼女を見たら本当に世界を征した戦乙女とは思えないレベルで小さくなっている。
「千冬さん……私達の婚約者同盟条約を違反しておりましたの……?」
「教師という立場を悪用して頻繁にカミツレさんに甘えに行っていた……?へぇっ……」
「千冬姉さ、IS学園の教師ってすげぇ大変でストレス溜まるの分かるけどさ……カミツレだって色々大変なんだし大人なんだからもうちょい自重した方が良いんじゃね」
「ドン引きだ」
「ぐ、ぐふぅ……カ、カミツレ皆が苛めるのだ……」
「あ~はいはい、よしよし」
そう言ってカミツレに擦り寄って頭を撫でて貰う千冬だが、カミツレの言葉には一切力がない完全な棒読みでこれで慰めて貰って開き直ってやろうという気持ちが完全に失せて千冬は更に小さくなった。もうそこには嘗ての世界最強の姿の欠片も無い一人の女の姿があったのである。
「すいませんでした……責任ある大人としてもっと確りとした行動を取るようにします……」
私「オチ担当千冬さん」
妻「なんですかこの負けたらオチ担当な感じは……」
私「まあ実際なんか負けてるし」
妻「もうキャラの原型ないですね」
私「良いんだよ千冬さんだってこの位の方が人間味あっていい感じだから。だって原作は冗談抜きで鉄の女じゃん」
妻「否定はしませんけど……ラウるというワードを作った人がそれ言っちゃ駄目でしょうに」
私「マジで止めてくれ、本当にアレは私の罪だから」