IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第298話

千冬を若干苛めてしまった後にカミツレは多少なりともフォローを入れる事にした。確かに千冬は少々甘えすぎな所もあるだろうが、なんだかんだで一番世話になっているのは千冬なのは確かだし自分が何かしらあったら一番対処をしてくれるのは千冬だったのだから今回はそれで相殺してあげようと申し出ると、セシリアも乱もそれを持ち出されたら何も言えなくなるからずるいと言いながら追求を取りやめるのであった。協定違反ではあるが教員である千冬に掛かっている負担は一番なのだからこの位は大目に見てあげるべきなのかもしれないということでこの場は収まるのであった。

 

その後は取り敢えず適当な話やらこのイギリスでどのように過ごすのかという話へとシフトして行くのであった。観光なども考えられたが、その場合は政府に願い出て護衛などの手続き必要になってくるのでそれらは却下しつつ基本的にファーム内で過ごす方針で決定した。かずみんが置いて行った新ファームのパンフレットを見てみるとどうやら超本格的に酪農などにも手を出しており、馬なども飼育しているらしい。

 

「あっポニーや馬の乗馬までやってるんだ。アタシこれやってみたいかも」

「馬か……なんか昔小学校の行事かなんかでポニー乗った時はすげぇ揺れて怖かった記憶あるけど大丈夫かな」

「一兄貴なら大丈夫だろう、もっとじゃじゃ馬な専用機に乗っているんだ」

「ほうっファーム内の移動にも馬を使用する事も出来るのか……」

「千冬さんが馬に乗られたら完全に騎士ですわね、鎧と剣がセットなら名実共に戦乙女ですわ」

「おいセシリア、私がカミツレに甘えていた事を実は根に持ってるだろ」

「持ってないとお思いで?」

「……正直すまなかった」

 

笑顔を作りながらも迫力満点なセシリアに思わず千冬も降伏してしまった。形式上ではセシリアがカミツレの本妻であるのだが……そんな自分を差し置いて教師という立場を利用してイチャイチャされていたなんて分かれば流石に来る物があるのだろう。

 

「やれやれセシリアその辺りにしてあげてくれよ」

「分かっておりますわ、もうこれ以上は言いません」

「偶にセシリアって凄い怖くなるのよねぇ……」

「うんホントだよな。文化祭の時はマジで怖かったわ」

「普通に私も怖かった」

 

そんな風に会話をしている時の事であった。気付けば時間は夕方になった頃に玄関から鍵を開ける音がして扉が開けられて帰ったぞという声が聞こえてくる。カミツレは誰が帰って来たのかを理解しながらもそちらに顔を向けているとリビングに入ってきた白鯨と顔を会わせた。

 

「お帰りお爺ちゃん」

「おう帰ったぞカミツレ、おめぇもよく帰って来たな―――しかも今回は凄い別嬪を大勢連れてきやがったな」

 

白鯨は孫の帰宅に笑みを作りながらリビングでくつろいでいる皆へと視線を巡らせた。セシリアと乱とは顔を会わせているが千冬と一夏とは初の顔合わせだった。思わず一夏は姿勢を正して正座してしまい、千冬は白鯨の老人とは思えぬ程に鍛えられている肉体と纏っているオーラに少し汗を浮かべてしまった。

 

「お久しぶりです白鯨お爺様。この度はカミツレさんとご一緒に来る事が出来ました」

「やっほっ白鯨さんっ!!乱ちゃんも来ちゃいました!!」

「おうよく来たな。セシリアに乱も今回は長くいんだろ、この前は挨拶だけだったからな。ゆっくりしてけ」

 

まずは以前の挨拶で知っている二人に言葉を送った後に腰を落ち着けると一夏へと顔を向けた。

 

「よぉおめぇが織斑 一夏か。うちの孫が随分世話になったらしいな」

「い、いえその……寧ろ俺の方が色々と面倒を掛けちゃって、その度にお世話になってて助けられたりで……そ、そのえっと……」

 

一夏は白鯨に矛先を向けられて気が気ではなかった。以前カミツレが自分がISを動かしてしまったせいで巻き込まれたと感じていると思っている事を聞いており、それで恨まれていた事も承知している。当人同士は和解しているがその家族とはどうなるのかと冷や冷やしている。加えて白鯨から睨みを利かされている今は冷や汗と脂汗が出まくっていて殴られる事も覚悟していた。だがそんな覚悟に反して彼は口角を上げながら笑った。

 

「何、おめぇもこれからは俺の孫よ。気にする事なんかねぇ、よくよく考えてみればおめぇだって被害者みてぇなもんだからな。仲良くしようぜ一夏」

「は、はい……白鯨、さん……」

「おいおいっさん付けなんて済んじゃねぇよ他人行儀だな、カミツレ(こいつ)みたいに爺ちゃんでも良いぞ」

「は、はははっそ、そのうちに……」

 

取り敢えずほっとする一夏だが、恐らく自分が白鯨に強く出られる事は絶対にないなと悟りながらも今度来る時はお前の嫁を連れて来いという言葉を即答でYESで返すのであった。一夏がホッと胸を撫で下ろしながらも今度は千冬が喉を鳴らした、それは白鯨の視線を受けたから。

 

「織斑 千冬さんだったか。うちの孫に色々と便宜を図って貰ってるらしいじゃねぇか」

「いえ教師として当然の事をしているだけです。学園側としても彼と一夏には十分なサポートの体制を敷くべきだと準備がされていました」

 

千冬は思わず表情に力を入れながらそう答えてしまった、自分でも何をやっているんだと想えてしまうが全ては目の前のカミツレの祖父の威圧感によって引き起こされている。現役当時、ヨランドとの試合を思い出されるかのような気持ちの作り方。今までこれほどまでに強いと想わされる男は初めてだろう。そんな千冬を見た白鯨は笑いながら少し意地悪な事を言う。

 

「そんなに俺は構えないと相手に出来ねぇか」

「……正直な事を言いますと私は貴方ほどに強さを感じさせるほどの男を見た事がありません」

「ほほう。戦乙女にそう言われるとは俺も捨てたもんじゃねぇみてぇだな」

 

白鯨は一瞬表情を険しくして見せた。唯表情を軽く変えただけな筈なのに、千冬は一瞬体が動かなくなったような気がしたがそれを打ち破るかのように強く視線を返す。それだけでも相当なエネルギーを使ったような気がする。それを受けると一段と大きな笑い声を上げた。

 

「成程な。流石は俺の孫だ、良い女を嫁にしたな!安心してカミツレを預けられるぜ」

「そのように言っていただけると、私も嬉しい限りです……」

「おうそんな硬くなるな。今日の夕飯は愛理の奴が豪勢にするって言ってたからな、千冬お前酒は行ける口か」

 

そう尋ねられると千冬は漸く身体から力を抜いてドヤ顔を作りながら当然と答えて返しながら、飲む時は一升瓶を簡単に空にすると豪語する。それに口角を上げる白鯨は笑いながらそりゃ結構だと言った。

 

「やれやれ……白鯨さんはとんでもないな……」

「まあお爺ちゃんですから。あれでも優しくて頼りになるんですよ?」

「そりゃなるだろうな……」




妻「千冬さんを威圧する老人とは一体……」

私「元ネタ的にはある意味正解だと思ってるよ」

妻「覇王色の覇気でも放ってるんですかねぇ……」

私「でも千冬さんも出せそうじゃね?」

妻「なんでしょう、普通に納得出来そうになる千冬さんって何なんですか」

私「何なんだろうね、本当に」

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