「それでは本日の補習授業は終わりにしましょうか」
「有難う御座いました、山田先生。すいません態々」
「いえいえ大丈夫ですよ、私先生ですし!どんどん頼っちゃってください!」
日も暮れ始めた夕暮れ時、その日は午前中に終了した放課後にカミツレはその日の内に依頼していた補習授業を真耶から受けていた。これから約3年間関わって行かなければいけないISについて自分はまだまだ知識不足としか言いようがないが自分で幾ら努力した所で限界がある。それを解決するために真耶に頭を下げ放課後の補習授業を頼んだ所、快く引き受けてくれた。そもそも男子生徒に対する補習授業は本人が希望すればすんなりとおるように調整がされているらしく寧ろ頼んできてくれて嬉しいと彼女は語っている。
「普通の男性はそこまでISに関する知識は無いと思いますので教師陣でなんとかフォローするようにと学園長から言い渡されてるんですよ」
「へぇ……てっきり俺は忙しいから駄目とか土下座でもしないと教えないとか言われないか冷や冷やしてましたよ」
それを聞いた真耶は少々驚きつつもISが普及した事で広まってしまっている女尊男卑の事を思い、ああっとある程度の納得を示す息を吐いた。
「確かにそう考えても可笑しくはありませんね。でも私達は教師です、教師に求められるのは生徒を導くに相応しい心と考え方なんです。これは代表候補生も同じなんですが基本的に女尊男卑の思想がある人は弾かれちゃうんですよ。だから安心して先生を頼ってくださいね」
「それを聞いて安心しました、これからもお世話を掛けるかもしれませんが宜しくお願いします」
丁寧に頭を下げるカミツレに思わず顔を赤くしながら照れる真耶、心から嬉しそうにしている彼女に世の中こんな人ばかりならいいのになぁと思わず思ってしまう。
「あっ他にも何かありますか?何でも言ってください力になりますよ!!」
「あっえっと……それじゃあ幾つか良いですか?」
「ハイ勿論言ってください!!」
眩しいほどに輝いている笑顔を向けてくる真耶、恐らく心から教師になりたいと思ってなったのだろう。誰かに教えたり頼られるのが好きなのだろう、先生に向いているのは誰かの為に力になりたいと思える人なのだろうと思うカミツレであった。
「それじゃあ、IS学園の訓練機は予約制なんですよね。それの予約をお願いしたいんですけど……」
「ああ、それなら大丈夫ですよ?実はIS学園の訓練機の内一機を杉山君の専用機にするようにと言われてますので、予約なんて必要ありませんよ」
「えっマジですか!?」
「はい大マジです」
これは正に嬉しい誤算とも言える。この場合の訓練機を専用機として使って良いというのは男性IS操縦者のデータを効率よくとるための処置だと思われるがそれでも構わない。本来予約制で自分の順番が来るまで使う事が出来ない筈の訓練機を自分の力として使えるのだから願っても無い申し出だ、存分に使わせて貰う事にしよう。
「それについては明日一緒に訓練機を見に行きましょう、訓練機には二種類ありますので両方に乗って見て決めましょう」
「はい分かりました、それと出来ればなんですけどISの操縦の方も見て貰えないですか?」
「勿論私なんかで良ければ!!実は実技って殆ど織斑先生の担当なので私もやりたくてうずうずしてたんです!!」
後日、真耶についてカミツレが調べた事によって判明した事だが実は真耶は日本の代表候補生にもなった事がありその時は惜しく代表就任を逃した物のその実力は国内外問わずに評価が高い。特に学生時代には『
「後その……この後俺って寮の部屋に行くじゃないですか」
「ええっそうですね、あっ御荷物なら御家族から預かってますよ?」
「いえその……一緒に部屋まで行ってもらえませんか?その、女子と相部屋なんですよね……?」
そう、このIS学園は寮制なのだが最大の問題は女子と相部屋になっているという点である。人数の関係や部屋割りの関係上出来るだけ早く一人部屋にするようにすると言っているがそれまでは女子と相部屋になるという辛い現実が待っている。それを聞いて真耶は察した、もしもこの後部屋に行った際に何か揉め事になるかもしれないので仲介役をして欲しいという事なのだろうと。それについても勿論と頷いた。
「あっそれなら織斑君の方にもそうしてあげたら良かったかもしれませんね……でも確か織斑君は幼馴染の篠ノ之さんですし多分大丈夫ですね」
「ある程度気がしれてるようで羨ましい…」
一方一夏はというと……
「天誅ぅぅぅぅっっ!!!」
「うわあああああやめろ箒ぃぃぃぃっっ!!?」
件の幼馴染、箒の木刀によって殺されかけていた。
「それにしても杉山君は偉いですね。初日に此処まで先生を頼りにして真面目に勉強とかこれからの事を考えてるんですから、もう感心しちゃいました」
「いえ、そうしないと俺はいけないんです。でないと……俺は」
その部屋に向かう途中、職員室に寄って荷物の詰まったバックを持ちながら廊下を歩いているカミツレに向かって真耶が言った。今までの生徒の誰よりも真面目で熱心で先生としてやり甲斐があると語っている、それは結構な事だが自分の場合は事情が異なってくる。熱心でなければならない、やらなければならない事を強いられてしまっている。決して自分で望んでいるからやっている訳ではないのだ。
「えっと何か不安でもあるんですか?これから上手くやっていけるかとか……大丈夫私も精一杯フォローしますから!!何でも相談して下さい、あっそうだこれ私の携帯のメールアドレスです。何かあったらメールしてください、相談でも不平不満でも何でもドンとこいです!」
「……有難うございます先生、素直に頼らせて貰いますね」
深く聞いて来なかった真耶に感謝を思いつつ気遣いが素直に有難かった、まさか此処まで生徒の為に精一杯な先生が現実に居るとは思いもしなかった……。馴染みの友達も家族も居ない学園に押し込まれると分かった時は心から絶望したが手を差し伸べてくれる人がいるのは本当に嬉しい誤算だ……。そんなやり取りをしていると目的の部屋へと到着した、ここが女子との相部屋になる部屋……何故か緊張して来た。数回ノックすると中から扉が開き相部屋となる女子生徒が顔を覗かせた……が其処に居たのは―――。
「はい何方で……山田先生にミスタ・杉山!?」
「ミ、ミス・オルコット!?」
「ええっとオルコットさん実は……」
そう相部屋となったのは同じクラスで代表候補生でもあるセシリア・オルコットであった。まさか彼女が相部屋の相手だとは思いもしなかった、これは本格的に真耶に付いてきて貰って正解だったかもしれない……。事情を説明されるとセシリアは少し考えるように無言になったが直ぐに顔を切り替えて笑顔で手を差し伸べてきた。
「事情は把握致しましたわ、少しの間ですが宜しくお願いいたしますわミスタ」
「此方こそご迷惑を掛けるかもしれませんけど宜しくお願いしますミス」
握手をする二人、教室でのやり取りのお陰かセシリアはカミツレに対してそれなりに友好的であった。それをみて安心した真耶は仲良くしてくださいねと言い残して去って行きカミツレはそのまま中へと入って行く。今まで学生寮という物を見た事が無かったが中は寮というよりもどちらかと言えばホテルの一室と言った方が近い内装をしていた。
「さて私はこちらのベッドを使いますのでミスタは其方の方を。後はシャワーの入る時間帯などを決めなけばいけませんわね」
「そうですね、トラブルを避ける為には必要な取り決めですね」
「ではそれを兼ねて……紅茶でもいかがでしょうか?」
「いいですね。頂きましょう」
この後セシリアと話しあいキッチリと取り決めを決めた後、勉強を見てもらう事が出来たカミツレ。セシリアの教え方はかなり論理的で筋道を精密に立てた物で少々分かりにくい所があるがゆっくりと咀嚼すればその一から二も三も得る事が出来る素晴らしい教え方で為になる事が分かり、カミツレは彼女と一緒になれて良かったかもしれないと安心した。