IS 苦難の中の力   作:魔女っ子アルト姫

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第306話 特別編6:その6

「よし、カチドキ今のデータを使って機体のセッティングの更新を頼む。今のが一番しっくり来る」

『了解しました。では今の状態でアップデートしますので30秒ほどお待ちください』

 

機体の組み上げが終了し箒はそれに乗り込んで細かな調整などを行う為に実際に乗って試運転を開始した。相手は完全に篠ノ之に調製されている機体なのだからこの位の事はさせて貰わないとと言った所、篠ノ之は自慢げに腕を組みながら早くしてくれと言いながらピットへと向かって行った。そちらがいきなり勝負を申し込んできたから態々それに合わせて準備をしているのだから変に機嫌を悪くしなくても良いのに、と思いながらも箒は臨時でパートナーとなったカチドキと連携しながら機体の調整を進めていく。

 

『箒ちゃんどうかな調子の方は』

「悪くは無いと言った所です。よく小回りも効きますし酷く使い易いです。矢張り下手にピーキーな物よりも使い易さが正義ですな」

『アッハハハハッ白式に対して手厳しいお言葉だねぇ』

「いやだって初心者にあれ使わせるとか普通に考えて狂気の沙汰でしょ」

 

と軽く織斑をディスりながらの調整、そしてそれらが終了するとカチドキが終わったと合図を出してくる。

 

『では箒、私の方は内部処理に集中しますから。向こうはコア人格と同調が一切出来ていないようですからその方がフェアでしょう』

「そうなのか。分かった、それにお前は義兄さんの相棒だ。態々私が力を貸して貰うなんておこがましいというものだ。また今度な」

『ええっでは箒、ご武運をお祈りしております』

 

そう言って声は聞こえなくなってくる。息を整えるがAIに武運を祈ると言われた事に対して何処か妙な気分になりながら目の前から飛び出してきたもう一人の自分へと意識を向ける。何処か「白式」にも「大将軍」似ているような印象を受けるISを纏っているもう一人の自分は妙に気取っていると言うか自信ありげな表情を浮かべている。

 

「随分と待たせたものだな」

「それは済まなかったが、それはお前がいきなり勝負しろとか言うからだろ。そもそも私が戦う気なんて皆無だったのに姉さんに無理を言って実現しているんだ、多少なりとも時間が掛かる事くらいは承知して欲しいものだ」

 

ジト目で見ている自分に篠ノ之は目を反らし、強引に話を変えながらもその手に剣を握り締める。それに合わせるかのように構えを取る。

 

「さあ立ち合おうではないか、私よっ!!」

「やれやれっ……それでは来るといい、相手をしてやろう」

 

両手に日本刀型の武装である空割と雨月を握り締めると篠ノ之は一気に距離を詰める様に突撃しながら距離があるにも拘らず突きと大振りの斬撃を繰り出した。しかし箒はすぐさまシールドで防御の体勢を固めると二つのシールドは刀から飛び出してきたレーザーを四散させながら箒を守った。そのまま突撃する篠ノ之はシールド目掛けて渾身の力を込めて振り下ろす。

 

「やああああッッ!!!」

「くっ!!」

 

それらを確かに受け止めるが流石は第四世代型の機体だけあって完璧に防いでいるにも拘らず、かなり強い衝撃が身体を襲ってくる。

 

「流石は第四世代型、というべき所か。中々のパワーだっ……!!」

「まだまだぁぁっっ!!!!」

 

篠ノ之は更に出力をあげながら相手を地面へと叩きつけようとスラスターを全開にする。流石に出力の差は大きいのか押されていく箒だが彼女は落ち着き払っていた、一夏との訓練でも見たような状況を体験している上にあれに比べたら何の理も無い唯の力押しに対抗するのは容易い事なのだ。シールドを支えている両腕に力を込める、そしてそれを押すのではなく流すかのように身体を回転させてこちらを押してくる勢いを全て流して篠ノ之からの猛チャージからあっさりと抜け出した。

 

「何っ!!?」

 

篠ノ之はそれに驚きつつも迫ってくる地面に焦って急制動を掛けながら方向転換をするが、直後にアサルトライフルの銃撃を浴びてしまう。素早くその手にライフルを握った箒は落ち着いた動きで弾丸を撃ち込んでいく。

 

「ちぃ煩わしい!!」

 

それらを振り切るかのように一気に出力上げていくが、箒はそれらのコースへと置くかのような見事な偏差射撃を行いながら篠ノ之へと弾丸を当てていく。

 

「なぜだっ!!?何故この速度で当てられる!!?」

「簡単だ、もっと凄い機動を知っているからだ」

 

それは当然カミツレの事である。カミツレの場合は機体が高出力なだけではなくヨランドに仕込まれた「稲妻軌道動作」と「個別連続瞬時加速」という技術が存在しているのでそれらに弾を当てる為にカミツレが取る進路を予測しなければならない。単純に速いだけならばその予測は容易い。

 

迫ってくる弾丸を刀で切り消しながら再度の接近を行う篠ノ之、それに合わせるかのようにライフルからブレードへ持ち変えた箒に笑いながら二本の刀で切りかかって行く。

 

「この私相手に近距離戦を選んだ事を後悔させてやる!!」

「それは私にも言えるんだが……まあ良いか。稽古を付けてやるから打ち込んで来い」

「抜かせっ!!」

 

力強く打ち込まれてくる刀、それを一本のブレードで迎え撃ちながら箒は落ち着き払いながら「紅椿」の二本の刀の特性を見切りながら的確な対処でそれらの攻撃を防御したり切り払っていく。そんな対処に篠ノ之は焦りが産まれ始めていた、機体の性能は間違いなく自分の方が上な筈。有利なのは確実な筈なのに押し込みきれない、攻め切る事が全く出来ずにいる。攻撃は尽く防御され、気迫を込めた一閃ですら軽く受け流される。

 

「何故だ、何故だ何故だっ!!!どうして勝てない!!!」

「なんだ分からないのか。単純だ、お前のISの使い方が下手くそなだけだ」

「何をっ……しまったっ!!」

 

一瞬の隙、二本の刀を同時に弾かれて出来てしまった自らの隙に箒は瞬時に意識を切り替えながら「瞬時加速」を発動させながらすれ違いざまに圧倒的な一閃を叩き込んだ。真空を巻き込んだ一閃は「紅椿」のSEを大きく削り絶対防御すら発動させて一気に枯渇させていく。篠ノ之が焦り故に空割と雨月のレーザーを放ち過ぎた事もあるがそれを差し引いたとしても今の斬撃が強かったのもある。

 

「グッ……!!」

「やれやれ、専用機を持っているからどの程度出来るかと思えば……そんな腕ではそのISは宝の持ち腐れだな」

「それ以上私を馬鹿にする事は許さないぞ……!!!まだ本気を出していないだけだ、お前など私の足元にも及ばない事を知れ!!!」

 

そう言うと「紅椿」は金色の光へと包まれていく。美しい光に包まれていく篠ノ之は勝ち誇ったような表情を浮かべながら笑う。箒はその笑いの意味が分からなかったが相手のSEがどんどん回復している事を確認して納得した。これが彼女の言う本気という事かと。

 

「成程、それがそのISの単一仕様能力と言うわけか」

「そうだ。絢爛舞踏……SEを回復させる事が出来る力だ、これさえあれば私は負けなどしない!!」

「成程、つまりお前を何度でも潰す事が出来ると言うことだな?」

「―――ハッ?」

 

篠ノ之は思わず固まってしまった。SEの回復が可能と言う事は幾らでも持久戦が可能であり、ダメージを受けても即時に回復が可能になると言うことだ。圧倒的な不利になる筈なのに箒は笑いながらそう言ったことに篠ノ之は混乱していた。

 

「とんでもない力かと思えば、ただの回復能力ではないか。その程度、怖くは無いさ。ぶっちゃけ義兄さんとか一夏の方がもっと怖いぞ。つまりだ―――回復が追いつかないほどの攻撃を加えてしまえばそれは無に帰するという事だろう?」

「ッ―――!!?」

「これでも私は攻めが得意でな。試してみたい戦法があったんだ、さあ―――思う存分に行かせて貰うぞっ!!!!」

 

一転攻勢。今までは攻められてきたから返していた箒が攻勢に転じた。両手に握ったブレードで攻め立てていく箒の勢いは留まる事を知らずに篠ノ之はそれらを防御するだけで手一杯になってしまう。

 

「足が止まっているぞ、そこだぁっ!」

「しまっ―――!!!」

 

鋭い一閃が篠ノ之の刀を弾き飛ばしてしまった。思わず刀を取りに行こうと意識を向けた途端、その隙を突いた箒は「瞬時加速」で一気に加速してライダーキックのような一撃を炸裂させた。そのまま地面へと激突した篠ノ之は何とか立ち上がろうとするが目の前にはブレードをシールドから抜き放ちながら、此方を見下ろしているもう一人の自分がいた。鋭い光を放つその瞳に、恐れを抱いた。

 

「さあっ……フィナーレ、という奴だ」

「や、やめっ……!!」

 

鋭い連撃が炸裂して行く。加えて精神を大きく揺さぶられた篠ノ之は満足に「絢爛舞踏」を発動させる事が出来ずにそれを受け続けてSEを枯渇させてしまった。

 

「やれやれ、修行が足りんな」




妻「あれ、箒もライダー汚染受けてる?」

私「汚染言うなや。まあ一夏とカミツレが見てるから一緒に見た程度だよ」

妻「明らかにウィザード的な台詞ありますけど」

私「ノリだ」

妻「ノリですか」

私/妻「ノリならしょうがないよね」

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